第18話 一難去ってまた一難

「どうすんだよ、どうすれば良いんだよ」


俺は水の流れ込む空間にただ一人残されて、水に腰が浸かるまで来てしまった。


この窮地から脱出しなくてはならないが、今出来ることは泳いで洞窟から脱出するか、アーツを使ってどうにかするかぐらいしか思い浮かばない。


第1の選択肢、泳いで逃げる。

これは正直無理だと思っている。

あの狭い通路を逆流の中這いつくばって地上に出るのは、ステータス的にも肺活量的にも無理が有り過ぎる。


なら第2の選択肢しか無いと思うが、俺のアーツで何ができる。

酸を出す、肩を治す、胃を治す。

こんなアーツで何ができると言うんだ!

肩と胃に関してはどうにもならん。

なら酸しか無いが………どうすれば?


「酸……酸素、いや酸素は関係無いか。酸の素って訳じゃ無し。酸………酸………酸………」


シエロはぶつぶつと酸について知ってる知識で何か出来ないかを模索していた。

しかし15歳のシエロには化学の知識などほぼ皆無。

どう考えても酸は溶かすものということしか考えられなかった。


「酸は溶かす……溶かす……溶かす」


ダメだ、溶かすってだけじゃ何も出来ない。

今の状態でアシッドなんて使おうものなら、酸の海が出来上がってしまい、自分が真っ先に溶けることになる。

あぁーーーどうしたらーーーーー!?


頭をフルに回転させても何も思いつかないシエロ。


そして水位はとうに頭の上を行き、体が浮いた状態になる。

天井にどんどん水面が近づいて行くのに何も出来ない。

天井まで水面が来ればもう呼吸をする空間が無くなってしまう。


自分の死を待つのみとなっていたシエロは足をバタつかせながら、ただ近づいている天井を見つめるしか無かった。


顔と天井の距離が2m、そして1mと近づいて行く中、シエロはあるものが流れてくるのを目視したのだ。


なんだろ、あれ?

黒い……石?


通路だった穴から水と一緒に流れてきた黒くて丸い石のような物体。

その物体は穴から出てきて、しばらくは水面に浮いていたが、やがて水の中に沈んでいった。


「雨で水浸みずびたしにしといて流れてきたのは黒い石ころだけって!。ふざけんなヨヨーーー!!!」


俺はもうダメだ。

勇者として転生してこんな終わり方あるかよ。

ユウリ……ごめん。ラノベ書けねーわ。


死を覚悟するシエロ。

だが天井が鼻先に触れるかという時、急に水面が上に上がらなくなったのだ。


「………あれ、まだ天井まで行ってない」


もうダメだと思っていたが、本当に天井ギリギリの所で水面が止まった。


ヨヨの雨が思ったより少なかったのか?

なんだよ、驚かせやがって!

後で会ったら覚えとけよ!!!

……お、水が引いて行く。


シエロはギリギリの所で助かったと安堵していた。

しかしシエロがホッとしたのは一瞬の出来事。


「な、な、なんだ?、今度はなんだよ!?」


水が引いて行くのと同時に、今度は水中に体を引きずり込まれるほどの大きな渦が発生したのだった。


シエロは渦に飲まれ、どんどん下に下にと引きずり込まれる。

そしてさっきまでは無かった地面に空いた穴の中へと入って行くのだった。





………あれ?……俺、生きてる?


地面に横たわるシエロは目を覚ますと、さっきまで一杯一杯に流れ込んでいた水が嘘だったかのように無くなってることに気がついた。


「あれは……夢?。……いや、でもちゃんと濡れてる」


自分の体を確認してみる。

特にダメージなどは無く、服がびしょ濡れになっていただけ。

多分下にあるふわふわの草花がクッションの代わりになってくれたのであろう。

でないとあんなとこから落ちてきて無事な訳が無い。


シエロは体の確認を終えると20メートルは離れているだろう天井に空いた穴を見つめる。


多分俺はあの穴から落ちて来たのだろう。

あの穴が空いていたお陰で下の階層に水が抜けて行ったんだ。本当に助かった。

幸運0だからもうダメかと思ったけど。

まぁ、ウレールのステータス雑だからな。

幸運0とかも特に関係無いのかもしれない。

………でもあの穴はなんだろう。

さっきまであんなの無かったはずだが。


シエロは天井に空いた穴について考えてみたが、よく分からないということで考えるのを辞める。


「とりあえず助かったからいいか。さてと、ヨヨのやつを探して説教してやらんと。先のことも考えずにアーツ使いやがってあいつ」


シエロは体を起こしてヨヨを探しに行くことにした。したのだが……


「………声?」


誰もいないはずの空間で誰かの声が聞こえた気がした。

その声は不思議な感覚で耳から伝わって来たというよりも脳に直接訴えかけてくるようなカンジだったのだ。


だが弱っているのか、その声はかぼそく、途切れ途切れでしか聞こえてこないのだ。

正直誰もいないのに声がするというのは恐怖でしか無かったが、もしかしたら助けを求めている声かもしれないと思い、俺は声を聞くことに意識を集中する。


「………」


何か言ってるのか?


「………オマ………マ」


オマ?、マ?


「カワリ…………ウツワ」


変わり?………器?


「………」


………ダメだ、なんも分からん。

聞き取れた言葉はオマ、マ、変わり、器だけ。

そんなだけ言葉じゃ途中で切れた会話の内容を予測するのは不可能であった。


でもどこから聞こえてるんだ?

周りはさっきより草花が生い茂ってるって位だが……

もしかして草とか花が喋ってる?


ウレールの世界ならそんなことも可能性として視野に入れるべきだと考えたシエロは草花に向かっておーいっと言ってみる。


すると、草花がザワザワザワと音を立ててなびきだす。


「!?、マジで草が反応してるのか?。おーいっ」


「………」


「空耳だったのか?」


「………コイツ……セイ…」


「!!」


やっぱ空耳じゃない!

何かがいるんだ。

……そうか、草花の中か!


シエロは草花で見えなくなっている場所を隈無くまなく捜索する。

そしてこの青白く光る、草花が生い茂ってる空間とは一風変わったものを見つけてしまったのだ。




………黒い……石?





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