40 不明瞭な策略
「はぁ……はぁ……な、らんぼのもんだ……そんな程度で、ふへぇ……」
「あの時のムトみたいなことになってる……」
強がっているが、ラプタの着ていた服はチッチョ以上に乱れている。獣人以上に動物に近い体の構造をしているからこそ、翔のモフりに耐えられる上限が低かったのかもしれないなと翔は思った。
「だいぶんとノリノリだったなお前……」
そんな翔の後ろでムトが呟く。その声に反応して振り返った翔は、まるでさっきまでの遠慮が嘘みたいなように満面の笑みを浮かべていた。
「昔さ、友達のフェレットを触らせてもらったことがあったんだけど、そん時に撫ですぎてそのフェレットがめちゃくちゃ俺に懐いちゃったんだよね」
「……何の話だ?」
「いや、友達に全然なつかなかったフェレットが俺に懐いたことで友達がブチギレちゃって、それ以来触れてなかったんだけど、あぁ、こんな感じだったなぁって思ってさ」
そんなことを笑顔で言うものだから、ムトは完全に引いていた。
そんな二人を尻目に、カルラはしかし怯えた様子を見せてはいなかった。
「次は私の番かい? お手柔らかに頼むよ」
その様子は縛られており仲間が二人とも陥落寸前といった様子であるにもかかわらず、まるでプールに浮かぶエアベッドでくつろいでいるように落ち着いていた。
「で、次はあの狼の女の人をやればいいと」
「いや、アレはやるな」
翔が近寄ろうとしたその肩をムトはしっかりと掴んだ。
「必要な情報ならこっち二人から聞き出せる」
「なら、もうこれで終わり?」
「いや、まだ最後の大仕事が残っているからな。お前も手伝ってもらうぞ」
そう言うとムトはぐったりした二人を乗せたベッドに触れると、指を鳴らした。瞬間、ベッドが二つともどこかに消えてしまう。
「チッチョとラプタを殺そうってかい? はっ! 私らを野蛮だ何だって言う割には、あんたたちもそうじゃないか! 私がそれに屈すると思うなよ!」
「……そうなの?」
「いや、私はそんなことはしていない。二人から情報を引き出すためにあの女から隔離しただけさ。じゃあ、私は情報を引き出してくるからカケル、あとは頼んだぞ」
ムトがもう一度指を鳴らすと、その瞬間ムトの姿は地下室から消えて無くなってしまった。光がゆっくりとゆらめく中、翔は一人縛られたカルラの前に取り残される。
「いや、頼んだって言われたって、やるなって言ったじゃんムト……。あ、もしかしてあのタイミングではやらなくて良いけど今からやれってことか……?」
そう呟く翔だったが、その考えは実行には移すことができなかった。
次の瞬間に翔が目にしていたのはカルラが縛られていたベッドではなく天井だったからだ。
強い後頭部の痛みと、ゆっくりと視界に現れるカルラの姿で、翔は自身が今どのような状態かを把握し始めた。
(あいつ、なんで拘束解いてんだよ!)
「あぁ、疲れた。さ、お前は今からヨコヤマへの貢物だ。ついてこい」
「ちょ、ちょっと待てよ! あの二人はいいのか? お前の仲間だろ?」
「仲間? 違うね。ただ一緒にいて、協力していただけさ。いざと言う時にはお互い見捨てる覚悟がある。私たちはそういうチームなんだよ」
翔の服を無理につかみ、カルラは翔を立ち上がらせる。そしてその喉元に爪の切先を突きつけた。
「ちょうどよかった。お前は良い人質になりそうだ」
口角が鋭く上がったカルラの笑みは、悪魔そのものだ。生殺与奪の権限を他人に捕まれることの恐怖感で、翔は足が動かなかった。
「おい、歩け。それとも殺されたいか?」
今ここで隙を見てカルラを撫でれば、一瞬でも脱力してしまえばカルラから逃げ切ることはできるかもしれない。ただ、翔はそれをしなかった。
それはひとえに、ムトを信用していたからだ。
ムトがやるなと言うのであれば、他に何か方法があるはずだ。
震える足をゆっくりと地下室の出口の方に動かしながら、翔は考えた。だが、その答えが浮き上がる前に、地下室から地上へと続く階段に足をつけ始めてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます