転生して来た勇者なのにそんな扱いですか？〜魔王がいないのでとりあえず王様ぶっ飛ばします！〜

第17話 神なんて信じない

「………」

「いや、戦えよ。お前勇者なんだろ？」

「……チッ」

「あ、お前今舌打ちしたな？」

世の中の理不尽さに飽き飽きしてしまったシエロ。

次の穴場に着いたのはいいが、Lvを上げたところでどうにもならないかもと思うと戦う気が失せてしまったのだ。

俺は勇者とか言われて転生してみれば、王様達には弱い扱いされ、農民のジルにも勝てるか分からない。

こんなちっちゃいヨヨが守護神で？、ステータスチートみたいなフミヤが文化人？、どうなってんのウレール？。

何ですか勇者って。

勇ましくても弱かったら意味ないじゃん。

なんかシエロ・ギュンターって全然いいとこないよな。

顔はまぁ童顔で可愛いカンジだけど。

アリスの趣味って思うとな。

シエロはヨヨの言葉を無視してぶつくさとぼやいていた。

色々と弱いシエロ・ギュンターくんは見た目は正直悪くなかった。

さっき温泉で顔の傷が癒えた際に顔をしっかりと確認したら意外といいカンジ。

金髪の波打ったショートヘアーにお目目がぱっちりとした童顔の可愛らしい男の子。

ゲームとかアニメで普通に女の子に人気が出そうなカンジだが……ちょっとショタっぽい気もしてる。

ユウリが好きな顔であって欲しいけど………アリスの趣味だしな〜。

「ヨヨ様〜」

「なんだよ、気の抜けた声して」

「俺ってカッコいいですか？」

「………」

「返事ぐらい返してくださいよ」

ヨヨはシエロの言葉に少し引いていた。

男に向かって何を言い出すのかと思うヨヨ。

しかしここはシエロを立ち直らせるチャンスと思い、シエロをよいしょすることにした。

「顔は良いと思うぞ」

「顔だけですか？」

「戦ってる姿もカッコよかったぞ」

「ヨヨ様より弱い俺がですか？」

「……アーツを使えば」

「酸ですけど」

「………」

ヨヨはシエロを必死によいしょしてやるつもりだったがシエロの卑屈さに言葉を失い欠けていた。

だがシエロはヨヨのある一言で立ち直るキッカケをもらうことになる。

「ユウリって子はお前を勇者として見てくれたんだろ？」

「……ユウリ」

「その姫さまに勇者辞めます、勝てませんって言うのか？」

「………言いたくないですね」

「男だろ！、シャキッとしろ！」

シエロはヨヨから額を小突かれる。

そして目が覚めたように重い腰を上げる。

……そうだよ、ユウリがいる。

弱い俺にも期待してくれてるユウリがいるじゃないか。

それに約束。魔王を倒してラノベを書いて見せてあげるって約束したじゃないか。

リュードとかアリスとかフミヤとか。

今俺がこの世界で考えなくてはいけないのはユウリのことだけだった！

「ごめん、目が覚めたよ」

「おっ、やる気になったか？」

「やるよ。スライムだろうが魔王だろうが俺の酸で溶かし尽くしてやるよ！」

「セリフはちょっとダサいけどな。頑張れよ！」

………最後のは余計だよ。

でもヨヨのお陰でやる気出てきた。

よし、やるか！

シエロは新たな穴場を探索し、新たなスライムを探し始める。だが

「……いませんね？」

「うーん、いないな」

ヨヨが言ったスライムが大量に出る穴場には全くスライムがいないのだ。

おかしいな〜っとヨヨも飛び回るが1体も見つからなかったのだ。

探しても探しても出てこないスライム。

ここにはいないと思うから場所を変えようと俺は提案する。

だがヨヨはそんなはずは無いと俺の提案をつっぱね、自分のステータスプレートを開き始めた。

「何やってるんですか、ヨヨ様？」

「アーツを使う。スライムがおらんのなら呼べば良いまでよ」

「呼べばいい……って呼べるんですか？」

ヨヨの発言には驚いた。

呼べるなら最初からそうして欲しかった。

わざわざ暗くて狭い穴の中をほふく前進する必要なかったでは無いか。

……でも、ヨヨはどうやって呼ぶのだろう？

ヨヨのスキルやアーツは見せてもらったばかりだが、そんなスライムを呼ぶようなアーツはなかったはず……いや、分かった。テレポートでスライムを転移させてくれるのか！

シエロは自分なりに答えを導き出し、そしてヨヨはアーツを発動する。

「恵の雨！」

アーツの名を高々と叫び、ステータスプレートにあるアーツ使用ボタンを押す。

ヨヨはシエロの発想とは全然違うアーツ、恵の雨を使用するのだった。

「使うのはテレポートだと思ってました」

「テレポートは自分が移動するだけで他の者は飛ばせんぞ」

「そうでしたか……でも何で恵の雨？」

「まぁ、見とれ」

ヨヨは見ていろと言ってた。

だが現状何も起こっていない。

恵の雨は田畑に水を与えるために雨を降らせる能力だったはず。

なのにこの場には雨など降ってはいない。

一体ヨヨは何を？

周りを見渡してもスライムどころか雨すら見られない状況にシエロは困惑する。

そんなシエロにヨヨは耳を澄ませてみろと指示してくる。

「耳がどうしたって言うんだ？。何も聞こえたりしな………！？」

「お、来るかな？」

ヨヨの指示通りに耳を立ててみる。

すると遠くからザッーっと何かが流れてくるような音が段々近づいて来るのだ。

そして音が鳴る方角を認識した俺は、音が鳴っている洞窟の狭い通路を見つめる。

するとその穴からは少しずつ水が流れており、時間が経つにつれて水の量はどんどん増えていく。

「ヨヨ様、これ……」

「俺のやったことに気づいたか！。そう俺の雨でスライムをこの空間に流してやれば」

「いや、今それどころじゃ！」

ヨヨのやりたかったことに気づいたシエロだが、今はスライムが呼べたかよりももっと重要なことがあるのだ。

穴から出てくる水は止まること無く流れ続け、穴を埋め尽くすまでに広がっていた。

そして次第にミシミシと音を立てる壁。

今まさにシエロが考える最悪の事態になりそうである。

「ここは地下ですよ！。大量に雨なんか降らせたら水が流れ込んで来るに決まってるじゃないですか！」

「あっ、そうだった！」

ヨヨの策は違う空間に雨を降らせて水流でスライムをこの空間まで呼び寄せることだったのだろう。

しかしここは洞窟の中のだいぶ下の階層。

そんなことをすれば水が流れ込んできて、空間を水で埋め尽くすのは必然。

冒険2日目でどざえもんになるのだけは真平御免（まっぴらごめん）である。

「やばいですってこのままじゃ！」

「……」

「何やってるんですか？」

俺がどうにかしないといけないと訴えている時にこの守護神様は呑気にステータスプレートを弄（いじ）っているのだ。

何を悠長（ゆうちょう）なことをと思っていたが、ヨヨのプレートに映ったアーツを見てすぐに嫌な予感が頭をよぎった。

「まさかヨヨ様」

「テレポート！」

「あ、おい！」

予感的中、ヨヨはテレポートを使って水が流れて来ないであろう場所に1人で飛んで行きやがったのだ。

自分でやっといて一人で逃げやがった！

ふざけんな、どうすんだよ俺は！？

神様は全知全能？誰が言ってんだ！？

全然無能じゃねーかー！

足元に浸かる水の冷たさを感じながら、シエロは神など信じない、自分でなんとかせねばと心に誓ったのであった。