第3話 リードの研究と実践


 卵をとりに行った次の日、リードは朝はやくに目が覚めた。ベッドのなかで天井を見上げ、ぼんやりと考え事をしていた。

 昨日帰ってから、ずっとくすぶりつづけている感覚について考えていた。


 テントでうけた至福の時間──忘れられない経験だった。

 自分の身体のなかに、あんなにすごい快感があるなんて知らなかった。


 またしたい。またしてほしい。感じたい。感じ切りたい。


 そういう望みがわき水のごとく心のなかにあふれでてくる。思い出すだけで股間に微弱な快感がはしる。

 しかし自分で触れてみても、あの強烈な快感はひき出せなかった。いくら考えてもやりかたがわからなかった。


「……どうしてぇ」


 いくら考え続けてもわからないので、もやもやとしたフラストレーションが溜まってゆく。確かにあるのに、たどりつく方法がわからない。

 確かに存在する真理をもとめる哲学者のごとく、悩みつづけた。

 仕事がはじまってからも気をとられてしまう。


 仕事のあいまあいまに、実験をした。

 太もものあいだにハンマーの持ち手をはさんでみた。

 それを太ももでぎゅっぎゅと圧迫してみたのだが、気持ちよさはなかった。ただ触れている感覚が上滑りしていった。

 リードはハンマーを持ちあげて、首をかしげた。

 

(やりかたがまちがってるの?)


 今度は槌の部分を股間にあてたが、結果はおなじ。

 冷たいだけで何も変化なし。もどかしさだけがつのり、逆に不快だった。


 ただ刺激するだけではいけないとわかる。

 しかしその次にゆく方法がわからない。

 リードはなんとか快楽を再現しようと、机のかどに股間をあてて体重をかけ、前後にこすってみたりした。


 しかし透明な壁にはばまれているように、ひとりで作り出した刺激は気持ちよさが低すぎた。ストレッチでからだをのばした気持ちよさ程度だ。


「なんで。へんなの」


 何を動かしても、どのように触れても、テラノヴァがくれた至福とは無関係。

 身体は以前とかわらず健全な肉体のまま。

 こころだけが、快楽でただれている。

 

 至福にいたるためには、他人に与えてもらわないといけないのだろうか?

 差異を確かめるため、実験をする。

 ハンマーを振りあげ、爪が割れない程度のちからで左手の小指をたたいた。


「いたいっ! うぅぅ~~~~」


 当たりまえだが痛かった。圧迫された小指がじくじくと痛む。

 リードは怒りながら我慢し、感情を分析した。


 ハンマーで自分を殴ると痛い。身体の痛みに引っ張られて、心のなかに怒りがわいた。涙も流れる。

 これは自分一人で起こした刺激でまちがいない。


 リードは小指をさすりながらうなずいた。身体と心はたしかに連動している。

 指先は内出血でむらさきになっている。


 身体が痛くて、心も痛い。

 これがハンマーのかわりに例えば石を使っても、金属の棒でも、固めた自分の拳でも、おなじだけの痛みをつくりだせるだろう。


 では他人に殴られた場合は?

 父親に頼んでもおそらく痛いだろう。

 感情は──リードは何かをつかんだ気がした。


「あっ、もしかして、人によってちがう?」


 父親に殴られたら、怒りよりも怖さや悲しみを感じてしまう。


 そういう経験は実感があった。

 見知らぬ客が店に入ってきたら、強盗かもしれないと緊張する。それが知り合いだったら警戒しない。父親だったら当たりまえで何の感情も動かない。友達だったらうれしい。テラノヴァだったらもっとうれしい。


