片恋にささくれ

そばあきな

片恋にささくれ

 失恋しても、次の日はいつも通りやってくる。

 そんな当たり前のことに気付いたのは、俺自身が実際に失恋してからのことだった。


 正直、失恋したら少しは泣くかと思っていた。

 けれど実際はそんなことなくて、ただ失恋したことで区切りがついたという、漠然とした達成感が残っただけだった。

 

 失恋して、次の日も変わらず登校して、その相手と顔を合わせて。


 それでも相手に悟られないように振る舞っている俺は、今日も今日とて、失恋相手の真澄ますみと変わらずつるんでいた。


 とはいえ、真澄本人に俺を振ったという自覚はない。


 真澄にとっては、差出人の書いていないラブレターが下駄箱に入っていて、「彼女がいるから」と断ろうにも、相手から音沙汰がないから仕方なく保留にしている告白だ。

 

 書いたのが同性の俺だということは、きっと生涯伝えることはない。


 差出人を書かなかったのは、現状維持のための失恋だったからて、これから先も恋人にはなれないけれど、友達ではいたかったからだった。

 友達としてなら、いつもつるんでいる俺は真澄の友達の中でもかなり高い位置にいるはずだ。


 だから現状維持が望ましい。

 高望みをするべきではない。


 それでもまだ、完全に満ち足りていないと思ってしまうのは。



たつみ、指の皮めくれてるよ」

 隣にいた真澄に言われて視線を移すと、確かに右手の人差し指の皮がめくれてささくれのようになっていた。


 さっきまで痛みは感じていなかったのに、指摘された途端に痛いように感じてくる。

 別の指で触れると、じわりと嫌な痛みが走り、思わず顔をしかめてしまった。


「分かってても言うなよ。言われたら痛くなってきただろ」

「理不尽だなー」


 そう言いながら、真澄が「やるよ」と絆創膏を渡してくれる。

「ありがとう」と受け取ると「どういたしまして」と真澄は笑みを浮かべた。

 相変わらずの優しさに、少し泣きたくなる。


 諦めなければいけない。

 そう思って遠回りに失恋したはずだったのに、まだ完全には諦められていないようだった。


 ――いつかこの痛みも、かさぶたになって治ることはあるだろうか。


 今はまだ、この指のささくれみたいに、まだ触れると痛みを伴うけれど。



 近い日、真澄の隣にいても苦しいと感じないようになりたいと、心から思えた。

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片恋にささくれ そばあきな @sobaakina

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