第10話 いくぞ、スラ洞窟
涙を流した次の日の朝、俺はジルから借りた畑を耕すのに使う
「魔物倒す勇者って言うより、畑を
「そうですねヨヨ様。格好はつかないですね」
草を掻き分け歩く俺にヨヨは空から話しかけてくる。
「ヨヨ様はいいですね、空が飛べて」
「いいことばっかじゃないぞ。バタバタバタバタ、うるさくてたまらん。人間のように体が大きいなら歩きたいぐらいだよ」
「あっ、自分の羽の音でもうるさいとか思うんですね」
俺はヨヨからファンタジーのリアルを知らされる。
でもそうか、うるさいとか思うんだな。
確かに背中でバタバタなっていたら耳に入るし気になるか。
羽がある種族ってゲームとかにもいっぱい出てくるけどみんなうるさいなーって思いながら飛んでるのかな?
「何を笑っておる?」
「いや、すいません、つい」
そんな現実味のあるファンタジーあるのかと思うと少し笑えてくる。
友達に話したらじゃああれも、じゃあこれもって会話が弾みそうなネタだな……。
……友達か。
そういえば俺は友達とキャンプに行って事故に遭ったんだ。
あいつら元気してるかな?
スラ洞窟に行く途中で元の世界のことを思い出し、少し悲しくなってしまった。
転生するしかなかった状況だったとはいえ、誰も知らない世界に1人で来るのは寂しくもある15歳のシエロ。
ジルたちの優しさに触れたことで少しこの世界を好きになっていたシエロだが、やはり元の世界の生活も恋しいのであった。
◇
「お、着いたぞ。ここがスラ洞窟だ」
「……本当にここで修行するんですか?」
俺とヨヨはスラ洞窟の入り口にたどり着いた。
どこまで続くのか奥底が全く見えない暗闇の洞窟。
風が吹いてるのか、まるで生きているかのようにビュービューと音が鳴り響いている。
目の前の洞窟は駆け出し冒険者が行く場所というよりも、ボス級のモンスターの根城のような雰囲気を持っている。
「やばい魔物とかいないよな?」
「何?びびってんのかー?。心配すんなよここは『あいつ』しか居ねー所だから」
ヨヨが言うあいつ。
駆け出し冒険者が1番最初に戦う魔物。
定番中の定番。洞窟の名前の由来にもなっている魔物。
スライムである。
アニメやゲームでお馴染みのスライムさん。
スラ高原って名前を聞いた時からなんとなくの予想はしていた。
スライムいっぱいいる所なんだろうなて。
でもスライムってこんな暗い洞窟の中にいるのだろうか?
「スラ高原はスライムたちが日向ぼっこするところでそんな頻繁に出くわす所じゃないんだ。ここはスライムの住みかだから沢山会えて沢山戦えるぞ!」
ヨヨは俺に頑張れよーと圧をかけてくる。
そうなんだよ。
アスティーナでは最初にスラ高原ならLv上げしやすいと言われてたのに、何にもないからおかしいとは思っていたんだ。
スラ高原は極たまーーーにしかスライムと出くわすことのない、ただの高原だったのだ。
「でも本当に助かりましたよ。ラック村を見つけてなかったら、スラ高原を永遠歩くだけの旅で終わってましたよ。アスティーナの奴らは世界救ったら1回殴ってやらないと」
嘘を教えやがったリュード達をボコボコにするイメージを頭に浮かべるシエロ。
シエロの発言に対して「いや、それ死罪だから」とツッコんでくるヨヨ。
シエロは確かにと思いながらヨヨと暗い洞窟に足を踏み入れるのであった。
◇
暗い暗い洞窟の中、俺は光り輝くヨヨを頼りにして、ほふく前進で先に進んでいた。
「ヨヨ様、これ戦うとか無理じゃないですか?今スライムに会ったら無条件で殺られませんか?」
俺はヨヨに思ってたことを言う。
今の俺は自分の体がギリギリ2人なら入るかもしれないぐらいの穴をヨヨに言われるがままに進んでいる。
担いでる鍬が時たま壁に当たってカーーンッと鳴らしてしまった時はスライムに出くわさないかオドオドしてしまう。
目の前にスライムが現れても武器を振るうスペースがない状況が怖くて仕方なかった。
「大丈夫大丈夫。出てきてもその辺に転がってる石ころ投げつけとけば何とかなる。お前弱気過ぎじゃないか?」
ヨヨは俺に平気だと言う。
石ころ当てればやられるぐらいなのか?
