第5章 礼拝

第35話 教会へ

 月が改まって紫の月の1日。教会へ行く日となった。本来なら週に一度、七曜日の午前中に教会へ足を運ぶのが筋なのだが、スーのような教会から離れたところに住んでいる人々に対して、月に一度の礼拝を特別に許可されていた。


 その場合、曜日は関係なく月の初日に来るように言われている。つまり今日は六曜日だが、教会に行くのは明日ではなく今日となるのだ。


 正装を持たないスーの一家は、一番みすぼらしく見えない格好を選び、袖を通す。礼拝用の服装は普段着ないものなので、心なしか一家の機嫌も良くなる。


 しかし困ったのはアモスである。かつてジャックが着ていたものはすべて処分してしまっていたため、彼が身にまとえるのは今着ているボロボロのチュニックのみなのだ。


「仕方がない。このまま行こう」


「あの……僕、ここで待っててもいいですよ」


「そうはいかない。今日は君のことを司祭様に相談しに行く日でもあるんだ。アモス君が来てくれないと、我々としても困ってしまう」


「……大丈夫だよ。教会は聖なる場所だ。君に危害が加わるようなことは絶対ない。安心しなさい」


「……」


 含みのある沈黙は、どうにもスーを不安にさせる。が、アモスが首を縦に振ってくれたので、とりあえず良しとした……本当に、小さな頷きであったが。


 日も登りきらない暁の頃に、4人は家を出た。エドを先頭にして、教会を目指す。まだ暗いが、ランプは持っていかない。結局すぐ明るくなって、邪魔になるからだ。


「朝早くからごめんね、アモス」


「ううん、大丈夫だよ」


 1区のある位置とは逆の方向に、一行は向かう。西へ歩いていくと、徐々に太陽が追いかけるようにして、スーたちの背中を温めだす。


 少し行くと、2区が見えてきた。1区と比べると荒れ具合は顕著で、小さな枯れ木や枯れ草が冬の冷たい風に晒されている。


「こうして見ると……やっぱり、1区よりちょっと狭いね」


「1区が一番広いからね」


 アモスの問いにスーは答えた。今となっては消えかかっているが、2区は真ん中に小道が1本走っており、これを行くとその先に3区と4区がある。本来は非常に広い一画だが、ハナモギマツの群生がそれを三つに区切るような形になっていた。


「ねえ。この松って、後から植えたものなの?」


 おとなしそうな見た目とは裏腹に、訊きたいことは溜め込まずに訊いてくるタイプのようだ。スーは足を止めないままアモスの方へ顔を向けると、にっこりと微笑んだ。


「そうだな」


 しかし、彼女が口を開くよりも先にエドが返す。杖を使って歩いているためか、その背中は不自然に横に揺れていた。


「ハナモギマツは俺の親父……つまり、スーの爺ちゃんが最初に植樹したんだ。アレはここらに生えてる植物のなかで、唯一ヤギが口にしないものだからな。あいつらを管理するのにはちょうどいいんだよ」


 一切振り向かないまま、エドは答えた。スーはなんとなく機嫌が悪くなり、口をとがらせて黙る。


 スーとアモスの目が合った。両の口角が妙に近寄ったその表情がおかしかったのか、アモスはクスリと笑った。


「なによ。普段あんまり笑わないくせに、こーいう時は笑うの?」

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