転生して来た勇者なのにそんな扱いですか？〜魔王がいないのでとりあえず王様ぶっ飛ばします！〜

第12話 概念が違いすぎる

シエロは魔鉱石たちの魔鉱石攻撃の中に一直線に向かって行く。

自分で考えた『初期ダンジョン、ダメージ0理論』を信じてシエロは飛んで来る石をノーガードで受ける。しかし

「ダメージが無い痛、ならこんな痛い、石ころ屁でも無い痛い痛い………いたたたたたた、嘘、めちゃくちゃ痛いんだけど！？」

魔鉱石が飛んで来る中、痛い思いを我慢して突っ込んでいたが、すぐに限界が来たので一度近くの岩場に身を隠すことにした。

ダメージは無いはずと思い、もう一度ステータスプレートを確認してみるがやはり体力は8のまま。

体力は減らない………でもかなり痛い。

「何やってるんだシエロ！」

「ヨヨ様〜」

様子を見かねて飛んできたヨヨにシエロは情けない声で自分の『初期ダンジョン、ダメージ0理論』を丁寧に説明する。

するとヨヨは何を馬鹿なことを言ってるんだとシエロ相手に声を荒げる。

「体力は今関係ないだろ！」

「へ？」

「女神から本当に何も聞いてないんだな」

ヨヨは呆れた顔で俺に体力が関係ない理由を教えてくれた。

「……体の力ですか？」

「そうだよ。お前の言ってるのは体の力のこと」

元の世界であったゲームのRPGを基準に考えていた俺は、ヨヨの説明で自分の持ってるゲーム概念がこの世界では通用しないことに気付かされた。

俺は体力をゲームで言うところのHPだと思っていたがそうではなかった。

この世界で体力とは体の力の度合い、わかりやすく言えば健康度合いとでも思えばいいのだろうか。

体力8が最高値の人間が体力8のままなら100%の力を発揮できるというもので、体力が削られれば本来の力が出せなくなるのだと言う。

「つまりHPみたいなのは？」

「ステータスプレートには載ってないぞ。そんなのお前の頑丈さ次第だろ」

この世界のステータスプレートはなんと大雑把なことだろうか。ステータスを見る上で大事なHPというものが分からないと言うではないか。

「じゃあ、あの石でも怪我は？」

「するに決まってるだろ。ここのスライムはアーツを使わんから楽ってだけで、ダメージ自体はあるんだ！」

「はぁ〜。嘘だろ」

自分が無敵でないとわかり少しため息が出てしまう。

アーツを使わないから楽ってなんだろ？

ん？。てか今スライムって言ったか？

シエロはヨヨに詳しい説明を要求し、ヨヨはそれに答えてやる。

体力を削るには普通の物理攻撃では不可能。

削るにはMPを消費してアーツを使わなければならないのだと言う。

ここに生息しているスライムはLvが低いからアーツが使えない。なので体力を削られる心配無く、100%の力で戦えるらしいのだ。

そしてスライムの話。

俺の目の前にいる魔鉱石みたいな物がウレールではスライムと言うみたいだ。

ジルから鍬を渡された時に聞いておくべきだった。スライムはそんな短剣だと無理だぞ〜と言われた時はそんな馬鹿なと思っていたが、今なら分かる。短剣じゃあんな固そうなスライムを倒すとか無理。

