金魚のため息 偏愛と欲望の結末
雫石しま
はじまりの終り
第1話 川面
陽の光も届かない鬱蒼とした杉林には朝靄が立ち込め、今は誰も居ないキャンプ場の片隅にそのロッジは息を潜めていた。
息も絶え絶えに背の高い雑草の海を掻き分けると、その指先は紙で切った如くの切り傷となりうっすらと血が滲んだ。泥だらけになった右足の革靴を置き去りにして掴まり処の無い土手を駆け上がろうとするが、脚が
「悪かった!・・・助けて、許してくれ、許してくれ!」
グレーの背広は泥に塗れ、折目正しかったスラックスはボロ雑巾、白かったワイシャツは見る影もない。首に
「やめてくれ!助け・・・
次の瞬間、天と地が逆転したかの様な衝撃が後頭部を貫いた。手を伸ばしてもそれは空を切り、全て絶望に変わる。耳が鼻が口が、毛穴の一つ一つがもう許してくれと悲鳴をあげるが声にならず泡となり、安易に
ボゴガボボゴボゴガボ
ボゴガボボゴボゴガボ
髪を振り乱した女は男の胸に馬乗りになると、白く華奢な腕からは想像も付かない力でその首を締め上げた。
ボゴガボボゴボゴガボ
ボゴガボボゴボゴガボ
男は激しく揺れる水面を見上げて絶望した。覗き込む碧眼、濡れそぼった桜色の髪、真っ赤なノースリーブのワンピースを着た金魚がため息を吐いた。
「西村さん、あなたがいたから人間になれたのに」
ボゴガボボゴボゴガボ
ボゴガボボゴボゴガボ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます