12 ついに広告が解禁! ただし収益はまだまだ先

「うわぁ、だいぶニュースになってんなぁ」


 アーミアにジュースを差し出しながら、翔はつぶやいた。異世界に関するニュースを専門で扱っているサイトには、すでに翔達が運営している配信のバズり具合が書かれている。


「有る事無い事書かれてるのは今のところもう良いとして、これは特定が早そうだなぁ……」


 翔の顔は早くに非公開になったおかげかほとんどのニュースサイトには載っていなかったが、アーミアの顔は載っている記事が多い。どうしたもんかとそのニュースを見ながら翔はつぶやいた。


「で、どうするのがいいんですかね」


 差し出されたジュースを飲みながら、アーミアは言う。


「一番簡単なのは顔を隠して餌を入れること。あるいは画面を隠すとか。ただ、顔を隠す方法って結構難しいんだよなぁ。かといって、画面に何かすると動物たちの様子も配信できないしなぁ」


 餌を入れた直後からがっつく動物たちに、コメント欄が大いに沸いているのはアーカイブを見るとよくわかる。だからこそ、そのポイントは見せておきたいと翔は思っていた。


「うーん……私、こういうの考えるのあんまり得意じゃないんですよね。ごめんなさい」

「いや、良いんだ。俺の見立てが甘かっただけだから。うーん……。アーミア、普段はあの餌箱にどれくらいの頻度で餌とか入れてる?」

「大体一日に二、三回ですかね。今日は夕方に入れようかなって思ってました」

「なら、それまでになんとかしたいよなぁ」


 翔もそんな経験はほとんどない。番組制作は顔が映らないことも仕事のうちではあったが……。


「とりあえず今日はムトに頼んでみるか」

「何か案があるんですか?」

「ま、応急ってだけだからあんまりやりたくない手ではあるけどね」


 翔はそのままムトに電話をかけた。仕事中なようだが、翔のモフりを条件に夕方に一度農園の方に来てくれる約束を取り付けることに成功したのだ。


「にしても、気に入ってんのかアレ。誰でもあんなもんできると思うけどな」

「そんなことないですよ。カケルさんのせいで、マルハスたちが結構贅沢になっちゃったんですから。私が撫でても『そうじゃない!』って抗議してくるくらいに」

「それは嬉しいけどね。と、これ以上悩んでても仕方ない。アーミア、手を煩わせてごめん。農園の仕事に戻ろうか」


 アーミアがついでだからと作った昼食を摂り、二人は農園に戻る。アーミアは農園の仕事を、翔はカメラを繋げたパソコンで編集作業をその日は行なうことになった。

 膝の上にマルハスを乗せながら、配信アーカイブの動画ファイルを編集ソフトに入れる。数時間の動画が数本。特番のロケだと考えれば妥当な数字だと翔は思った。むしろ削る部分が少ない分、楽だとさえ思えるほどのものだ。

 すでに動画配信サイトからは広告掲載可の知らせが来ており、翔は編集ついでにそれをオンにした。おおよそ二ヶ月後には、この配信の広告費用が入ってくる。それに加えて投げ銭機能もオンにした。


user:投げ銭機能きた

user:儲けるのはどうなん?

user:運営費だって言ってたぞ。今非公開になっちゃってるけど

user:㌧クス。まあずっとタダで見れるだけでありがてぇや


 コメント欄は広告がつき始めたことと、投げ銭機能がオンにされたことに戸惑っているようだ。運営費に使うとは言ったものの、確かに裏では翔とアーミアの生活費にもなるそれらは言って仕舞えば寄付ではなく儲けに近いものになる。


『運営費に充てるためのものとして、配信に広告をつけさせていただきました。また、投げ銭機能に関しては試験的な導入の状態です。強制する物ではなく、弊農園が配信するコンテンツは無料で見ることができるようにしておりますので、ご安心ください』


 カンペにそうすばやく書くと、カメラの前に翔は差し出した。

 が、翔が予想していたほどは視聴者も離れていかなかった。コメント欄はその対処に対して納得の声が多く上がっている。


「ふぅ……。なんとか数字は維持できそうかもな」


 そんなことを呟いて、翔はまた編集作業に戻った。


「んー、終了! うわ、もうこんな時間か」


 気がつけば辺りはそろそろ夕暮れと言わんばかりにうっすらと赤く染まり始めていた。編集とは言いつつもアーミアの登場箇所を削るだけ。しかも、カメラの画角の多くはアーミアの家の壁と餌箱、水飲み場しか映していないが故に、それ以外の映り込みもほとんどなかったのだ。

 だからこそこれほどまでの速度で動画編集が終わったと言っても過言ではなかった。


「ん、終わったか」

「ッッッ!?」


 いつの間にか後ろに座っていたムトがつぶやくと、本をパタリと閉じる。翔は声が配信に乗らないようにと極力声を顰めながらも飛び上がるほどに驚いた。


「いつからそこに……」

「しばらく前だな。お前が膝に犬っころを乗せ始めたあたりだ。不愉快極まりないが、特別にゆるしてやる。それにしても、今日お前のところの社長に会ったんだがだいぶ酷いな。アレの下でお前は働いてたのか」

「は、はは……まぁね」

「それで、忙しい私をなぜ呼んだか聞かせてもらおうか」


 人の姿だったムトは、くるりとその場で一回転すると、一瞬で巨大なフクロウの姿に切り替わる。


「あ、そういえばそうだった」

「殺すぞ貴様」


 殺気を纏わせながら、ムトはその足の爪を翔の喉笛に突き刺すギリギリまで差し出す。


「嘘だよ嘘嘘! 餌やり、手伝ってもらえないかな。俺とアーミアは顔出せないし、ムトってほら、フクロウの姿だったら向こうの世界の顔も出さないから安全だよね」

「そ、そんな雑用を私にやれというのか! 今でされ魔力を定期的に渡しているにも関わらず、この私にそんな……あっ、冗談! 冗談でしゅ……」


 翔は憤慨し始めたムトの懐に潜り込むと、羽毛の間に手を突っ込んだ。ムトはその怒りを一瞬で霧のようにふきとばし、カリカリと足で空を掻き始める。


「はぁ……はぁ……。わ、わかった。ただし、私ができるのはあくまでも今回だけだ。次からはないと思え」


 ムトは翔の手から逃れながら言う。


「でもそれだと……」

「心配するな。私もこれ以上威厳を壊されては困るからな。ある程度の助力はしてやる。だから……その……」

「その?」


 突然もじもじと何かを誤魔化すようにムトは言葉を濁し始めた。翔は何がいいたいのか分からずに、首を傾げるしかない。


「いや、定期的にでいいから、私を撫でてくれると助かる。お前のそれで翼のコリが取れたのだ」

「わかった。で、助力って?」


 ムトは翼を広げると、淡く光りだした。それは魔法を発動する合図のようで、地面にゆっくりと魔法陣のようなものが円形に広がり始めていた。

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