酒場にて~ミランダとソアラ~

猫の遊び場にて仕事が休みの日という事もあり旧友と飲みを提案したソアラは、早速と言わんばかりにエールを片手に向かいに座るミランダと乾杯をしている。


「ふふっ、こうしてミランダとサシで飲むのも久しぶりだからテンション上がっちゃうわ!」


「そうだねぇ。お互い忙しかったし会えない時間の方が多かったか」


「そうよぉ?アナタもずーっと彼を探してて大変だったのは分かるけど…ね」


「…未だに生きてると信じるアタシを、笑うかい?」


「笑うわけないじゃない…。あの人も、アナタも笑ったりなんて出来るわけないわ」


互いにエールを飲みながら過去を振り返り苦悶の表情を浮かべる。

過ぎ去った日々はとても淡く、いつまでもその脳裏に過ぎって心を雁字搦めにするのだ。

あの時の選択を幾度後悔しても戻る術はないというのに。


「しんみりしちゃったわね。他の話をしましょ?」


「そうだねぇ…。そういや、あんたの妹…確かミュラと言ったっけ?」


「そうよ?可愛いでしょ!ミュラがどうかした?」


「最近アタシの弟子といい雰囲気らしいけど姉としてどう思ってるんだい?」


「んー…そうねぇ…。まぁ、いい経験にもなるし応援しようと思ってるわよ?」


「おや、やめさせないのかい」


「私が何か言っちゃえば余計燃え上がっちゃうかもしれないでしょ?こういう時は傍観が一番なのよ」


エールを煽るように飲んで樽をテーブルに置くと、ソアラは口元を拭いながらミーナが運んできてくれたコッコの串焼きを口に入れる。

意外そうにソアラを見つめるミランダに軽く手を振りながら話を続ける。


「私も昔、そういう恋をしたから言えるのよ。ダメだと言われる程、意固地になってその人と結ばれてやる!みたいなね」


「経験者は語るって奴かい?」


「ミランダだってそうじゃない!ずーっと彼を思い続けて探してるんだから!…あの人も、ずっと痕跡を探して…ここに辿り着いた時には心が壊れる寸前だったわ」


「柄にもないねぇ…アイツが責任を持つべきことじゃないってのに…」


「そういう男だってアナタがよく知ってるでしょ?」


「まぁね。アタシはとうの昔にアイツを許してるってのにさ」


「会う度に喧嘩しといてよく言うわよねぇ」


追加のお酒を頼みながらソアラとミランダは互いに顔を見合い微笑む。

些細な事を酒のツマミにして話を弾ませながらふとこの街を旅立ってしまった青年を思い出す。


「アイツの事だから暫くは酒場にも来ないかもしれないわね?珍しく弟子なんて持ったりするから」


「ははっ、違いない…って言いたいけど、アタシも自分の弟子が旅立つ時が来たら寂しくなるだろうねぇ」


「絶対寂しくなるわよ?あの子、賑やかだし可愛いもん」


「いつかアンタの妹と一緒に旅に出ちまうかもねぇ」


「やめてよ!そういうこと言うの!言霊ってホントにあるのよ?」


「なんだい、その時は止めるのかい?」


「うっ…止めたいけど、きっと無駄よねぇ…」


「アンタの妹だからねぇ?何かに夢中になると周りが見えなくなるかもよ?」


「くっ、否定できない!ミュラァ!お姉ちゃんは複雑な気分よぉ!!」


テーブルの上に突っ伏してソアラが泣くフリをするのを笑いながらミランダは眺めている。

だが、ミュラと一緒に行くと言うのであればアランはまだまだ未熟であり弱い。

運ばれてきた酒を手に持ちながらミランダは僅かに目を細め、暫し考えた後に突っ伏しているソアラの耳元へと顔を寄せると何事かを囁く。

即座に上体を起こすとソアラは目を輝かせている。


「そうね!そうよね!少しくらい壁になったっていいのよね!」


「やる気が出たようで何よりさね」


「ふっ、ふふふっ!お姉ちゃん頑張っちゃうわよー!!!」


酒場内にソアラの声が響き渡り周りの客がなんだ?どうした?と注目していたが、ミランダは知り合いじゃありませんと平然とした顔でツマミに手を伸ばす。

そういえばと昔に彼がアイツと一緒によく食べたという品を思い出し、通り過ぎようとしたミーナに声を掛け注文する。


「明日から忙しくなるわねぇ…お店も暫く休まないと!」


「アンタが抜けたら大変なんじゃないかい?」


「大丈夫よ。そんなにヤワに育てちゃいないわ!」


「お待たせいたしましたー!チーザとカラマスのマッシュサラダでーす!」


「あら?いつの間に注文してたの?」


「ふと思い出してね。今日はまだまだ飲むんだろう?ツマミが一つ増えたところで問題ないさ」


「それもそうね!ミランダも久々に本気で身体を動かすでしょうし…しっかり英気を蓄えましょ!」


「アンタは二日酔いにならないといいけどねぇ?」


ツマミにも手を伸ばしながら飲むペースが早くなったソアラにやれやれと肩を竦めつつ、マッシュサラダをスプーンで掬い取りミランダは口に運ぶ。

いい塩梅の塩気にまろやかな口触りが癖になりそうな一品だ。


「できれば、一緒に食べたかったねぇ…」


その後も酒場が閉まった後もソアラの家で飲んだのだが、翌日は二人とも二日酔いに悩まされることになる。

暫くして二日酔いが抜けた頃に街へと出ていけば、買い物を楽しむアランとミュラを捕獲すると森や砂地へ連行し一緒に訓練させるミランダとソアラの姿があったらしい。

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