第24話 キッチンでヤるのは男の夢


 無茶苦茶に抱きしめられ、所かまわずキスされる。俺の顔は、彼の涎でべたべただ。


「ヴァーツァ、」

息も絶え絶えになって言った。口を塞がれ、酸欠なのだ。


「ん? んんん」

やっと声が出た唇をまた塞がれる。


「だから、ヴァーツァ!」

 その場に押し倒そうとするから、突き飛ばした。


「キッチンでやるのは男の夢だ」

 めげずに彼は、俺を流しに押し付けようとする。


「ちょっと! カルダンヌ公!」

「ヴァーツァだ。わかった。ここがいやなら……」


 一向に諦める気配もない。エプロンをめくり上げようとする手を思いきり叩いた。


「そういうことじゃなくて!」

「君は俺のことが好きなんだろ? 俺のことをもっと知りたいと思ってるんだ」

「す、好きなんかじゃない……」


 だって、そう言うしかないじゃないか。この状況を回避するには。

 ヴァーツァは余裕の表情だ。


「はいはい。君の気持はわかってるって。だって、さっき告白したばかりだもんな」

「してない!」

「したよ。だが安心しろ。俺は君を飽きたりしないから」

 低く笑った。

「君みたいな人を、飽きたりなんかするもんか!」

「……え?」

「君みたいな愉快な人間は初めてだ」

「……」


 微かに膨らんだ希望が急速にしぼんでいくのを感じた。やっぱりヴァーツァにとって俺は、一時的な退屈凌ぎにすぎないんだ。


「ああ、バタイユの監視を気にしているのだな」

 負けない男がのしかかって来た。

「急いでやれば大丈夫」


「そういうことじゃない!」


 思わず叫んでしまった。

 ヴァーツァの顔が曇る。


「そうだよな。こういうことは、急いではいけない。ゆっくりと時間をかけなくては。まったく、バタイユのやつ、いけすかない魔法をかけていきやがって……」


 ぶつぶつと文句を言っている。

 子どもの姿をしているが、バタイユの魔力はヴァーツァを凌ぐ。

「俺がをしていると、きっとあの子が現れるんだ。それが自分の寝室であろうと、娼館であろうと。双子って怖いな」


 絶句した。それは、いろいろまずい気がする。


「あの子に見られたんですか? そんな、あんな子どもに、あられもない姿を見られるなんて!」

「気にするな。ああ見えて、俺と同じ年齢だ。それに何度も見ていれば、耐性もついてくるというものだ」

「何度も!?」


 そりゃ、ヴァーツァくらいの美形なら、過去にそういう経験もあったかもしれないけど……何度も?

 エプロンを剥ぎ取り、シャツの下に侵入してきた手をぴしゃりと叩いた。


「無理です! 俺は無理!」

「仕方がない。無理強いはしない。俺は紳士なのだ」


 ネクロマンサーの紳士ジェントルマン。弟に濡れ場を見られても全然平気。しかも、何度も。

 なんかもう、いろいろ無理がありすぎる。

 ヴァーツァはむくれ、しぶしぶ手を引っ込めた。







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