第七話:魔王様と四天王


 今魔王の前に四人の魔族が片膝をついて頭を下げている。



 一人は智のスィーズ。

 一人は武のガゼル。

 一人は義のエルバラン。

 一人は魔のラニマニラ。


 彼らは魔王軍四天王と呼ばれ、魔王軍の中でも恐れられた存在だった。

 そんな彼らが一同に魔王の前にいた。



「よく戻ってきたな」


「はっ、魔王様に置かれましては~」


「やめやめ、俺はそう言う堅苦しいのが嫌いなんだ。で、何処まで進んだ?」


 魔王は面倒くさそうに手を振る。

 すると、智のスィーズが顔を上げて話し始める。


「はっ、現在我が魔王軍はドリガー王領の国境付近の砦でその進軍を止めております。また西側のエアグル王国、南西のロラン王国も同様に国境付近の砦にて停止しております」


 魔王はそれを聞いてフンと鼻を鳴らす。



「全軍撤収だ。自国領で守りを固めろ。但し、我が領域に入ってきた場合は容赦するな」



 それだけ言うと、報告は終わりだというかのように立ち上がろうとした。



「お待ちください、魔王様」



 しかしそんな魔王を制するかのように武のガゼルは進言をする。


「なんだガゼル?」


「我ら魔王軍は向かうところ敵無し。人間共のひ弱な軍勢など蹴散らして我らが魔族の物としてしまえばよいではないですか?」


 ギラリと目を輝かせ、ガゼルは顔を上げる。

 しかしそんなガゼルに興味もなさそうに魔王は言う。


「今は国力を整える時だ」


「しかし!」


 魔王のその言葉に不服なガゼルはそれでも魔王に食いつこうとする。

 が、それに義のエルバランが口を挟む。


「やめんかガゼル。魔王様のお決めになった事だぞ!」


「だが、この機を逃しては!!」


「まぁまぁ、お二人とも。魔王様には魔王様のお考えがあるのです。ですよね、魔王様?」


「ん? まあ、そんな所だ。とにかく家畜は順調に増えているし、俺たちの食料困難も解消されてきている。弱い相手に力を振るっても面白くもなんともない。だから今は軍を撤収させ、国としての力をつけることに集中するぞ」


 魔王がそう言うと、流石にガゼルもそれ以上何も言えずに大人しく首を垂れる。



「しかし、魔王様。スィーズの提案とは言え、人族を城内で自由にさせ過ぎではないのですかな?」


 だが、魔のラニマニラはそう言って魔王の横にいるユーリィを見る。

 魔王はユーリィをちょいちょいと指で呼んでガシっとユーリィの肩を抱く。


「いいだろう? こいつは俺に魂を吸われても死ななかった。それ所かこの俺様を満腹にしやがったんだぞ!」


 上機嫌にそう言う魔王に、四天王たちは驚く。

 魔王は魔族の中でも特に魂を必要とする存在。

 いつも五、六人くらいは魂を吸いつくし殺している。  


 それがたった一人で、しかも魔王を満腹にさせるなど。



「ユーリィ君だったね? 君は本当に魔王様に魂を吸われたんだね?」


「え、あ、ええぇ……はい///////」


 スィーズにそう聞かれユーリィは赤い顔で視線を外す。

 確かに魔王に魂は吸われた。

 そしてどうやら自分は魔王を満腹にさせ、更に死ぬ事も無かった。

 が、魂を吸われるたびに毎回魔王に口づけされ、しかも口の中に舌までねじ込まれて凌辱をされる。

 更に最近は、いやなはずなのにそれが気持ちよくなってしまい、彼の自尊心は完全に崩落中だった。



「ふむ、間違いはないようですね。確かに君の魂はかぐわしい香りがしますが……」


 そう言ってスィーズはずれた眼鏡を中指でチャっと音を鳴らし直す。

 だが、スィーズの質問は他の四天王たちを大いに驚かさせた。


「本当に魔王様がご満足するとは」


「この少年一人でか?」


「たった一人で、だと?」


 その動揺は最初さざ波であったが、徐々にその波紋を広げ三人の四天王に伝わる。



「それだけじゃねぇ、こいつは俺様が認めた美味い物を作る事が出来る奴なんだ。人の喰いモンだが、俺様を満足させたんだぞ! どうだ、凄いだろう!!」


 魔王は更に追い打ちをかけるかのように、自分の事のように嬉しそうに言う。

 傍から見れば魔王としての威厳も何も無い、子供が自慢でもしているように見えるが、付き合いの長い四天王は誰も突っ込みは入れないでユーリィを見る。


「魔王様が満足いく食い物だと?」


「まあ、確かに人族の食べ物は魔力摂取としては微々たるものだが、我々魔族も人の食べ物は食えるが……」


「魔王様がご満足しただと?」


 四天王に睨まれるかのように見られているユーリィはごくりと唾を飲む。

 そんな様子を魔王はニヤリとしてから言い始める。


「どんだけすごいかお前らにも見せてやるぜ! ユーリィ、今晩はこいつらの分も頼むぞ!!」


「ええぇっ!? そんないきなり言われても、材料が足りなくなっちゃうよ」


「だったらセバスジャンに言え。全部そろえさせるから大丈夫だ!」


 魔王はそうにかっと笑うのだった。



 * * * * *



「まったく、何時も無茶しか言わないのだから……」


 そう言いながらユーリィは厨房で今ある食材を再確認する。

 本来は数人分で済んでいたのだが、いきなり四天王の分までとなると下ごしらえした物だけでは足りない。

 なので作れそうなものを再構築する必要がある。 


「とは言え、セバスジャンに今から材料揃えてもらっても仕込みの時間もないしなぁ……」


「必要な物があればすぐに取り寄せますが?」


「んじゃぁ、どうするんだよ?」


 セバスジャンは食材を見ながらユーリィを見る。

 ローゼフはジャガイモの皮をむきながらユーリィに聞く。

 ユーリィ―は仕込んである材料含みいくつかの材料を引っ張り出す。


「ん~、ここはミニプレートで行ってみるかな? 沢山の種類を一つのプレートに少量ずつ入れてメインにするやつ」


「そんなんで上手く行くのか?」


「時間が無いからやって行こう」



 そう言ってユーリィは作業を始めるのだった。  


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