第2話 女神と語ろう
女神を揺さぶって数分、俺は疲れたから女神を離してやった。
「はぁはぁ、女神の首締めるって、はぁはぁ、あんたおかしいんじゃない?」
「いや、おかしいのはお前だろ。魔王倒すって言ってんのに自分の好みでキャラ作るなよ。あとはぁはぁ、さっきまでのおしとやかキャラどこいったよ」
俺と女神は息を切らして見つめ合う。
揺さぶってる間に色々と聞けたことがある。
転生後の俺になるシエロ・ギュンターくんについてだ。
シエロは俺の名前、
そして魅力が高いこと。これは女神が俺の様子を見るのにブサイクじゃ嫌だわという理由で魅力に全振りしたらしい。
本当に舐めた女である。
「俺はシエロ確定なのか?他のキャラとかにできないの?」
「ふんだ、ありませーん。私がせっかく作ったキャラが気に入らないなら帰ってくださーい。あんたの今、こんなんなってるんだから!文句言わずにちゃっちゃと転生しちゃいなさいよ」
女神は俺の前に指を突き出す。
そこからモクモクと煙のように現れたのは俺の今の現状だった。
「
映像に映った俺はかなり惨い有様。
思春期でモザイクが嫌いな男子でもモザイク欲しいですと頭を下げる程のグロさ。
岩の下の俺は見ていられない。すぐさま俺はそのモクモクをかき消した。
きちーことをしてくる女神に腹が立ったが、見せられた映像の自分を考えると転生を受け入れるしか現状ないとも思う。
でもシエロ・ギュンターか。こいつでどうやって世界救えばいいんだ?
「あ、でもスキル持ってんのか。加護が3つあるけどどういう加護なんだ?」
俺は加護持ちのシエロくんなら何とかなるかもと期待を持ち女神に話しかける。
でも女神は
「知りませーーーん、べーーー」
もうキャラ作りを完全に辞め、恥ずかしげもなくあっかんべーをしてくるのだった。
だが女神も大人気ないと思ったのか
「まぁ、可哀想だから1個だけなら教えてあげる。私の名前の加護だからねー。あっ、そうだ。私の名前とかも言ってなかったわね」
女神は自分のことと加護のことについて話し始めた。
女神の名前はアリス・ハート・ウエディング。
神に使える16女神の1人であり、神の名の元に世界を管理しているらしい。
そして今回アリスが担当しなくてはならなくなったのが俺が行くと言われてるウレールである。
ウレールにいる魔王、フミヤ・マチーノがどうやら大規模な世界侵略を進めているらしく、放置しておくとウレールが終わるかもしれないのだとか。
今回俺を選んだのは正直たまたま。転生する際にキャラメイクするから誰を選んでも変わらないからとちょうど死にかけてる俺の前に現れたのだ。
何とも適当な女神である。
そして加護について。
アリスが教えてくれたのはハートの加護についてだけ。
ハートの加護は名前の通りアリスから受ける加護なのである。
加護はハート、つまりは体力に関係する能力で、レベルが上がれば回復魔法や自己治癒能力が備わるものである。
だがその加護はシエロ・ギュンターだけが持つものではなく、神への信仰心が強い人の中にはたまにハートの加護持ちがいるのだとか。
俺だけの特別な能力ってわけでもないないのは少しガッカリした。
「てことはシエロはやっぱり最強キャラとかではないんだ?」
「そんなことないわよ。ウレールの加護はシエロ以外に持ってる人なんて数えられるほどのはず。勇者の加護なんて持ってる人いないレベルの加護なのよ?まぁ勇者が居ないからウレール危ないんだけどね」
ウレールの加護と勇者の加護。
能力は全然教えてくれないアリスだがその加護自体は貴重なものだと教えてくれた。
まぁ普通は世界救って欲しいって言うなら全面協力のはずなんだけど。
「とりあえず転生しない事には始まらないか。アリス…頼むわ」
「ア・リ・ス・様、じゃないかしら?え・ぐ・ちくん」
転生する覚悟を決めたのに突っかかってくるアリス。
いちいちかんにさわるやつだ。
女神様ー!とか一瞬でも思った俺のときめきを返して欲しい。
「お前に監視されながらの勇者旅って。…先が思いやられよ」
「あっ、お前って言った!私女神!あなたを救う慈悲深き女神!!」
「………」
「あっ、ちょ、何?え、あーもうごめんなさいごめんなさいごめんなさいー。首絞めにこないでーーー」
俺は首絞めポーズで生意気を言うアリスを追いかけ回った。
全く、異世界転生の直前って本当はこんな感じなのか?
追いかけるのを止めるとアリスは真剣な表情を作り俺に語りかける。
「う、うん、気を取り直して。江口、いいえシエロ。あなたは今からウレールの世界を勇者として救いに行くのです。その覚悟はありますか?」
急におしとやかキャラに戻したな。
しかも最初江口って言ってシエロに戻しやがった。
……でもまあいいや。やるしかないよな。
転生しなかったら死ぬの確定だし。
「あります。俺がウレールを救ってみせましょう」
俺はアリスの前で片膝を付き、頭を下げる。
アリスは空から降ってくる
「シエロ・ギュンター。
アリスの叫びに呼応して景色が一転する。
神々しかった空間から何もかもを吸い込むブラックホールのような暗闇に変わる。
「城で王たちがあなたを待っています!どうか……ウレールを頼みます」
アリスはそう言うと暗闇の中で宙を舞い、どんどん見えなくなっていく。
俺はそれとは逆に暗闇の中にどんどん吸い込まれていくのだ。
意識も遠くなり、見えなくなってしまうアリス。
最後に見たアリスの微笑みはさっきまでのふざけたアリスを忘れさせてくれるほど綺麗だった。
「じゃあ、やりますか!いざアスティーナ城へ!!」
今日から俺はシエロ。シエロ・ギュンターだ!
心の中で自分に言い聞かせながら暗闇に飲み込まれるのであった。
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