Sasakure-Scream System

達田タツ

SSS

 うぅ

 うぅ

 うぅ



 二八XX年。


 この都市の発電機を支えるのは、思念エネルギーだ。


 生物が生来持つ思念エネルギーを熱量に変換してタービンを回している。



 うぅ

 うぅ

 うぅ



「やぁ、ミスター。仕事は順調かな」


 市の職員が管理室に現れた。


「こちらもつつがなく終わったよ。今朝も十人ほど、招集に応じてくれたね」


 饒舌な男。


 彼は三日前にも、ぼくの恋人をこのSSSへ連れてきた。彼女はいまも、シリンダー内で職務に励んでいる。


 エネルギー生産に必要なのは、指先にできるほんの小さな裂傷である。


 ささくれだ。



 うぅ

 うぅ

 うぅ



 技術者は、人類が唯一克服できなかったこの病に注目した。


 シリンダーに収められたは、三秒おきにささくれに触れる業務にあたる。


 指先に発生した痛みは瞬時に脳を活性化させ、とある特殊な思念を発する。とても微弱で、かつては取るに足らない反応に過ぎなかった。しかし突出した医療技術により、あらゆる疾病から解放された今、痛みに関わる反応は貴重なもの。


 ささくれは恒常的痛覚メカニズムとして、都市を支える思念エネルギー発電に利用される。



 うぅ

 うぅ

 うぅ



 ぼくは、充員たちが遅滞なく仕事を成し遂げる様子を管理している。


 シリンダー群の唸りは、さながら二十一世紀のガソリンエンジンのような魅力的なサウンドを奏でる。


 SSSはシリンダーの配置で種類が異なり、とくに滑らかな音を出すのは三十二人筒SSSだ。わずかに発動タイミングのずれた三十二人筒の重奏は、かつてのオーケストラを拝聴するに等しい。


 ささくれに触れるのは辛い仕事ではあるが、この世に楽な仕事は存在しないし、なにより、都市を支えているという誇りが充員にはある。


 そうさ。


 ぼくらの生活というものは、だれかが苦しみながら遂行する仕事の上に成り立っているんだ。


「ミスター、終業だ。私は先に帰るよ」


 市の職員は招集者名簿を片手に管理室を出て行った。



 うぅ

 うぅ

 うぅ



 うぅ。


 指先が痛んだ。


「やぁ、ミスター。おめでとう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Sasakure-Scream System 達田タツ @TatsuT88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説