「そっか、そうなんだ」


 他人から受けとる情報によって、心の動きは変わる。そうなると快楽もおそらく、信頼している他人から与えられないと、再現できない。

 もっと確かめたい。

 リードは甲殻をみがいている父親のそばに行った。膝当て用の黒色甲殻は、革のベルトがはられて、完成間近であった。


「お父さん」

「なんだ」

「3回あたまをなでて」

「ああ? 髪にゴミでもはいったか?」


 父親は体躯たいくに似合わない繊細なうごきで、あたまをなでてくれた。ごつごつした手で髪をすかれ、ゆっくりなでつけられる。

 くすぐったいが、きもちいい。


「何もないぞ。仕事にもどれ」

「うん」

 

 リードは自分の場所にもどった。

 自分であたまをなでても、なんとも思わないが、父親にされると心地よかった。

 テラノヴァにあたまを撫でられると、もっと気持ちよかった。股間がとろけそうなほどうずいて、あたまが真っ白になった。


 自分一人でつくり出せる感情と、他のひとが生み出した刺激をうけとって、そこから発生する感情は、種類が変わり、おおきさの比重も変わる。

 そのごく当たりまえの事実に気づいた。


 快感をふたたび得るためには、テラノヴァの存在が必要だったのだ。ひとりではダメ。ソロでは手に入らないと理解してしまった。


「……」


 理解すると悲しくなった。


「会いたい……」


 仕事が遅くなる。甲殻をみがく作業がおざなりになった。薬液をぬってもムラができた。


 今まではモノづくりに注がれていた興味が、べつの対象にそれている。


 父親のシレンも何かに気を取られていると気づいてしまった。

 できのわるい甲殻処理を見せると、説教を受けてしまった。

 

「気をそらすと事故が起こる。しっかりせんか」

「うん……」

「心配事でもあるのか?」

「うん……あのね、そとで遊んで楽しかったよ。また行きたいなってずーっと考えてた」

「そんなに卵探しが楽しかったのか? ただの遠出だろうが」

「キャンプもしたよ。テントのなかでご飯を食べて、お茶を飲んで、ほかにもね──」


 ただ楽しかった記憶を話しつづけると、父親はとちゅうから作業にもどり、話半分できいていた。

 甲殻の棘をならす作業はまだまだ時間がかかる。納期もせまっている。


「そうか」


 リードは話を続けたが、作業に集中しているシレンは、たいせつな言葉を聞きのがしていた。

 あたまをつかまれて幸せだったとか、きもちよくて真っ白になったとか、身体が溶けそうだったとか、具体的な名称は言っていないが、あきらかに絶頂を示唆しさしていた。


「わかったわかった。気合をいれろ。仕事は仕事、遊びは遊びだ。こんなありさまじゃ、外出を禁止するぞ」

「うん。がんばる」


 父親の言葉の成分は、罪悪感と、悲しみと、恥ずかしさと、わずかなうれしさの感情をつくり出した。


 その日の夜、店にテラノヴァがやって来た。

 リードは半分寝ていたが、声をきいて飛び起きた。入り口に走る。

 玄関ではいつものように黒いマントを羽織ったテラノヴァが、父親と話しあっていた。

 会話の邪魔をすると怒られるが、我慢できなかったので、寝巻のまま小走りに近寄り、横から抱きついた。


「……なにをしている。寝ていろ」

「やー」


 首を振ってつよく抱きつく。服のうえからでも、心地よい魔力の流れが分かる。あのとき感じた至福に似ている。

 冬のさなかに、たき火にあたったように、心地よい熱が伝わってきた。


「邪魔をするな」

「やだー」


 父親に引きはがされた。心地よさが去っていった。


「お話を続けてもいいですか?」

「ああ、悪かった」


 リードは仕事の話をしているふたりの様子をうかがっていた。身体は睡眠を欲しているが、心は声をきいて快感を思いだしたがっていた。


「森のむこうはかなり危険だぞ」

「はい。でもほしい素材はそこにしかありません」

「依頼をだせ。専門家に頼めば危険はない」

「お金をためているので……」


「いい加減にしないと早死にするぞ。自分だけは大丈夫ってやつは何人もみたが、半分は野垂れ死にだ。そろそろ無茶はやめたらどうだ」

「いえ、まだ決まってはいませんが、いきます」

「まったく、死にたいとしか思えん」


 シレンはぶつぶつと小言を言って、話が終わった。

 帰り際、テラノヴァにむけて手を振ったら、振りかえしてくれた。


「ん……」


 わずかに快楽がはしり、胸が暖かくなり、もどかしさが消えた。快感が発生するトリガーを理解できた。

 次にあったときは、絶対に頼もう。またやってもらおう。そう決めた。



   #


 直接のおねだりを聞かされ、テラノヴァは赤面して考えこんだ。

 そこまで他人に影響をおよぼしてしまい、しかもそれが性的なことがら。とんでもない人生経験をあたえてしまったのではないかと、からだをちいさくして反省した。


「だから、テラノヴァの家にいきたい。いい?」

「……」


『ここまで言われて断るやつはいねーよなぁ?』

『すげぇ据え膳じゃん。俺だったらこの場で食べるわ』

『はやく連れ帰れよ。なにしてんだよ風邪ひくだろうが下半身が寒いんだぞこっちは』


 月の人からの低俗極まるコメントは、ただしい行動をしめしていた。さすがにサウナで事をはじめる勇気はなかった。


「わかりました。来てください」

「やった。うれしい!」


 きらきらとした目で見つめてくるので、ついキスをしてしまった。唇がやわらかかった。


「これだけできもちいい……」


 顔を離したとき、リードはそういった。


『いいぞ! いいぞ!』

『こりゃ期待できそうだな。準備するか』


 サウナからでた二人は途中で乾物店によって、干した果物を何種類かと、お茶の葉を買った。 

 さらに途中の店でコップとお皿、スプーンなども買う。テラノヴァの家は完全に一人用に特化しているため、客用の食器が全くなかった。

 大通りをはずれて、さみしい住宅街をとおる。

 

「ここです」

「おっきい家!」


 市壁のちかくにある大きな家は、庭には草がはえ、外壁は古く、つたがはっている。手入れがされていないので老朽化して見えた。ここはもともと貴族の家だったが、内部で何人も死体が見つかり、その貴族も死んでしまった。

 評判がわるく地価がさがりにさがったので、テラノヴァはそれを安くゆずり受けたのだった。


 入り口のすぐそばの部屋が寝室だった。年中鎧戸を閉めているので、なかは真っ暗、テラノヴァは魔石ランプを点けた。大きなベッドとテーブル、クローゼットが照らし出された。


「ベッドもおっきい。でもほとんど帰らないんだよね。もったいない」

「はい」


 テーブルには読みかけの本が置かれ、羊皮紙が何枚も散らばっている。

 

「ベッドにすわってもいい?」

「自由にしてください」


 家のおおきさに気後れしていたリードは、よくはずむベッドにのってなんどもお尻でジャンプし、そのうち寝転がりはじめた。

 荷物をほどいてお茶の準備をする。

 テーブルにわずかに残ったあいている場所をひろげる。積みあげた本が何冊かおちていった。


 飲みものとお菓子でしばらく雑談をした。


 ペンギン狩りの話になったとき、ぎこちなさの理由をたずねた。


「ちからが強くってこわかったから……知らないひとに見えたの」

「知らないひと?」

「うん。いつもやさしいのに、あのときはこわかった」

「──べつの一面を見てしまい、信頼できなくなったという意味ですか?」


 二面性で恐れられてしまった。

 テラノヴァは確認するための自分のことばで傷ついていた。リードは数少ない友達で、つきあいが長いため、ネガティブな感情をもってほしくない。


「んー、んー……そう、かも? いっしょにペンギンをたおしたのに、いっぱい手伝ってもらったのに、魔法がこわかったから……わたしも殺されるかもっておもっちゃった」


「怖がらせてすみません。あのときはあたまに血がのぼりました。かわいいリードさんに怪我をさせた魔物を、許せませんでした。リードさんを危ない目にあわせてしまった自分にも、腹がたちました」

「かわいいって……えへへ」

「リードさんはかわいいです」


 見つめあうと目をそらして照れていた。そのうち小声でおねだりされて、テラノヴァは立ちあがった。


 棚に並んでいるふたなりポーションをとり、そのままのみほす。下着のなかでむずむずとした感覚が起こる。


「う……」


 前回は気づかなかったが、肉体が変化してゆくとき、腰の骨にむずがゆさがある。魔力が流れる中央脈管になんらかの影響を起こしているのかもしれない。

 リードはもう脱いでベッドにいた。両手をひろげて幸せそうに笑っている。


「きてーいっぱいさわって」


 かまってほしくてたまらないペットのような仕草だった。



 しばらくあと。

 本日2本目のポーションを持ってくる。


「これを飲んでください。体力が回復します」


 あたまをもちあげて膝枕をして、スタミナ回復のポーションを飲ませる。


「んく、んく、んく」


 消耗しきっていたリードの目に、かがやきが戻ってくる。何度まばたきして、はっきりとテラノヴァをみた。


「我慢したあとの絶頂はどうでしたか?」

「ん……すっごく気持ちよくて、でも、ぜんぜんおぼえてない……気持ちいいしかなかったの。あのね、ちょっと怖かった」

「どうしてですか?」

「んー、んんーー……だって、ふわーってなって、いっぱいになって、なにも考えられなくなったもん。でも……またやってね?」


 リードは怒っていなかった。すねたポーズをしているが、途中からもとにもどり、最後はあまえた。


「ねえ、わたしだけじゃなくて、テラノヴァを気持ちよくするのは、どうしたいいの? まえみたいに手でする?」

「べつの方法もあるのですが、試してもいいですか?」

「いいよ」

「リードさんも気持ちよくなれるはずですが、最初は痛いかもしれません。それでもいいですか?」

「いい。して」

「これをリードさんの膣内なかにいれます」


 股間にはえた疑似ペニスは、すでに完全勃起している。

 すべすべしたお腹のうえに乗せてみると、すべて入れると膣口からへその下まで入る計算になった。


「はいるかな?」

「膣は伸びるらしいですが、それでも半分もはいりません」

「でもいれると気持ちいいんだよね……していいよ」

「ではまずは、脚をもちあげてください」

「こう?」

「たぶん……」



 両脚をたかくあげ、手でささえてもらう。ぷっくりとした割れ目がよく見える。

 


「たくさん濡れてるから、きっと平気です。いきます」

「うん」


 何もわかっていない相手に、してもいいのかと躊躇したが、男性化した脳はやれと命令してくる。

 我慢汁を垂れ流している先端は、はやくあるべき場所に入りたいと主張していた。


 幼いいりぐちに亀頭をあてがう。確かこれでいいはず。

 腰をつき出すが、すべってうまく入らない。

 先端が尖ったクリトリスをこすっていった。もう一度繰り返すが、今度もおなじ。


「あれ、なんで……」

「どうしたの?」

「うまくできません。やりかたが悪いのかもしれません」


 脚をおろしてもらい、腰にまわしてもらう。

 太ももをおさえて身体にひきよせる。脚を固定して、再度挿入を試みた。それも滑るだけ。しっかりとあてがわないと幼膣には入らない。


 何度目かの挑戦のあと、幸運が訪れた。

 もっと刺激してほしくて、尻を浮かせたリードと、偶然下方向にベクトルがかかったペニスは、膣口をまっすぐ目指して進んだ。


「いっ……!」

「うわ……」


 テラノヴァは思わず声を出した。

 ペニスがにゅぶにゅぶと暖かい内部に包まれてゆく。すぐに処女膜にあたった。

 異物をはじき返そうとする力が亀頭の侵入を防いでいる。それに押し付ける。巨大な肉棒で、膣道と膜が広がる。


「んっぅ! 痛いっ! 痛いよぉ!」

 

