第5話 大取、逃がしちゃった

勇者に手を引かれ、彼の家へとつれて行かれる。



そして勇者の家で風呂を借りた。

勇者の家はとんでもなく豪華になっていた。



貴族様が住むような所だ。

そのおかげか風呂もすごい。



風呂だけで人が住めてしまいそうなほどだった。



魔王を倒した勇者パーティーなのだからこれくらいは

普通なのかもしれないが、元孤児で、貧乏な孤児院暮らしに

なれているのでどうもなれなかった。



勇者のやつ、いい生活してんねえ。



風呂から上がる。



「借りたぞ。風呂もすごいんだな」



「ああ、僕には分不相応のモノだけどね。

断ったのだけど、世界を救った勇者が貧乏暮らしでは国も示しが付かないらしい」



「ふ~ん」


勇者が魔法を使い誰かに連絡をしながら告げた。



本人が断っても、国に押しつけれるってこともるのか。

贅沢なおしつけだな、と思った。


「水もらうぞ?」



「うん。で、アルト、湯加減は、て、うわあ!?」



「あん?なんだよ?」



勇者は何かを話そうとこちらを向く。

そして水を飲む俺を見た瞬間に驚き、椅子から転げ落ちた。

どうしたんだこいつ?



「ななな!なんで服を着ていないんだよ!」



勇者が叫ぶ。


ああ、そういうことか。



今の俺は風呂上がりで全裸だ。

タオルだけ首にかけて装備しているがね。

熱いんだからしかたねえだろ。



「何をいまさら。孤児院の時からずっとそうだっただろ?」



「そうだけど!そうじゃない!今の君は、体は女の子なんだぞ!」



勇者は顔を赤くして、手で顔を覆いながら叫んだ。



「お前なあ、中身は俺だぜ?そんな体をみてお前は興奮すんのかよ」



「う、うるさい!いいから着ろ!着てくれ!」



なんだこいつ。

めちゃくちゃ動揺してるじゃねえか。



自分の体を少し見てみる。

ふむ。膨らみは控えめだな。



そして前はあった自慢の息子も存在が消失している。

筋力も少ないし、身長も半分以下だ。



前は勇者より俺の方が背が高かったのに、

いまでは彼が山のようにデカい。



まあ俺は魔法を使って戦うので、

魔法さえ強ければ別に問題ないからいいのだけどね。



「貧相な体になったもんだ」



「いいから!はやく!」



勇者に急かされたのでしかたなく服をきた。



そんなやりとりをしているとドタドタと足音が聞こえてきた。

そして勇者の家の扉が勢いよく開かれる。



見えたのは戦士と、聖女だった。



「勇者!あの連絡は本当か!?」



「そうですわ!あんなの冗談にしても悪質すぎますわよ!?」


開口一番、二人はそう言う。

かなり焦っているようだった。



勇者はそんな二人をなだめつつ、俺をひょいっと持ち上げる。

そして


「本当だよ。ほら、アルト、二人だ」



と俺に語りかけるのであった。



「ひさしぶりだな、二人とも」



俺が手を上げながら声をかけると、二人は目を見開く。

そして聖女は一気に手を伸ばしてきて俺を持ち上げてきた。



「アルト?アルトなのですわね?」



と抱きしめてくる。



う、うげえ!

つ、つぶれる!


つぶれるから!



やめろ聖女!



「すまなかったな、アルト、良く帰ってきてくれた」



戦士も謝り大粒の涙をながしながら、聖女ごと俺を抱きしめてくる。

なんだこれ!



身動きがとれねえ!

勇者といいこれがデフォなのか!?



はなれろお!



数時間後。



やっと二人が離してくれた。

でもいまだにうお~んうお~ん泣いている。



どうやら魔王との戦いで、真っ先に戦闘不能になってしまったことに罪悪感を覚えているようだ。



私達が弱かったせいで、アルトは死んだ。

そんな罪悪感。



かかか!別に覚える必要はねえよ!

魔王が想定より強かった。

それだけだ。お前らは何も悪くない。



「まさか、3年ぶりに、勇者パーティーが全員あつまれるとはね」



泣いている戦士と聖女をなだめながら、勇者が目を細めていった。



「これから、また一緒に冒険しよう」



戦士が泣きながらいった。



「ええ、アルト、この罪は行動で返しますわ!」



聖女が何かを決意したかのように告げた。




次は俺の番だ。

最後の大取だ。かっこ良く決めさせてもらうぜ!


と、口を開こうと瞬間、



ドン!と再び勇者の家の扉が開かれ、勇者の部下が入ってくる。


「勇者様!緊急事態です!竜の!竜の大群が表れました!」



・・・どうやら緊急事態のようだ。



「さっそく勇者パーティーの出撃みたいだな」



最後の大取を奪われ、すこし悲しみに暮れながらぼそりと言うと、

三人は顔を輝かせながら、



「「「おお!」」」


というのであった。



仲良しかお前ら。

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