俺はヨヨの言うことに疑念を持ちやっぱり不安しかない。
そもそも今いるアリの巣のような狭い通路はスライムが大量に生息してる場所に続いているとヨヨは言っていた。
初戦闘になるのに複数体相手にするというのはどうなのよ。
シエロはため息をつきながらひたすらに前へ前へと進んでいく。
すると遠くの方でヨヨとは違う、青白い輝きが目に入った。
「お、見えてきたぞ。あそこが俺が言ってたスライムの巣穴だよ」
ヨヨはそう言って俺を置いて光の方へ飛んで行く。
置いていくなよと思いながら、俺も青白い光に向かって前進を続けた。
ほふく前進による腕の疲れも忘れてひたすらに進む。
すると光の奥には元の世界でもお目にかかれない程の絶景が広がっていた。
「うわぁ……すごいな」
岩だらけだった場所から一変して、たどり着いたその空間にはいろんなものが詰め込まれていた。
水の透き通った小川。
その周りに咲く見たことない色鮮やかな花。
壁には青白く光輝く結晶の塊がたくさん。
俺は今細い通路に寝そべってその綺麗な景色に感動を覚えていた。
「あれは何ですか?あの青いの?」
「ああ、あれは魔鉱石だな。魔力が集まってできる石だな。どうだ、綺麗だろ」
「あぁ、すごく綺麗だ」
15歳のシエロには、景色を綺麗だと思う感性は元々なかったが、この光り輝くパノラマは忘れられないほどの感動であった。
「さてと、お前あんまり時間無いらしいしな。ちゃっちゃとスライム探しに行きますか。」
シエロが感動してるのを横目にヨヨはスライムと戦うことを急かす。
ヨヨは羽をバタバタさせながらその広い空間へと下降していく。
ヨヨの言う通りだと思うシエロも景色を堪能するのを止め、その広い空間に降りようとする。
降りようとするのだが……。
「おーい、早く来いよー」
俺に向かってヨヨが叫んでいる。
早く降りてこいと言っているのでしょうね。
でもヨヨが何を言ってるかは俺には分かりません、だって…
「………どうやって降りたらいいんですかー?」
この穴、地面から何メートル離れてるんだよ。
多分10メートル以上はあるだろうな。
こんなの飛び降りたら戦う前に死んじゃいますよ。
無理無理助けて。ヨヨ様~、ヘル~プ!
俺は穴から顔だけ出してヨヨに無理と大声で叫ぶ。
最初は何言ってるか分かっていないヨヨだったが、俺が困ってると気づいてくれて穴の所まで戻って来てくれた。
「飛び降りれないって……マジ?」
「いや、無理に決まってるじゃないですか!」
俺が状況を説明するとヨヨはお前本当に勇者か?という目でじーと見てくる。
そんな目をされても困る。
だって俺は勇者であるより前に普通の人間、この距離の飛び降りは多分即死ですよ。
戻って来たヨヨに俺を掴んで下まで降りれないかを聞いてみたが
「無理だな、自分で何とかせい」
と冷たくあしらわれ、ヨヨはまた下に降りていくのであった。
…………え?マジでどうしよう?降りれない……え、嘘でしょ?
シエロは戦闘以前から問題にぶち当たってしまうのだった。
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