第64話 田舎王子 静流に救われる

----------------------------------




●ゴンドラ内 彩羽&静流ペアサイド



「はぁーーーなんでよりによってアンタとなんだろ・・」


「あぁ?アタイだって本当は旦那さんと乗りたかったんだ!」


二人はお互い向かい合って腕を組んで睨み合っている、ふと二人は自分達の先を進む雅と空の乗ったゴンドラに視線を移す


「「はぁーーー」」


お互いに溜息が被って、少し気まずい雰囲気になり一言もしゃべらないままゴンドラは進んでいたその時


【ガゴン】急に観覧車が停止した


『お客様にお知らせいたします、ただいま強風による揺れを検出して設備の安全装置が作動しております』

『万が一の事が無い様にするための安全装置ですので、お客様への危険は御座いません点検が終わり次第再度動きますので、今の時点で体調のすぐれないお客さまがいらっしゃいましたら緊急ボタンにてお知らせください』



「はぁもう最悪ね」

「・・・なぁ少し話しねぇか」


静流は彩羽の方を黄金に輝く瞳で見つめる


「ええ、まぁこのまま黙って待つよりは暇つぶしになるかもね」

「そ、それじゃさ、彩羽のしってる旦那さんの事、アタイに教えてくれねぇか!」


そう前に乗り出して、彩羽の膝に手をついて頬を赤らめてお願いする静流に

「はぁ、まぁ良いけど、でも詩織の方が詳しいと思うから私の知ってる範囲ね」


そういうと彩羽は雅との事を静流に話出した、初めて撮影スタジオで見かけた時の事、事務所で雑誌の写真を確認したあと一緒に車で帰って悩み事を聞いてもらった事、転入生として雅が紹介されその時に起ったバタバタ、4人の許嫁で会食した事


「なるほど、確かに改めて聞くと運命的だな、アタイらと旦那さんの出会いは」


「さぁ、あたしは知ってる事を話したわ、今度は貴方の番よ」


静流は静かにうなづき、自分が雅に喧嘩を仕掛けて流れで空と戦いになり、隙をついて鬼道が襲ってきた出来事を彩羽に話した。



〇七星 静流 回想


「もうやめて!これ以上は、アタイは大丈夫だから!!もうお願い!」

無我夢中で雅に抱き着く、既に体のあちこちが痛かったがそれよりも、アタイを助けてに来てくれたはずの雅に対し【恐怖】に震える、アタイは感謝するべき、雅に対する恐怖と止める力の無い自身の無力さからの、悲しみで涙が溢れてる。

雅は抱き着いたアタイのほうをチラっと見て、少し驚いた顔をして


「静流、お前・・・


と呟くと、電池の切れた玩具のようにアタイの胸に倒れ込んできた

「雅!おい!雅!、しっかりしろ!おい!」


雅の瞳から力が無くなっていくのが判る


「だ、だめだ!!、雅!返事をしろ!!雅!!、お前はアタイの婿になるんだろ!こんな事でくたばるな!!!」


雅の腹の丹田を押さえて気の拡散を抑えるが、既に雅の丹田に気を感じない


「こ、このままでは・・・」


アタイは自分よりはるかに背の高い雅をさっきまで鬼道がめり込んでいたベンチにゆっくり下し寝かせると、必死に丹田に自分の気を送り込む


「だ、ダメだ、ばあちゃん、アタイ上手くできねぇよ・・」

以前にばあちゃんから、治癒気功について手ほどきをうけたが、自分には拳で相手を制圧する方が向いてるからとあまり真剣に取り組まなかった。


「あの時、もっと真剣にばあちゃんに教えてもらってれば・・・」

小学校高学年の時にばあちゃんに手ほどきされてた時の事を思い出す


『静流、あんたはほんまにじいさんに似て乱暴な気の練り方じゃな』

組手でも、ばあさんは片手でアタイの蹴りや突きをいなしてくる

『は、は、は、ぁば、ばぁちゃんは避けたり、防ぐだけだ!アタイはどんな相手を叩きのめせる程強くなりたいんだ!』


『はぁー、静流にはまだ早いか・・そんなんじゃ本当に好きな人が出来た時にその人の力になれないよ?』

ばあちゃんの言葉にアタイは顔を赤くして

『は、はぁ??アタイに好きな男なんか出来るかよ!まぁアタイよりはるかに強い男の子にならもしかしたら、考えてやるけどもよ!』


『はは!それじゃ、その時の為に静流にとっておきの治癒気功の奥義を教えようかねぇ、その方法は・・・





静流は雅の額に優しく手を置き


































そっと雅の唇に自分の唇を重ねた・・・



掌から気を送り込み、深く自分の丹田に溜めた呼吸を直接雅の唇から送り込む

アタイは、何度も呼吸で気を練り丹田に溜めそれを雅の唇を通して送り込んだ


何度目だろうか、雅の顔に赤みがさして呼吸が安定してきた、アタイは雅の唇から自分の唇を通じて返ってくる生気の籠った呼吸を感じとり

「フゥーー」と安堵してその場にへたり込んだ。


ベンチに座り、雅を自分の膝にのせて、その額に手を置きそっと気を送り込む


「はは、あの時は上手く気を送れなかったけど、何故か今は上手く出来てる・・」


自分の膝の上で、穏やかに寝てる雅を見ていると何故か胸の奥がジワリジワリと温かくなってきてそれと同時に締め付けられるような苦しさを感じる

「おかしいな・・さっき気を送ってる時はこんな苦しく無かったのに・・もう一回気を直接送ってみるかな・・」

そう思い、雅の顔を持ち上げて前に屈み唇を合わせようとした時




「稲ばあちゃん!」


「どぅあーーーぁ!」


雅が急に起き上がってきたので危うく頭がぶつかりそうになり後ろにのけ反った

雅は振り返ると、アタイの顔をじっと見ているがその焦点は合ってない


「おい、雅!大丈夫か?!」


雅の後頭部をそっと撫でると

「あの、俺・・段次郎じいちゃんと修行中に、小熊に襲われて・・でも!小熊は悪くないから!だから稲ばあちゃん怪我の事は内緒にしてくれないかな!」


急に訳の分からない事を言い出し、アタイの手を握ってきた、急に手を握られたアタイは混乱して

「はっえ!?え?・・うん?」

と曖昧な返事をすると

「やったーーーありがと!稲ばあちゃん大好きーーー」

と雅に思いっきり抱きしめられた、アタイの鼻先に雅の首筋があり、その安心感のある幸せな匂に頭がクラクラする

「ちょっちょっと、雅ぃ!これは流石に・・・」

雅に抱きしめられただけで、胸がどきどきしてお腹の下がキュウッと締め付けられるようだった


しかし、混乱から覚めてきた雅がアタイの顔をジーとみてる

「あ、えぇえ、み、雅・・そ、その、平気か・・」


「どぅあーーーぁ!」

今度は雅が動揺して後ろにのけ反る、このままではベンチから落ちてしまうと思い「危ない!」とアタイは雅の頭を抱きしめた。

自分が雅を抱きしめると、また胸がどきどきしてお腹の下がキュウッと締め付けられた、なんか自分の体が自分の物でないような感覚がして雅をまともに見れない


「あ、あのぉ七星さん、これは・・・みやび?ん?七星さん僕の事、名前で呼んでましたっけ?」


アタイはハッとした、気持ちに余裕が無くアタイはいつの間にか名前で呼んでたみたいだ

「はっ?はぁ~ぁ?最初から、そうだったそうが!本当に頭大丈夫か!?」

と適当な理由で誤魔化したけど、雅の後頭部に添えた手に雅が自分の手を重ねると


「すいません、出来たら何があったのか詳しく教えていただけませんか?逃げてる途中で【解放】したようで、記憶が混濁してるようです」

やはり思った通り、雅はじいちゃんと同じく【解放】の使い手だったようだ、もしかしたらと思っていたが自分を同じ年齢の若者が親父でも到達できてない頂きにいる事に少し複雑な思いと、強い憧れを感じた

アタイは、雅にさっきまで何があったのかを出来るだけ詳細に伝えた

話しの途中から、雅は青ざめた顔で自分の顔を手で覆うと、アタイの前なのに子供のように泣き出した


「ぼ、僕は、、何てことを、、」


さっきまで悪漢達を蹴散らしていた男と同じ人物を思えない程、その丸まった背中が儚く見えて思わず雅の頭を抱きしめた

「自分を責めないでくれ!確かに雅は強いし相手に対しやり過ぎたとアタイも思うけど!」

「雅が来てくれて助けてくれなかったら、アタイは・・・アタイは・・」


さっきのドキドキして締め付けられる感覚とは違って、今度は胸の奥がポカポカ暖かくなった。

(雅には、誰にも負けない強さと、いまにも壊れそうな脆さを感じる・・)






・・この初めての感覚は・・アタイは、危うさも優しさも全て含めて雅を支えたい、今日この日から雅の事を心から好きになったみたいだ





-----------------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る