第13話 医療って何?



「しゃあー!。あと3体!!」


5体のスライムを倒し終えたシエロ。

最初8体いたスライムは半数を切る。

少しずつ戦いに慣れてきたシエロにとって残る3体など造作もなかった。


3体のスライムは横並びで石を投げてくるが、同じ方向から一直線に飛んでくる石ころなどもう怖くはない。

シエロはジャンプで石をかわし、3並びの真ん中にいるスライム目掛けて距離を詰めて、鍬を振り下ろす。

スライムはシエロの攻撃で一瞬にして粉々に砕け散る。そして


「これでラストぉぉー!」


周りに陣取る2体のスライムを横薙ぎで一掃。

シエロは8体のスライム討伐を成し遂げた。


「ヨヨ様〜、やりました!」


「……シエロよ」


8体のスライムを無事倒したシエロはヨヨにやったーと喜びを露わにして近づいて行くが、ヨヨは近づいて来るシエロからどんどん遠ざかって行く。


「なんで逃げるんですかー?」


ヨヨは何故逃げるのか?

ここはおめでとうとハグしてきてもおかしくない展開のはずなのだが?


シエロは不思議に思いながらもヨヨを追いかけ続ける。

するとヨヨから意外な言葉を投げられる。


「こっちくんなよブス」


「……ブス?」


ブスというのは俺のことを言っているのだろうか?

俺の顔がブスだからヨヨは逃げて行くということだろうか?

………え、嘘。俺ってブサイクなの?


シエロはヨヨの言葉で胸をえぐられる。

自分の最大の強みになるかもしれない魅力とは、ブサイクと言われる程度のものだったのかと思うと辛くて仕方がなかった。


落ち込んでるとヨヨは遠くから自分の顔見てみろーと笑いながら叫んでいた。


そんな笑うほどなのか?、失礼な奴だ。

普通にそれ、いじめとかのレベルの暴言だからな!


「……まぁ、一応見とこか」


シエロは近くの小川で顔を確かめることにする。

水面は透き通っており、まるで鏡かのようにシエロの顔をハッキリと写すのだ。


「………」


「どうだ。笑える顔だろー」


水面を覗く俺は遠くからヨヨに笑える顔だろと言われるが……これは確かにひどい顔だ。

アリスがキャラメイクしたシエロ・ギュンターくんの顔がひどいのでは無い、というか今は分からない。

顔の原型が分からないぐらい、コブったく顔が腫れあがっていたのだ。


おそらくスライムの投げる魔鉱石を受けまくっていたのが原因だろう。

残り3体になった時は、倒すのがかなり楽勝だったスライム。

だが最初に8体相手するのはとても大変だったのだ。


8体のスライムが投げてくる大量の石を、俺はヨヨのように、鍬を扇風機の羽根みたく回転させて石を弾いていた。

でもそんな鍬を素早くグルグル回すなんて芸当は簡単にできる訳も無く、回転させていた鍬の隙間から石がすり抜けて顔面に直撃なんてことも多かったのだ。


戦う興奮でアドレナリン出まくりだったのか、自分の顔が悲惨なことになってるのに気づいて、俺は顔や体がかなり痛んでいることに気づいたのだ


「8体相手なんてやっぱ無理ゲーだったんですよ」


「まぁまぁまぁ。でもお前やり遂げたじゃん。すげー弱気だったのに。見直したよ!」


「褒めるなら近くで褒めてくださいよー」


遠くで褒められても嬉しく無い。シエロは傷ついた自分を癒すよう提案する。

するとヨヨは傷の癒える温泉があると言い出しまだ遠いところから着いてこいと指示してくるのだ。


俺が癒して欲しかったのは心の方なんだけど。

まぁいいか。でも傷の癒える温泉か〜。

効能だけ書いてあるパチもん温泉じゃなければいいが。


俺はまたヨヨに逃げられてもメンタルがやられそうなので、ある程度の距離を保って着いて行くことにした。





ヨヨが言っていた温泉に到着し、シエロはヨヨと共に湯に浸かっていた。

その温泉は元の世界でよくある、効能が書いてあるけど効果出てるか分からない、みたいな温泉とは違う。

みるみるうちに顔の腫れは引き、体にできた傷やアザも消えて行くのであった。


すごいなこの世界。

お湯に浸かるだけでこんなに早く傷が治るなんて。

ウレールの世界ではこれが当たり前なのだろうか?