「スライムってもっとふにゃふにゃしたやつかと思ってました」

俺はヨヨに思ったことを話すと、ヨヨはまた俺の持つ概念を壊す意見を出してくる。

ふにゃふにゃとしたスライムというのはスライムの中でも大体が上位に当たるらしい。

自在に変形はするし、アーツも使えるものが多くなり、物理攻撃が効かない奴までいるのだとか。

それに比べると魔鉱石に似た

今この空間にいるスライムの正式名は『クリスタルスライム』なのだが、スライムの中では最弱だとヨヨは言い出した。

あいつは硬いだけ。その一言であの魔鉱石と見分けのつかないスライムを雑魚扱いしていたのだ。

元の世界だと鉄で出来たスライムは経験値が沢山もらえる、スライムの最上位種に当たるのだが。

この世界では硬くて強そうなクリスタルスライムが最弱ということでスライムと略して言うらしい。

「訳がわからなくなってきた」

自分の知る知識とウレールでの常識がかなり違っており、頭がこんがらがってしまった。

あの硬いゴーレムのような塊がスライムで、しかも雑魚？

スライムすら倒せる自信無い。

………え？。最初の村でピンチなんてことあるの？

俺……ダメかもしれない。

ウレールで生きていく自信を無くしてしまったシエロ。

それを見かねたヨヨはシエロが持っていた鍬を取り上げる。

「いいか、見とけよ！」

ヨヨは自分の数倍も大きな鍬をいとも簡単に持ち上げ、スライムの村へと飛行する。

スライムたちはヨヨ目掛けて石を投げつける。だがヨヨには届かない。

ヨヨは鍬を前方で回転させ石を弾きながらスライムへと向かって行く。

「ヨヨ様、すごいな」

シエロは飛んで来る石を無意識に弾きながらヨヨの勇姿を見守っていた。

ヨヨはスライムの正面に辿り着くと鍬を振り上げ、勢いよく振り下ろす。

ヨヨの攻撃を受けたスライムは、一瞬で、ガラスが割れたような音と共に砕け散ってしまった。

ヨヨはどうだと言わんばかりに、遠くからシエロに笑顔を向ける。

そして残りのスライムには目も向けずシエロの元に帰ってくるのであった。

「見てたか？」

「しっかり見てました」

「そうか、なら次はシエロの番だな」

「いや、無理です！」

自分がやったようにすればいいと言うヨヨであったがシエロは即答で無理だと答える。

「お前、自分を過小評価しすぎだぞ、ほれ」

ヨヨは俺の背後に回り込み、背中を押してくる。

やめてくれと頼んでもヨヨはスライムの前に俺を立たせようとするのだ。

「いや、ヨヨ様。あんな大量に飛んで来る石どうやって………！」

シエロはまたヨヨに無理だと言おうとしたその時、スライムたちが石を投げてくるのを感じた。

その攻撃に対処するため、ヨヨから鍬を取り上げ、前方で回転させて石を防ぎきる。

「邪魔しないで欲しいな！。今俺はヨヨ様と話をしているのに……てあれ？」

ヨヨに無理だと言おうとするのを邪魔されたく無いという思いで俺は攻撃を防いだ。

「俺……今、石を弾きましたよね？」

自分でやったことに驚くシエロ。

そのシエロにヨヨは言う。

「Lv1でもウレールの人間ならそれぐらいはできる。試しにあいつらの攻撃ジャンプで避けてみろ。ほら、来たぞ」

ヨヨが提案してくると同タイミングでスライムたちはまた石を投げつけてくる。

俺はヨヨの言う通りにジャンプして避けることを選択する。

「……嘘だろ？」

またも自分のやったことに驚くシエロ。

ジャンプしてスライムの攻撃を避けたシエロは今4、5メートルほど地上から離れていたのだ。

空中から地上に戻る時は恐怖でしかなかったが、穴から降りていた時のように軽々と着地することに成功した。

「ヨヨ様、俺ってもしかして強いんでしょうか？」

俺は自分の身体能力の高さに驚き、ヨヨに自分がどの程度の力なのかを聞いてみる。

するとヨヨからは

「普通」

との一言が返ってくる。

他人から『普通』と言われて喜べる人間はそうそういないだろう。だがこの時の俺はこの一言だけで十分だった。

『ウレールの住人として普通の実力はある』と言う意味なのだから。

それはスライムなら当たり前に倒せるという太鼓判をもらったのと同義。

俺はスライムに立ち向かう勇気が沸々と湧いてきた。

「お、行けそうだな」

「………はい」

シエロの表情はさっきまで弱気発言をしていた者の顔とは思えないほど、覚悟を決めた戦士の顔に変わっていた。

ヨヨもそれを見て行けると思ったのだろう。

再びシエロの背中を押してスライムに立ち向かえと送り出す。

「行きます！」

勇者シエロは自信を付け、再びスライムへと向かって行くのであった。