 まだ2センチも入っていない。リードは腰をひいて逃げようとしている。


「動かないでください」 

「痛い、痛いよ……やめて……おねがい……んっ……んううっ……」

 

 ぐいぐいと押しつけるが、そのぶんだけ逃げられてしまう。


『強姦みたいだ』

『無理やりはよくないぞ』

『はやくレイプしろ!』


 安全テントの中には、汗と、精液と、リードの体臭が充満していた。その香りは情交を煽っていたが、リードの泣き顔と、低俗コメントが、思考の片隅にあった冷静な部分をおもいださせた。


 男性機能の確認はたいせつだが、その過程で強引にあいてを傷つけ、友人であるリードに嫌われてしまったら、何の意味もない。

 テラノヴァは腰を引いて、ペニスを外した。わずかに血がついていた。

 処女膜にわずかに亀裂がはいっていた。


 ぐずるリードを抱いて背中をさする。


「ごめんなさい。無理やりはよくないです」

「ううっ、うっ……うー……」

「もうしませんから、泣かないでください」

「しない? ぜったいしない?」

「はい。今日はやめましょう」

「ううう……やくそくだよ」


リードは獣人のようにうなっていたが、背中をなで、あたまをなで、太ももをまさぐっていると、やがて大人しくなった。

 なでつけていると、リードは胸に抱きつき、おでこをすりつけてきた。やわらかい白い髪をなでてやり、どうすれば挿入できるか相談した。


(うまくいきませんでした。ペニスがおおきすぎました。これでは物理的に不可能です)


『成長するまで待つんだな』

『お尻を使えばいい』

『なんで無理やりやらないんだよ。入れようと思えば入る』


(傷つけたくありませんから、無理やりはなしです)


 月の人は意外と意見をいってくれた。

 潤滑を増やす、孔を広げる、ペニスを小さくする、リードの身体を大人にする、テラノヴァが子供になる、痛みを感じなくさせる等々。


 それはポーションの配合で解決できる糸口があった。

 素材の在庫や入手経路、作成時間をシミュレートする。

 テラノヴァはあいてを落ちつかせるための愛撫中に、別の考えごとをしていた。


「ねえ。何考えてるの?」

「えっ、どうすればいいのか考えてました。どう解決すればいいと思いますか?」

「なにが? わかんないよ」

「はい」


 上の空の返事だった。リードが片方のほほをふくらませた。気を入れていないとまるわかりだった。

 そのうちリードは魔力にあてられ、自分の快感を追っていた。身体のうえにまたがってきた。

 ペニスのうえに陰裂をのせて、前後に動かしている。意図せずに素股をおこなっていた。


「あううぅ……これすき。すき。すき……」


 ペニスを使った自慰に近いだろう。クリトリスを竿で刺激して、快感をむさぼっている。


 「いっ……いいいっ……!」


 すぐに果てて、倒れこむ。数分の余韻に浸った後は、ふたたび乗ってからだを動かす。そしてまた絶頂に導かれる。

 おざなりに愛撫しながら考えこむテラノヴァと、自慰にひたるリード。

 ふたりともひとりよがりで、ある意味で協調性が取れていると言えるだろう。

 

 そのうちテラノヴァも興奮してきた。あまい声と体温を感じつづけていると、自分も吐き出したくなった。


「ちょっと立ってください」

「いいよ」


 リードの身体の前後をいれかえて起きあがらせる。よつんばいにさせ、太もものあいだに疑似ペニスを差しこむ。

 愛液でぬれた太もものあいだは、十分にせまく使えた。腰をつかんで往復。太もものあいだを犯す。


「このかっこう……はずかしい、かも」

「もうすこしだけ使わせてください」

「……んー、わかった……」


 潤滑された肉のあいだは気持ちよかった。リードは太ももをせばめて、刺激をつよくしてくれた。大陰唇のふっくらとした感触もいい。後ろからおなかを抱きしめ、耳を噛む。背中に舌をはわせ、ふたたび腰をうちつける。