シエロは温泉の効果の絶大さをヨヨに熱弁するが、ヨヨはそんな良いものじゃ無いとシエロの意見を一蹴する。

理由はステータスプレートを見てみれば分かると言われたので見ることにする。




名前:シエロ・ギュンター

役職:勇者

Lv:3

体力:12

MP:0

攻撃力:8

防御力:4

すばやさ:4

魅力:38

幸運:0

スキルポイント:4

スキル:勇者の加護/ハートの加護/ウレールの加護




あれ?……MPが無い?


俺はスライムを倒し終えてから初めてステータスプレートを開くと、Lvが一気に3に上がっていた。

体力や攻撃力などもLv1の時のシエロよりもちゃんと強くなっていた。

だがおかしなことにMPだけはもとより下がって、というより無くなっていた。

確かLv1のシエロでもMPは4だったはず。

なのにLv3になった途端MP0とはどういうことか?


シエロは下がっているMPについてヨヨに追求すると、すぐに答えが返ってくる。


MPが0なのは温泉に持っていかれたからであり、Lvが上がって減った訳では無いのだとか。

温泉に持っていかれるという表現にはかなり恐怖を覚えたが、ヨヨの説明で一応の納得はした。


今浸かってる温泉は魔鉱石によって出来たものでMPを消費する代わりに傷を癒してくれるのだという。


だから実際今のステータスは0/最大MPというのが正しい表記なのだ。

この世界のステータス表記は曖昧過ぎて困る。


「MPを使ったら傷は治るんですか?」


「治るぞ。というかそれでしか治らん」


「それでしか?。えっと、薬とか…あと医者とかは?」


「なんじゃそれは?。魔鉱液と回復術士のことを言っておるのか?」


シエロは確認を取る意味でMPについて聞き返したつもりだったが、ヨヨから返ってきた返答はかなり驚愕の話であった。


詳しく聞いてみると、この世界には江口軍太がいた世界でいうところの医療という概念が全く無かったのだ。


あるのは魔鉱石から抽出された魔鉱液を飲んで自分のMPを回復に回すか、ハートの加護のような回復に属した術を持つ回復術士に治してもらうかだけ。


傷を縫合したり、薬を飲んで菌を殺すというようなことをヨヨに言っても全く理解されなかったのだ。


「傷口をヒモで結ぶって、怖いことをするんだなお前のいた世界は。それに菌とはなんじゃ?、魔物か?」


この発言はヨヨが無知だからという訳では無いだろう。

多分だがヨヨの考えはウレールの住人を代表して言われている物だと俺は受け止める。

さっきの体力やスライムの話同様、このウレールという世界は俺のいた世界とは全く違う概念が存在しているのだ。


回復はMPを消費する。これだけがウレール共通の回復理論なのだろう。

そのせいか、ヨヨには医療の話が狂言としか考えられないらしい。


そう、この世界は剣や魔法、そして魔物もいるファンタジー世界だが、科学という理論に基づいたものというのが全くの皆無なのかもしれない。


「アリスの奴は帰ってきたら説教してやらないと。アイツなんの説明も無しに送り出しやがって」


シエロは女神アリスについての悪口を止めどなく口にする。それを聞いたヨヨはシエロをなだめる。


「シエロよ。アリスというのは女神なのだろ?。守護神と言われてる俺とは違って世界を作ってる本物の女神様なんだから。そこまでにしないとバチが当たるぞ」


ヨヨは自分を下げるような発言を混ぜながら女神を罵倒するのは良くないとシエロに言う。


確かにヨヨの言う通りかもしれない。

クソ対応の女神だが命を救ってくれたのは他でもなくアリスだ。

でも対応がな〜……あれ、そういえば?


シエロはヨヨの意見に納得しかけていたが、そんなことよりも気になったことがあった。


「そういえばヨヨ様って何者なんですか?」


ヨヨが村で守護神として慕われていると言うのは聞いていた。

皆がヨヨ様と口にしていたからなんとなくでシエロもヨヨ様と言っていたが、実際はどんな守護神なのかも知らないまま一緒に行動していたのだ。


「お、ジル達から聞いたらんかったのか?。聞いて驚くなよ。俺は『雨の守護神』なんだぞ」


ヨヨは自分を雨の守護神と宣言し、自分の存在や守護神について話し始めるのだった。


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