5話、黒髪碧眼エルフこそ大正義

 その容姿は際立って美しい。

 黒く長い髪は艶ややかに煌めき、まるで湖面の様に優しく舞う。

 肌は見たことが無いほどの白で、よく物の例えで『白磁のような白』とか言うだろ? でも、そういう無機物的な白さじゃなくて、ちゃんと血の通った生きてる感じがして瑞々しくも白いんだ、伝わるかなぁ?

 おまけに、その瞳はまるで深淵に輝くサファイアのようで、澄んだ深い青色はまるで星々の輝きを閉じ込めたような光を放っている。見つめてても飽きないんだぜ? とは言え、あまり見つめるとバレちゃうから実はそんなに長く見た事はないんだよな……。

 

 ウエストは細くくびれ、小さくも無く大きくも無い丸みを帯びた魅力的な腰つきに、全体的に美しい曲線で構成された彼女の肢体は見る者を魅了し、惹きつける事間違いなしだと思う。俺以外見て欲しくは無いけどね。

 惜しむらくは胸だけが唯一標準サイズ? であり、もう少し大きかったらもうパーフェクトヒューマンなアンリエッタさんだったはず。あ、違うパーフェクツなエルフだな。うんうん。

 

 そんなアンリエッタさんはさ、見た目だけじゃないんだよ。

 ただ優しいのでは無くて、そっと肯定してくれるようなつつしみみ深くもいつくしむ様な優しさで常に俺を見てくれて、その言動には一切の嫌味が無い。

 彼女がいつも後押ししてくれるから俺は頑張れる、やる気にさせる達人だよ、ホント。


 認めたくなかったけど、もう認めざるをえないよね。

 神様、俺とアンリエッタさんを引き合わせてくれてありがとう。

 チートとか何もないけど恨んでないよ?

 スキルを奪えたり、ステータスが見れたり、無限収納とか貰える人だっているそうじゃないですか。羨ましいとは思うけど俺は恨んでません。なぜなら、その代わりにココへ転生させてくれたんでしょ?

 字すら自己努力かよ! とは思ったけど怒ってませんから。

 字を教わる時はアンリエッタさんが凄く近かったしね、ムフフでした、ありがとう。


 今からそんなアンリエッタさんに、魔法について教わるんだ。

 毎日に少しだけ訪れる俺のゴールデンタイムアンリエッタさんと過ごす2人だけの時間

 庭にある大きな大きな石の前に立ち、魔法についていろいろと教えを受ける。

 この大きな石を的に何度魔法を撃った事か、わからない。

 一つ、体内を流れる魔力を知り、魔力の存在を常に意識すること。

 二つ、その流れを意識的に操り、行使したい部分に集中させること。

 三つ、魔力操作に細心の注意を払い、何があってもコントロールを失わないこと。

 四つ、力を持つ者には責任が伴うこと。無暗やたらに乱用しないこと。

 五つ、イメージが何よりも大切なこと。

 この大きな石の前で何度も何度も繰り返し教わってきたんだ、そしてそれはこれからも続く。ただ四に関してはアンリエッタさんにしては珍しく、うるさい程に繰り返し習ったなぁ。

 

「ではぼっちゃま、人差し指に炎を灯して下さい」

「はい」

「もう少し大きく出して下さいますか?」

「はい、これでいいですか?」

「次は中指にその半分の量の炎を灯して下さい」

「はい」

 アンリエッタさんは簡単に言うけどこれが難しい。

 彼女に魔法を教わって数年経つが、いまだに苦戦するレベルなんだ。

 右手と左手でそれぞれに別の魔力量を調整するのはまだ簡単なんだけど、同じ手のそれぞれ違う指ごとに魔力量を調整するのが本当に難しいんだ。

「少し乱れてますね」

「う……」

「まぁいいでしょう。ではそのまま逆の手の小指に更に半分の炎を灯して下さい」

「はい」

 ぐぬぬぬ、来たな、これが本当に難しい。

 右手に大・中の炎を維持しながら左手に小さな炎をコントロール。しかも小指!

 右に意識が行き過ぎると左の制御が乱れ、慌てて左に意識をやると右の2つの炎が同じ大きさになってしまう。

 左右の手を意識するのでは無く、3つの炎にそれぞれ等しく意識を配分していく。もう少し、もう少しでコントロール出来るぞ。

 

「わっ!」

「うわっ」

 俺の鼻先から僅か10cmくらいの距離に迫るアンリエッタさんの美しい顔、あと、ほんの少しで触れ合える唇と唇。炎に集中してる場合じゃなかったああ。やり直しを要求するぅ! させてくれぇぇ(泣)

 

 意識を3本の炎の制御に集中していた僕を驚かそうと、彼女が行ったあまりにも可愛すぎる悪戯。

 近すぎた位置から、元の位置に戻ったアンリエッタさんが言うんだ。

「ぼっちゃま、まだまだですね〜。火がぜーんぶ消えてしまいましたよ?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべる黒髪碧眼のエルフさん。