 お尻がぱつぱつと音をたてた。すべすべとした肉の弾力をかんじる。

 すぐに欲望があがってきた。


「うっ、う、射精ます……!」


 はげしく動かして刺激をあたえ、ペニスをひきぬいた。ずきんと快感がはしり、リードの背中とお尻に、白濁液がふりそそいだ。


「あつい……」


 テラノヴァはしばらく返事もできなかった。男女二人分の快感が押し寄せおしよせ、あたまが痛いほど気持ちよかった。

 疑似ペニスはまだちからを失わず、精液まみれのお尻のうえでそそり立っていた。


「お風呂に入ったのに、よごれちゃった」

「あの……もういちど使わせてもらっていいですか?」

「えっ、うん。いいよ」


 その日、夜が明けるまで交わり続けた。途中でポーションを飲み体力を復活させ、挿入こそしなかったが、フェラをしてもらったり、自慰を見てもらったり、お礼に舌で奉仕したりした。


 終わったあとはからだを拭いてから、もう一度湯屋に行き、清めてからリードの家に送った。

 朝帰りでいい顔はされなかったが、ペンギンの肉と脂肪を父親にわたすと喜ばれた。

 家にもどり、仮眠をするときになり、テラノヴァは配信を切った。


「これで終わりです」


『お疲れ。よかった』

『つぎは最後までできるといいな』

『乙。かわいかったから2回抜いた』

『前でできなくてもお尻の穴があるから、次はそっちでしてくれ。俺はそっちのほうがすき』


「お尻……」


 男同士の小説に出てくる、肛門性交をやれと言っているのだろうか。新しい知見をえたが、膣以上に怒りを買う気がした。


「そこはもっと嫌がられると思います。説得するいい方法がありますか?」


『ポーションの実験だって言え』

『好きだから全部を愛したいって言えばいける』

『無理やりやって気持ちよくさせて誤魔化せ』


「民度が低いです……」


『エロ配信の視聴者層はこんなだぞ。もっとお上品な配信をしてから言え』

『笑った』

『あなたは真摯に実験をしているつもりかもしれないけど、相手が小柄だから犯罪行為にしか見えない』

『明日は何を食べるの』


「えっ、明日は──」


 そのまま10分程度、月の人と話しこんでしまった。ピロートークだとコメントで指摘され、蛮地にいる異星人とそのような会話をしている自分を恥じた。


『登録者が3000人増えました。おめでとうございます!』

『収益化機能が解禁されました!』


「収益化……?」


『あなたの配信で金銭を得られます。月の人がお金を支払ってあなたに還元されます』


 配信後、魔導模造生命マギ・シュミラクラがそう伝えてきた。祝福されたが、何を喜んでいいのか分からなかった。

 蛮地にすむ月の人はおそらく物々交換で経済を回しているので、貨幣は理解できないはずだ。羽飾りのついた槍でも送ってくるのだろうか。

 特に興味がないので無視した。


 数時間後、出勤しようとしたテラノヴァは、玄関のまえに置かれたちいさな木箱に気づいた。

 誰かが呪いをかけてきたのかと、解呪を唱えたが反応はない。


 動物の生首や、蟲毒で勝ち残った蟲が入っているのかとおびえながらふたを開くと、一枚の紙と、その下に銀貨がみっしり詰まっていた。

 紙には共通語で、前回の保存された配信に贈られた金銭の金額、送った月の人の名前、コメントがかかれていた。


「えぇー……」


 一方通行だと思っていたら、現実に干渉してきた。

 逆に月の人に、映像以外も送れるのだろうか。配信球を起動して聞いてみた。


「こちらから、月の人にお金や荷物を送れますか?」


『できません。受け取るだけです』


「そうですか。月の人にこちらからお金は送れますか?」


『できません』


「では荷物は送れますか?」


『できません』


 なんどかおなじ質問をしたが、すべて拒否された。

 テラノヴァはかばんにお金を投げこんで、職場にむかった。

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