閑話ユーリィのレシピその3


「やったなユーリィ! あの南の魔王アファネスに一泡吹かせたぞ!!」



 ローゼフは厨房で小躍りしそうな程喜んでいる。


 彼は以前、この魔王城で宴を開いた時に自分が出した料理を大いにバカにされ、主であるザルバードの顔に泥を塗ってしまった。

 そして今回のグランドクロスの会合で、また料理を出す時に同じくバカにされることを恐れていたが、ユーリィのお陰でそれは回避できていた。



「ローゼフ、それは良いけど最後のデザートまで気を抜いちゃだめだよ!」


 ユーリィはそう言いながら、急ぎ戻ってきた厨房のオーブンの様子を見ている。

 最後のデザートであるアップルパイを焼いていたのだった。


 魔王たちはメインディッシュの牛の丸焼きに驚き、そしておかわりを要望していた。

 ユーリィたちはそれをこなして、すぐに次の料理の準備と仕上げのデザートの様子を見る為に戻って来た。



 今回のアップルパイにはカスタードクリームも使っている。


 ユーリィ―は前日から色々と準備をしていた。

 生地はバターを練り込みながらサクサク感を出したいために、何度も練りながら折り返しをして、クロワッサンにも使えるほどの積層にした。

 

 中のアップルも、薄切りにした物を砂糖水で煮つけ、そこへきつくならない程度のシナモンを入れ、香りづけをする。

 甘さにコクを出す為に、隠し味にはちみつも使っている。


 そして肝心要のカスタードクリームだ。


 卵の黄身に上質の白砂糖を入れてすぐにかき混ぜ、そして振るいで細かくしておいた小麦粉を混ぜる。

 手早くそれをかき混ぜ、温めておいた牛乳ときざんですりつぶしておいたバニラを一緒に混ぜる。

 そしてそれを中火でとろみが出るまでよく加熱する。

 ある程度かき混ぜているそれが重くなったら、そのままかき混ぜるのを続ける。

 そしてそれがまたか軽くなったと感じたならば、小麦粉にも火が通った事になる。

 

 ユーリィはそれをすぐに器に移し、セバスジャンに言う。



「これを冷やす魔法をお願い!」


「ふむ、これでいいのですかな?」



 そう言いながらセバスジャンは魔法でそれを冷やす。

 出来立てのカスタードクリームは粗熱を素早く取らないと油分が分離してしまい、食感が悪くなる。

 セバスジャンの魔法は器の表面をすぐに氷漬けにする。

 ユーリィはその上に湿ったナプキンで蓋をして、埃が入るのを防止するとともに出て来る水分はナプキンに吸わせて、結露した水分がカスタードクリームに戻るのを防ぐ。


 こうしてそろった素材を焼き型に入れて行く。


 器に軽くパターを塗って、生地を敷いて行く。

 そしてそこへ出来上がったカスタードクリームを入れて山を作って、煮詰めたシナモンが効いたリンゴを敷いて行く。

 そしてまた生地で蓋をしてから、卵の黄身を溶いたものを刷毛で塗っておく。


 

 それを熱しておいたオーブンに入れてじっくりと焼き上げてゆくわけだ。



 ユーリィはオーブンの蓋を開けてそれを引き出す。

 すると途端に厨房に甘い香りとシナモンの独特な香り、バターの焼けた良い匂いが漂う。




「むうっ! こ、この香りは甘味ではないか!?」



 そう言って厨房に入って来たのは四天王が一人エルバランだった。


 

「あ、ちょうどいいや。味見してもらえるかな?」


「うむっ! この義のエルバラン、全身全霊をかけてその味、確かめさせてもらおう!!」


 

 エルバランはそう言って椅子に座る。

 ユーリィは出来あがったアップルパイを切り分け、それを皿の上に乗せてエルバランの前に出す。



「はい、アップルパイだよ。結構甘いから一緒に紅茶も用意したからね」


 そう言って紅茶も入れてその横に置く。

 それを見たエルバランは、目を輝かせ早速フォークに手を伸ばす。



「ではっ!」



 彼はそう言って早速アップルパイを切り分ける。

 それをフォークに載せて口に運ぶ。



 ぱくっ。



 エルバランはそれを口に入れた瞬間目を光らす。



「な、なんだこれはぁーっ! うーまーいーぞぉ―っ!!!!」



 エルバランは四天王であるにもかかわらず、威厳のある顔を緩ませる。

 そしてまたすぐにアップルパイを口に運ぶ。



「なんだこれは!? 初めて食べる味わいだ!! バター香るサクサクの皮に甘みのつまったほんのり苦みのある独特な風味の甘く煮込まれたリンゴがわずかにその歯ごたえを残し、そしてその下に濃厚でそれでいてまったりと舌に絡み付く香りのよい牛乳のような味わいが後を押す。こんな甘味は初めてだぁーっ!」



 背景に火山を爆発させ、その美味さを表現するエルバラン。



「そ、そんなにうまいのか!?」


「まったく、ユーリィ君の作る料理は想像を絶するね?」


「まさしく料理の錬金術、素晴らしい!!」



 いつの間にか他の四天王である武のガゼル、智のスィーズ、そして魔のラニマニラもやって来ていた。



「わ、我々にも味見を!!」


 ガゼルはそう言って乗り出すも、ユーリィは手をかざしてそれを制する。


「味見はエルバランだけ! これ以上食べちゃったら最後のデザートが無くなっちゃうよ!」


「それもそうですな。エルバラン様の様子を見れば、味見の結果は明白。ローゼフ切り分けて魔王様たちにお出しする準備を」


「お、おう」


「あ、僕は紅茶の準備するね」



 そう言ってユーリィたちは最後のデザートを準備して、それをカートに乗せて厨房を出て行ってしまった。


 残されたガゼル、スィーズ、ラニマニラは美味しそうにアップルパイを食べるエルバランを見る。


「「「……」」」





 幸せそうにアップルパイを食べるエルバランに他の四天王たちは飛び掛かるのだった。

  

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