第45話 田舎王子と七星 静流
●七星 静流回想
高校2年に上がる前の春休み、アタイは何時も通り実家の一堂流道場で稽古をしていた。
七星家は、建築土木関係の大手グループだ、また色んな武術にも精通しており全国の様々な武術道場を運営している。
会社の経営は母さんが担っており、親父はもっぱら武術の分野で後進の指導に力を注いでいる。
アタイは頭を使うのは苦手で、とてもじゃ無いが母さんの様に駆け引きとか出来るとは思えないので、小さな頃から親父の背中を追いかけて来た。
七星の家が代々受け継いでいる【一堂流】という古流武術は現代武術である打撃、投げ、締め技に加え中国拳法にあるような【気】と呼ばれる体の中の循環機能を向上させる技術もある。
その【気】を極めると、自己暗示で日頃から発揮出来る力をセーブしておいて、いざという時に自己暗示を解き、セーブしていた力を100%発揮できる状態を作りだし、超人的な力を得る技があるという
夢みたいな技だが、デメリットもある習得者は、自己暗示によって日頃の怒りや恨みといった感情も抑制している為、解放時に酷く暴力的になってしまい場合によっては暴走してしまう可能性もあると言う
しかも修得には、膨大な時間と厳しい修行に加え飛びぬけた才能と穏やかで優しい性格を持つ人格者でしかその頂に到達できないと言われる。
実際に修得に至ったという人物は七星家歴代でも3人程しか居ないと言われており、その一人がアタイの爺さんでもある【七星 段次郎】(ななほし だんじろう)だ、じっちゃんとは年に1、2回しか会えないが纏ってる雰囲気で絶対的強者の風格を感じさせる
親父も、修得すべく厳しい修行を今も続けているが未だにその頂きに到達出来て無い。
それでも諦めず、精進する親父をアタイは心から尊敬している。
それに親父の修行は無駄ではない、修行の過程でいくつかのオリジナルの技も編み出した、それが【七星式】と呼ばれる派生技の数々だアタイは親父のようになりたくて、技の指導をお願いし修練を重ねた。
未だすべての【七星式】を身に着けたわけではないが、アタイは道場の中で親父に次いでの実力と位置づけられるようになった。
アタイは七星の家が好きだし、なにより親父を尊敬している。
いずれアタイが後を付いて【一堂流】では無く【七星流】として世間に認知させたいと、密かに思うようになった。
そんなアタイは、西王学園では孤高のセブンスターと呼ばれており、武術を極めたいと思う心に反し体は女性らしく成長していった。
大きくなる胸をあえて隠さず見せる事で『自分は胸が大きい小さいなんか気にしてない、人目もきにしない』と自分に言い聞かせるようにしていたが、周囲の目は違っていた
アタイの容姿に好意を持って寄ってくる男は、いつも下卑た目でアタイの胸をみて迫ってくる。
【アタイにタイマンで勝てたら、付き合ってやるよ】
これが、アタイの断り台詞だ、最初の内は何人か挑んでくるも、秒殺されていく男達の噂はあっと言う間に広がりアタイに告白してくる鬱陶しい男も最近は居なくなった
しかし遠くからアタイの体をジロジロ見る目線に日々イライラしたが「お前らの目線なんか気にしてねぇよ」と自分に言い聞かし、この格好を辞める事はなかった。
そんなある日、生徒会に所属する【鬼道 魁】という男子生徒から久々に交際を申し込まれ試合をする事になった。
どうやら鬼道は全国に展開する【鬼道館空手】の館長の息子らしく本人もかなりの手練れらしい、確かに今までの連中よりは出来るとは思うがやはりアタイの敵では無かった。
何撃かいなされたが結局数十秒で鬼道はマットに沈んだ、しかし奴の執着は収まる事が無かった。
それから何度も挑まれたがその都度返り討ちにしていた、何回も手合わせすれば多少は情が沸くものだが奴の下卑た目線はどうにも好きになれなかった。
そんなある日、2年に進級したアタイの前に【六橋 空】という新しく生徒会会長になった女が現れて、アタイに体育祭の実行委員の一人に加わるように言ってきた
当然そんな面倒な事は御免なので、軽くあしらうつもりで六道の肩に触れようとしたらアタイの手は空を切り、六橋の扇子がアタイの首筋に突き立てられた
この瞬間の六橋は、じっちゃんと親父以外で初めてアタイの背筋に冷たい物を走らせやがった。
アタイが扇子を振り払い、振り返るとそこには既に六橋は居なかった。
「七星さんは、必ず「実行委員をする」と、うちの所に来ますよってぇ、本日はこの辺で引き下がりますぅ、ほなさいならぁ」
声のする方を向くとまたしても、アタイの背後を取ってた。アタイはその日の内に親父に六橋の事を聞いた
親父の話では、六橋の家は代々舞踊を収めており、舞踊は武術とも精通する所があるという、しかも受け身の技の多い六橋舞踊と格闘武術は相性が悪いらしく今の時点では決して手を出すなと言われた。
アタイは腹に思う事があったが、尊敬する親父のいう事だし黙って従う事にしたが・・・
親父はその後で、とんでもない事を言い出した。
「六橋 空とお前は一人の男性を巡って争ういわばライバルだ」と
アタイは意味が分からず、親父に説明を求めた
「説明も何もない、お前は一堂 雅様に生涯を誓う許嫁だ、しかも雅様にはお前以外に5人の許嫁がおられる六橋もその内の一つだ」
さすがに理解できない事を言う親父に食ってかかった
「はぁ?許嫁?そんなもん認められっかよ!しかも、何人も婚約者を侍らすような軟弱野郎!願い下げだ!」
そう言うと、親父の顔が怒りに真っ赤になった
「貴様!誰の事を言っているのだ!雅様に対し失礼な言動は、この儂が許さんぞ!!」
そういうと親父にコテンパンに折檻された、ズタボロになったアタイは道場に仰向けになり、ふと六道の言葉を思い出す
『七星さんは、必ず「実行委員をする」と、うちの所に来ますよ』
悩んでもアタイの頭でわかるはずもない、翌日生徒会室に向かい六道に直接聞く事にした。
「六道、お前の話少しきかせてもらうぞ、実行委員とはどういう事だ?!」
六道は扇子で口元を隠しニヤリと笑うと、「しかた、おまへん」と言い席に座るように言った
「・・・・・・・・・・・・・・・と言う訳です」
「つまりアレか、今度の体育祭での向こう(東皇高校)の実行責任者に一堂 雅が決まっていると・・・」
「そうですぅ、静流さんも、うちと同じ宿命の許嫁でっしゃろぉ?だったら、お家を背負ってる以上あちら側に居る4家にこれ以上出し抜かれてもよろしいのかぁ?」
六橋の話を聞く限りどうやらコイツも雅とやらに恋愛感情を抱いてないようだ、お家の為とかプライドとかで東に何か仕掛けに行くらしい
「なるほど、アタイとしてはお前の言いなりになるのはムカつく限りだが此処はあえて言わせてもらおう」
「実行委員引き受けるぜ」
一堂 雅、親父には何を言っても通じない、しかし実行委員として東の会合に同行すれば六橋は他の家を出し抜く為何か仕掛けるはずだ
ここは六橋のお手並みを拝見して、あわよくばアタイが直接手を下して一堂を仕留めてやる。
アタイ程度にねじ伏せられるようじゃ、とてもアタイの旦那は務まらない
一堂 雅ぃぃ
【アタイにタイマンで勝てたら、付き合ってやるよ】
--------------------------------------------------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます