幻影記録 終
守美日和は、ラップトップのキーボードを叩く手を止め、手紙の束に視線を移した。
机上には、差出人不明の手紙の束が置いてある。
どれも封筒には名前がなく、編集部の住所だけが書かれている。
雑誌の誌面上で何度も呼びかけたが、差出人が誰であれ、手紙を出したと返答をくれた人は一人もいなかった。
守美の指が怖い話が書かれた便箋に触れる。
一通ごとに、どれも筆跡が違う。
その上、どの話も登場人物の名前が書かれていない。
ウェブサイトに怖い話を掲載することを決めた後でも、サイト上には載せられずに、話の一部を省いたものもある。
それでも、どの話も共通している。
名前のない人物達の怖い話。
守美は手紙の束に手を伸ばし、一枚一枚めくりながら、差出人不明の怖い話に目を通していく。
実は、これらの話には通底する深いテーマがある。
そのことに気づいたのは、ごく最近のことではあるが。
守美は、ゆっくりと手紙の束を机上に置いた。
どの話にも通底する深いテーマ。
それは、生きていく上で誰しもがぶつかるテーマでもある。
社会で生きていくには欠かせない。
しかも、自分なりに考えていかなければならないこと。
少し空いた窓から、ひんやりとした夜風が部屋に流れ込む。
守美は窓の方へ視線を漂わせ、椅子の背もたれにかけていた薄手のショールを肩にかけた。
差出人不明の手紙を出した『差出人』。
彼らがようやく、口を開いて、優しく語りかけてきた気がした――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます