柩の中の美形の公爵にうっかりキスしたら蘇っちゃったけど、キスは事故なので迫られても困ります

せりもも

第1話 棺の中のきれいな男



 なんてきれいな男だろう。


 その男性は、ペシスゥス王国の軍服を着ていた。紺色の上衣に紅の襟の折り返しをちらりと覗かせ、腰には目の覚めるような白い絹の飾り帯サッシュを巻いている。肩章エポレットは地味で目立たなかったが(戦場で狙われない為だ)、彼が高級将校であることを示していた。


 見えるのはそこまでだ。彼の全身は、青い薔薇の花で覆われていた。ところどころに、オレンジ色や黄色の花も混ざっている。

 薔薇が敷き詰められているのは、ガラスの棺の中だ。つまり彼は、棺の中に横たわっていた。


 棺。死んだ人を納める箱だ。しかしこの柩は、随分変わっていた。なにしろ、ガラスでできている。蓋はぴったりと閉じられていたが、中は素通しだ。

 磨き上げられたガラスの中で、美しい花に囲まれた顔が、青白く固く目を閉じていた。ゆるくウェーブした黒髪がうねり、死んだ顔を縁取っている。


 そう。

 彼は死んでいた。

 どうしようもなく、その男は死体だった。



 なんてきれいな男だろう。


 第一印象はそれだった。

 全てを知った今だったら、決してそんな風には思いはしない。むしろ、ひと目見るなり踵を返し、全速力でその場から立ち去っただろう。


 そう。

 全てを知った今なら。









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