24.スライム VS 一般人?
「カンペー、そっちにいるぞ」
「一般人にやらせることじゃねぇっつうの……」
渡された長剣は振り上げる気にすらならない。
城郭都市ハーディー外周、足首ほどの草が茂る周辺部に目的の存在はいた。
見た目は青々とした粘性の見た目。目も口もなく、生きてるのか死んでないだけなのかよくわからん不定形な
そう、スライムである。
実際に見る奴は、子供の頃にファンタジーで見た可愛らしい見た目のそれではない。
「損した気がする……」
◇ ◇ ◇
遡ること1時間前。
「今日から臨時でこのアh……じゃなくて、副団長の付き人になったカンペーっす、ども」
屈強な肉体の男性陣の前で自己紹介。
突き刺さる視線がどうにも排他的……じゃなくて、何か違う意思を感じる。どいつもこいつもいかにも強いと言わんばかりに胸を張っている。
「カンペー氏は我が友人で医者であるアイナ・グレイの仕事仲間。彼女の頼みで付き人をしながら見学してもらうことになった」
「は? 待て待て、ズボラなお前の監」
話が違うぞとツッコむ瞬間、イヴの両腕が俺の首を絞めた。眼前の男たちに比べれば幾分細い腕のはずが、乱暴に俺の気道を絞める。
「はっはっは! カンペーは冗談が上手い奴でな、気にしないでくれ」
「ぐるじぃ」
「……わたしが目の負傷をしていることは内密にしてくれ」
「な゛ぜぇ?」
「交流戦に乗じてわたしを副団長の座から陥れようとしている奴がいるんだ……それも悩みの種でな。アイナが心配しそうだったからさっきは敢えて言わなかったが。犯人探しに協力してほしい」
……多分心配しないと思う。
酸欠気味で騎士団を見やると、より一層殺気混じりの視線が俺を突き刺していた。
「そんなわけで皆、今日から少しの間だが仲良くしてやってくれ」
オォッー! と威勢の良い声で周囲が揺れる。しかしその目は明らかに敵意がある……なぜ?
◇ ◇ ◇
城郭都市内の治安維持は一般の兵士たち、凶暴な魔物などを討伐するのがハーディー精鋭騎士らしい。例えるなら、一般兵士が警察、精鋭騎士が軍隊。
都市周辺部の安全確保を優先しており、この前冒険者ギルドで話されていたほとんど魔物を狩ったのはアイナの言う通り精鋭騎士の仕事である。交流模擬戦に備えて周辺の安全確保を先にしたということだ。
その為、現在魔物を狩るのが主な騎士団は暇なのだ。
だからこうしてアイナの頼みであるスライムを狩りに来たのだが……肝心の副団長様は目のかゆみと涙で動きが鈍い。護身用として鉄の長剣をわたされたものの、正直重くて持ち上げるのもダルい。
「見た目に惑わされるな、顔に張り付かれたら窒息するぞ」
「ますます俺じゃないほうがいいじゃん……?」
なんでアイナは俺に頼んだんだ? これこそ冒険者ギルドに委託すべき案件だろ……って、魔眼レンズの原料だからあんまり知られたくないのか。
当のスライムは敵意を感じない。それどころか、こちらへ近づく様子もない。
「…………魔眼レンズがあれば蒸発させられるというのに」
「そうやって一日中つけてっから結膜炎になるんでしょうに」
さて、どうしたものか。下手に反撃を受けて悲惨な目には遭いたくない。 金属バットより重い剣を持たされたところで、必殺技なんてないんだが。秘められた力でも解放されないか。
「とにかくやるぞ!」
「やだねぇ、今回の労働条件に戦闘はございませんよ副団長」
「くぅ〜! 目さえなんともなければさっさと切り刻むというのにッ」
どうやら騎士たちの前では我慢していたようだ。忍耐強いのは結構だが、我慢するところが違う。
埒のあかないパンピーのバトル。
と思いきや、背後から1人。鞘走る金属音と共に、草を踏み鳴らす足。一瞬で俺を追い抜くと、目の前のスライムが両断された。
「はぇ〜真っ二つ」
「――付き人とどこへ行くと思ったら雑魚掃除ですか?」
一言で表すなら狐顔。
癖のない黒髪に細い目、やや上がった口角。見るからに怪しい青年は騎士団の格好をしていた。
「ウェイド……なぜここにいる」
「誰?」
「ハーディー精鋭騎士団の三席に当たる人間だ。貴様、今日は非番だろう」
「やだなぁ副団長、騎士団長が不在の中であなたにも何かあったら事でしょ? 念の為に来たんですよ、念の為」
張り付いた笑顔がよく似合う男だ。
『胡散臭い』を擬人化するとこんなかんじなんだろうか。
「しかし……スライムも倒せない人間がいるとは……ぷぷっ、いや失礼」
「……は?」
「気にするなカンペー。こいつは口が悪くてな」
あ、いま煽られたのか。
……ダメだ、顔に信用がなさすぎてセリフすら胡散臭ぇ。絶対裏切るキャラだろ? 絶対今回何かやらかす奴だろ⁉︎ 糸目だぜ?
「コンタクト入れにくそう」
「はい?」
「いや、助かったよ。副団長様がいきなり剣渡してくるからさ」
少しビビりつつ、動かなくなったスライムを木の枝で突く。ブヨブヨした弾力ある表面に枝の先端が返された。
「……ははっ、これは変わった人だ。ボクはウェイド・エッジ。ハーディー精鋭騎士の第三席です、よろしく」
軽口は抑えて、狐顔のウェイドはこちらに手を差し出した。
「カンペーっす、よろしく」
軽く握手を交わすものの、やはり笑顔。初っ端から明らかにおかしな登場をしたせいで疑念しかない。
こいつ犯人だろ。
ともあれ、スライム入手完了だ。
順調でなによりである。このまま楽に行けばいいんだけどな。
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