第一章 ~『後宮の雰囲気』~
仕事を終えた
「まさか
「部屋も隣だし、奇遇なこともあるものね」
「もしかしたら
「え~、でも普通は上司が隣人だと嫌にならない?」
「他の人ならともかく、
偶然か意図してかは分からないものの、
「ただ
「上級女官になるのは私の能力では無理よ。そこに到れるのは一握りの人間だけ。私にはあの厳しい競争を生き残れる気がしないもの」
中級でも過大評価だと、
「
「違うわ。でも注目されている理由には見当がつく。きっとあなたよ」
「私ですか?」
「新人でいきなり中級女官となったでしょ。これは異例なのよ。本来なら下級女官から始まり、下積みを経験してから昇進するの」
「やはり特別扱いされていたのですね」
「とんでもなくね」
中級女官となるには厳しい試験を突破するか、貴人の生まれでなければ手が届かない領域だ。
「給金も少なく、共同部屋での生活を強いられている下級女官の中には、あなたに嫉妬する人もいるでしょうね。贔屓だと噂する者もいるかもしれない。でもね、そんなの気にしなくていいわ」
「どうしてですか?」
「だって黙らせるのなんて簡単だもの。実力を見せつければいいのよ」
妬みは侮りから生まれるものだ。
「
「そうでしょうか……」
「間違いなくね。だって私がそうだったもの……正直、最初は実力を疑っていたわ。でもたった半日で評価を変えさせられた。
「
「私も。
尊敬できる上司に恵まれた幸運に感謝し、
「この匂いは桃饅頭でしょうか……」
「大食堂の看板メニューの一つなのよ。夕飯が決まっていないなら寄っていく?」
「是非! 私、桃饅頭には目がなくて……」
「超人の
「変でしょうか?」
「いえ、むしろ好感が増したわ」
朗らかに笑う
「大食堂へ行くのか?」
「はい。桃饅頭を食べようかと」
「それはいい。ここの桃饅頭は絶品だからな」
「生活にも慣れたようだな」
「おかげさまで。後宮についても少しは詳しくなりました」
「それは重畳だ。ただ後宮で働くなら学ぶことはまだまだたくさんある。より幅広い知識や人脈を得るためのチャンスをやろう」
「チャンスですか?」
「丁度、親睦を深めるための宴が今宵開催される。後宮での立場を築くには、こうした場に顔を出すことも重要だ。そこにお主を招待してやろう」
正直、
「それにな、もしかしたら皇子が顔を出すかもしれないぞ」
「引きこもっていると聞きましたが……」
「それは皇子が流したデマだ」
「なぜそのようなことを?」
「立場の垣根なく人と接したいらしくてな。正体を秘密にして行動する上で都合が良いらしい」
「なるほど……」
見知らぬ青年が後宮を彷徨いていたら、その正体と皇子を紐づける者が現れるかもしれない。
だが引きこもりだと噂を流しておけば、宮殿の外に出ないはずだと思い込み、皇子である可能性を否定してくれる。それがデマを流した狙いなのだという。
「変わった人ですね」
「ただ能力は高い。この国の未来を憂慮する必要がないほどにな」
「ではな。待っているぞ」
「
「
「したくてもできないわ。宴には後宮を統括する立場の人たちや皇族付きの女官たちが集まるの。将来を期待された
出世コースを歩み始めているのだと伝えられるが、
(私、一年の契約なのですけどね)
期間が限られているからと仕事の手を抜くつもりはないが、出世には興味がない。ただ
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