第8話 首だけトカゲと、落ち込む勇者

「アルト!無事か!?」



「お?勇者か」



ファフニールを頭だけにし、噛みつかれるのも嫌だったので

口をロープでグルグル巻きにしていると勇者がやってきた。



どうやら町からここまですっ飛んで来たらしい。


俺が帰ってこないから心配されたのだろう。

ファフニールがムー!ムー!と抵抗してくるせいで縛りににくいったらありゃしない。

コイツのせいでいらぬ事をさせちまったな。



「ちょうどいい、手伝え」



「手伝えって、捕獲したのか!?」



「何か知ってるみたいだったからな。後で尋問しといてくれ」



縛ったファフニールを浮遊魔法で浮かせる。

残念ながら尋問は専門外だ。



下手に自分でやろうとして、せっかく捕まえたコイツに

トドメを刺してしまってはもったいないので、お任せしようと思う。



「ケガは大丈夫かい?」



「聖女に治してもらったから問題無いよ。すまない、また君に倒してもらってしまった」



「かまわんよ。戦闘しか出来ないんでね。そのかわり他で助けてくれよ?」



勇者になぜか謝罪をされてしまったので、片目をつむりながら言い返す。

なぜか勇者は俺が代わりに敵を倒してしまうのに、罪悪感を覚えているようだ。



なかなか面倒くさい奴だ。

敵を倒したぜ、やったあああ!っとただ喜べば楽なのに。



「わかったぞ。貴様だな?魔王様を殺したのは」



「あ?あ!テメエ!縄ほどきやがったな!」



勇者とそんなやりとりをしていると、ファフニールが会話に割り込んできた。

口を縛ったはずなのになぜしゃべれる?と思って見てみると、なぜか縄がほどかれている。

このトカゲ野郎!そのくらいする余裕はあるってことか!



「それにアルトと呼ばれていたな。貴様が魔道師アルトか。

魔王様との戦闘で死亡したと聞いていたのだがな」



「お前に説明してやる必要はねえだろ?おとなしく黙ってろ」



「断る。しかしそうか、貴様が魔王様を殺したとなれば納得がいく。

勇者は我らの目を背けさせるお飾りか。だまされたよ」



ファフニールが饒舌に言う。勇者を侮辱するような発言だ。

勇者は少しムッとした顔をした。



図星、という顔だろうか。

ファフニールはそんな勇者の顔をみて、盛大に笑った。



「黙れ!」


「ぎゃ!」



俺はファフニールの頭を叩き、再び口を塞ぐ。

今度は魔法で強化した縄で、厳重に。



「ムー!ムー!」



「勇者、魔族の言葉を真に受けるなよ?所詮獣の言葉だ。

俺達を惑わそうとしているだけだよ」



「すまん、アルト。だが、コイツの言ったこともウソじゃない」



「?」



「僕は飾りだ。君や王国の主力の皆さん達から魔族の目をそらすための。

なのにちまたでは僕が英雄ということになっている。今日だって君がいなかったら負けていた」



勇者はうつむきながら言った。少し声が震えている。

どうやらいろいろ面倒くさいことを考えているらしい。



確かに彼の言っていることは事実だ。

勇者という存在は、正直にいってしまえばそこまで強くない。

王国には彼以上の実力者がわんさかいる。



魔王軍との戦いで、主力になったのも彼らだ。

そして勇者は王国のプロパガンダ、要するに広告として使われている。



彼は王国という商品のイメージアップをはかる広告なのだ。

だが、それの何が悪い?



広告があるおかげで他国からたくさん支援がもらえる。

その支援のおかげで、俺達は装備を調えられ、鍛練がつめる。



俺達の強さは、勇者の活躍があって担保されているものなのだ。

だから今日コイツを捕獲できたのも、勇者のおかげとも言える。



それなのにどうしてコイツはうつむいているのやら。

昔からこうなんだ。真面目くんは大変だね。



「適材適所だろ?俺には勇者の真似は出来んよ」



「・・・・・すまない」



「ムー!ムー!」



とぼとぼと歩く勇者とムー!ムー!叫ぶ首だけのファフニールと共に町へと帰る。

町に帰ると、すぐに戦士と聖女が駆け寄ってきて、その後兵士や町の住人たちに盛大に感謝をされた。



勇者は先ほどまでの落ち込みがウソのように、背筋を伸ばし住民達を鼓舞している。

仕事に不満はあるが、真面目にはこなすつもりのようだ。



まじめだねえ~。

無理してなきゃいいけど。



で、ファフニールは、王国へと引き渡し、尋問をしてもらう。

うるさい奴がいなくなって、情報も引き抜けて一石二丁だ。

じゃあ、あとたのみます。



無事、一件落着だね。



ちと勇者については気になるが。

まあ、少しは気にかけてやるとするか。



しかたないにゃあ。

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