第38話 多忙なる司祭様
ふかし芋1個の質素な朝食を終え、いよいよ教会に向かう。
「あなた、足は大丈夫ですか?」
「ああ。今日は調子がいい」
何時間も歩くには適さない体にもかかわらず、エドはその疲れを微塵も顔に出さない。多分、気を使っているのだろうけど、あまりにも普段と変わらないため、実は本当に疲れを知らない人なのかもしれないと思う時もある。
「……ねえ、スー」
その時、アモスが不意に声をかけてきた。スーはエドから視線を外し、隣の弟分を見る。
「司祭様って……怖い人?」
その声は、少し震えていた。切り出しにくい話を持っているのは、もはや明白だった。
スーはできるだけ優しい笑顔をつとめて作り、静かに語りかけた。
「ううん、とっても優しい人よ。だから、いいアモス? すべてを、正直に告白するのよ。あんたまだ子供なんだから、許されないなんてことは絶対にないはずよ」
「本当……かな?」
「もちろん。そりゃあ、内容によっては何か償いをしないといけないことだってあるかもしれないけど……一番大切なのは、あなたが司祭様にすべてを話すこと、だからね」
「大丈夫よ。わたしたちはあんたの味方だから。安心して全部話しちゃいなさい。その方が、あんたも楽になるわよ、アモス」
「……」
しかし、どれだけ言葉を尽くしても、彼から不安が消え去る様子は見えなかった。スーはさらに何か言おうかと考えたが、すぐに思い直してそれをやめた。
ここでわたしが何を言っても、この子の心は変えられない。だったら母の言う通り、司祭様に委ねよう。
口で語るのをやめたスーは、代わりにアモスの肩に手を置く。
『安心していいんだよ』
その一言が伝わらないもどかしさを、彼女は感じていた。
教会に到着すると、いつも通りかなりの人でごった返していた。早く着いたもののまだ礼拝室の席に座る気のない来訪者たちが、入口付近で歓談しているのだ。
そんな人混みをかき分けて、スーたちはエントランスの受付へ向かう。黒茶色の修道服を着た若い修道士が、にこやかに名前を確認しながら次々と記帳していた。
「エドさん、お元気そうでなによりです。足の調子はどうですか?」
「今日は比較的マシかな?」
「そちらのお子様は初めてですね。血縁の方でいらっしゃいますか?」
「いや、それなんだが……この子、ウチの牧場近くで倒れていたんだ」
修道士が真顔になり、エドの双眼を凝視する。
「それはそれは……」
「この子をどうしたら良いか、司祭様に相談したかったんだが、大丈夫かな?」
「そうですね。今からですとちょっと難しいですので、礼拝が終わってからになると思いますけれども、それでもよろしいですか?」
「そうか、やっぱり礼拝前だと無理か……」
「すみません。今、色々と儀式をおこなっております故」
「いや、分かった。じゃあすまないが、礼拝後という形で取り次ぎを頼んでもいいかな?」
「かしこまりました。では、記帳をいたしますので、お名前をいただきます」
「エド、ゾーイ、スー。それからこっちのは、アモスだ」
修道士が4人分の名前を名簿に書き込むのを確認して、スーはエントランスから礼拝室に向かう。時間には余裕があったが、彼女には一刻も早くそこへ向かう理由があった。
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