第39話 ステンドグラス

「なにそわそわしてるの、スー」


「だって、アモスにアレ見てほしいんだもん」


「ハハハ、そうか。礼拝室のステンドグラスはスーのお気に入りだもんな」


 家族の会話に、アモスは首をひねっている。案の定、ステンドグラスがどういうものであるのか、分かっていないようであった。


「そんなに急がなくてもすぐ見えるから大丈夫よ……ほら」


 礼拝室に至る両開きの扉は、人通りの多さのせいか開けっ放しであった。そこを通り過ぎてから、ゾーイが空間の上の方を指差す。


「うわ、すごい」


「でしょー?」


 思わず感嘆の声をもらすアモスへ、スーは得意げに笑いかける。


 それは、天の神が雲に乗って、地上へ降り立つさまを描いたものだった。大きな黄色い丸で示された後光を背負い、両手を広げる長髪長髯     ちょうぜんの創造神。その両の足元にはラッパを吹く天使が三対いた。さらに下を見ると、神の栄光を称えるようにたくさんの市民が頭上を仰ぎ見ている。


「大きい絵……」


「これがステンドグラスよ。外の光を受けて、絵そのものが光って見えるでしょ?」


「うん……初めて見た。なんか、すごいね」


 しかし、ステンドグラスが最も良く見える席は、すでにあらかた埋まってしまっていた。仕方なくスーたちは父の先導に従い、一番前の席に座る。


「ここじゃみにくいよ。首が疲れちゃう」


「仕方ないだろう。いつもの場所は埋まってるんだし」


「なんで今日に限ってあそこ座られてるんだろう? 嫌だなあ」


「そう言うな。別にあそこが俺たちの席だと決まっているわけじゃないんだから」


「ゴメンね、アモス。せっかく教会に来たのに」


「いいよ、全然」


「スー。教会のメインは礼拝だ。そこは忘れるなよ」


「分かってるって」


 ここからだとステンドグラスをかなり見上げる形になってしまう。加えて、司祭が礼拝時に陣取る教壇がすぐ目の前にあるため、変な緊張感があった。


 しかし、


「大きい……」


 圧倒されたようにステンドグラスを見上げるアモスを見ていると、スーの心も少しずつ落ち着いてきた。


(ま……いっか。気に入ってくれたみたいだし……)


 スーは、アモスの横顔を見ながらかすかに笑う。少しの間でも、彼の心を癒すことができたのなら、それは彼女にとっても喜びだった。

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