「うふふ」

 前世で金髪エルフこそ正義とか言ってたオタクな看護師、あいつに言ってやりたいよ。あぁ、1分だけでいいから元の世界に戻ってあいつに自慢したい。

『黒髪碧眼エルフこそ大正義』

 それ以外はもう認めません。

 前は正直どうでも良かったけどな。でももうダメだ、エルフについて寛大な期間は終了した。


↓ そんな大正義さんの挿絵です ↓

https://kakuyomu.jp/users/MinawaKanzaki/news/16818093074347248701


「どんな時も魔力の制御を手放したらダメですよ?」

「い、いまのはズルいよ!」

「ズルくありませ~ん」

 くぅ、この天使め。

「今はまだ簡単で、比較的魔力を消費しない魔法で練習してますが、大規模魔法を準備してる際に制御を失うと危険ですからね? 自分や仲間に還って来るんですよ?」

 もし俺が魔法の制御に失敗して、それが原因でアンリエッタさんが傷ついたとしたら俺は自分が許せないかもしれない。これは真面目に練習しなきゃいけないな。

「わかった。頑張るよアンリエッタさん」

「ぼっちゃまは凄いんですけどね。本当に頑張ってると思います」

「僕は毎日が楽しいから……、だから頑張ってるだけだよ?」

「うふふ、魔法を教えて4年くらいでしょうか? エルフの子ですら及ばない成長ぶりですよ? 本当凄いんだから」

 頭を撫で撫でしながら、ウィンクしてくれる褒め上手なアンリエッタさん。もう少し大人扱いして欲しいけど、大人になっちゃうとそれはそれでもうくっつけなくなるんだよな。子共パワーも使えなくなるし……はぁ、悩ましい。


 アンリエッタさんとの楽しい魔法訓練の時間が終わりを告げる頃、僕は前から気になってた事を聞いてみた。

「アンリエッタさん」

「はい、どうしましたか?」

「結構前だけど、そ、その、太ももにナイフを隠しもってたよね?」

 首を少しだけ傾げた後に、スカートをたくし上げてナイフを1本取り出すアンリエッタさん。

 本当に、本当に久しぶりにやってきたサービスタイムに俺の心臓は早鐘が鳴る様に打った。細身なのにむちっと程よい肉付きの太ももさん、お久しぶりです。出来ればもう少し頻繁にお会いしたいです。ダメでしょうか? ねえ太ももさん。

 俺はこの綺麗で優しくて、無防備なポンコツエルフさんが大好きです。

 

「これですか?」

「そう、それです!」

「これがどうかしましたか?」

「刃物を持ってると言う事は、アンリエッタさんって戦えるのかなと」

「剣術の方は多少たしなむ程度ですね。魔法は得意なんですが……」

「僕、もっともっとアンリエッタさんのお手伝いするから! 頑張るから! 剣術も教えてくれませんか?」

「剣術はお館様に習ってるじゃないですか? それを続けたほうがいいですよ?」

「──私は本当に、嗜む程度ですから……」

「父さんはご領主様の所にいつも居て家にいない事が多いでしょ? 毎日案山子相手だと上達してるのかわからないんだよ」

 顎に指をあて思案するアンリエッタさん、少し悩む時はいつもこのポーズなんだ。

 悩める彼女も良き。

「わかる気もしますね……、相手が欲しいという事ですか?」

「うん、父さんに勝ちたいんだ。そして喜んで貰いたい」

「まぁ、良い夢ですね」

 アンリエッタさんが、花が咲いたように笑う。

「わかりました。本当に、剣は人に教えれる程では無いのですが……、お相手はさせて頂きますね?」

 と言い、やっぱり今日も慈しむような笑顔で支え、応援してくれるアンリエッタさんがいた。いつも必ず肯定してくれる。素敵な素敵な女性ひと


「では行きましょうか」

 手を繋ぎ、俺を館へといざなうアンリエッタさん。

 アンリエッタさんは忙しい。

 もう1人の使用人であるオデット婆さんは既に高齢で、無理が利かない彼女は我が家の食事周りが主な担当だった。それ以外の全ての雑務は自然とアンリエッタさんが受け持つ事になる。

 俺が手伝ってるといっても実際のところは朝の水汲みと、夕方の湯浴み釜への水汲みだけなんだ。

 館へ戻ろうと手を引く彼女に逆らう俺。

 付いてこない様子に彼女が振り向いた。

「どうしましたか?」

 夕日に照らされたアンリエッタさんは本当に美しくて、俺にはまるで女神様のように見える。転生の際にだってお目にかかった事がない神様だけど、もしいるならこんな姿をしてるんじゃないだろうかと思わせる程に……。


 今日も幸せな事がいっぱいあって、それはいつだって彼女のお陰で。

 こっちの世界に来てからもう結構な月日がたつけど、俺はいつも幸せでした。

 子供な自分が言ってもたぶん、たぶん届かないだろうけど、この心はもう止められない。

 緊張でぶるぶると震えだす体、拒絶されたらと思うと息もできない。

 でも伝えずにはいられない。

「アンリエッタさん」

「はい?」

「僕はあなたが好きです」


 夕日に照らされた彼女はやっぱり美しくて、そこには不快な表情や、悩まし気な表情の一切が映される事なく、毎日側にいた俺でさえ見た事が無いようなとびきりの笑顔で答えてくれた。

「えぇ、知ってますよ? わたしも大好きです」


「うぅぅ」

 嬉しくて涙が出た。

 あの笑顔を見たらわかる。だてに毎日毎日見ちゃいない。

 俺の求めていたじゃなかった。

 たぶん姉が弟に、母が我が子に答えるようなニュアンスが多めなんだ。

 それが全てだとは思いたくない。

 それでも、前世を含めて生まれて初めてした告白に『大好きです』とアンリエッタさんが答えてくれた事が嬉しくて、涙が止まらないんだ。

「あらら、泣かないでください」

 泣き顔を見られるのが恥ずかしい俺は、泣き顔を隠すためにアンリエッタさんにしがみつき、その顔を隠すのだった。

 いつかもっと大きくなったらもう1回言うんだ……。諦めないからね。


_____________________________________

神崎水花です。

2作目を手に取って下さりありがとうございました。感謝申し上げます。


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