美古都のささくれ
神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)
第1話 ささくれガール
「このお菓子のフィルムをはがすためのテープ。ささくれみたいじゃない? ふふっ」
思わず上げそうになった悲鳴をすんでのところで飲み込む。そして、改めて美古都パイセンまわりの本を確認すると。
駄目だ、花村萬月まつり開催中だ!
「うちの子は嫌なことがあると、花村萬月作品を読みます」とは、育ての親である
その時、私はこう返してやった。「私、ブチギレている人がいても、戦力外ですよ」と。「だろうね」と返されたものだっけ。
「そして、十中八九、その原因は
悪原水折は、美古都パイセンの同級生である。
美古都パイセンが京都のほうの大学へ行くと決めたので、悪原嬢は迷いなく東京を代表する大学ということを英語で意味するところへと進学したのだった。
だったら、良かったねとはならないのである。
「あの子、多分、美古都のことが好きだよね」とは、義理の両親の総意である。それを指摘すると、美古都パイセンは不機嫌になるのだ。
正直、美古都パイセンまわりは、つっこみどころだらけである。
まず、ある時、美古都パイセンが、
美古都パイセンにしてみたら、石矢氏はそれこそ自分が産まれる前から側にいた。産後すぐに母が亡くなり、まさしく石矢氏は「かっちゃ」だった。
「男の人なのに、『かっちゃ』なんて変なの」
たこ殴りである。それから、美古都パイセンは、「お父さん」、「世津奈」と呼ぶようになったらしい。
それからも、悪原嬢は秘密の暴露を続けた。
「美古都は作文が上手だな。さすが、小説家の息子だ」とほめた先生に向かって。
「そんな訳ないよ。だって、本当のお父さんじゃないもの」と。にやりと笑う悪原嬢。
「好きな男から無視されるくらいなら、殴られたほうがマシという思考回路ですか。小学生なのに、ヘビーだなあ」
「うん。実際、美古都から何されても、文句言われなかったしね。親にも口出しさせなかったんだろうよ」
やがて、二人は
三木高の文芸部は、全国でも有名な強豪である。坂木秀明氏も、幽霊部員ではあったがかつて在籍していた。
その昔、坂木秀明氏は文芸部代表として、文藝誌で小説の連載をしていた。その息子がめでたく文芸部に入部した。
「ああ、それで、美古都さんも…」
「で、悪原さんも同時連載してたんだよね」
こんな面白設定、出版社が放っておく訳ないよ…。
最後に、坂木秀明氏は、耳打ちした。
「そろそろ悪原さんの探偵小説が出版されそうなんだ。だから、カバー絵頼まれても全力で断ってね」
「へ?」
私に来る訳ないじゃん。と思ったら…。
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