【短編小説】魔法障害者と若き英雄の半生

──『人は二度死ぬ

   一度は社会に出た時

   二度はこの世を去った時』──

☆☆☆


 2024年4月19日(金)。21時28分。


☆☆☆


 「やーい! 魔法で空も飛べないなんて、役立たず!」


 僕は空を見上げていた。空を飛ぼうと思っても、何も力が湧いてこない。


 ──「魔法障害です」


 「そんな。この子は魔法が出ないのですか。一生ですか? 治す方法は無いのですか」


 「残念がら……」


 「そんな、どうやってこの子は生きていけと言うのですか。先生! 先生!」


 「大丈夫です。お母さん。魔法が使えなくても生きていくことはできます」


 「でも国のお役には立てないでしょう。もうこの子の未来は決まってしまったようなものじゃないですか!」


 そう言って、母は泣き始めた。


 ごめんね、お母さん。そのときは素直に自分に力がないことを一緒に悲しんだ。


 ──15歳。


 15歳になり、魔法の使える普通の少年少女は魔法学校へ行った。ときおり、戦争があり、そこで実戦経験を組みながら、更に優秀な魔法使いとしての道を全員歩み始めた。


 皆は誇りに思いながら戦場へと旅立って行った。そこから先は魔法の小説なんかでよくあるパターンだ。ダンジョン攻略だったり、異世界に飛んだり、空を飛んだり、パーティを組んだり、魔法使い同士で恋愛を楽しんだり。よくあるファンタジー系の物語という名の人生を皆、謳歌していった。


 僕は15歳から軍需工場で働き始めた。優秀な魔法具を創るのは魔法使いの役目であり、僕は希望したところで魔法障害で魔力がゼロなので、就職なんてできるわけがなかった。プロトタイプで同じ型を延々と作っていく、ライン工として働き始めた。


 賃金も低く、母親の愛情も既に冷めていた。父親からは出て行けと言われた。


 一人、就職先からほど近い丸太小屋に住むことになった。狭い小屋だった。


──20歳。


 20歳になると、障害年金が支給されるようになった。魔法障害1級。年金であり、国からの支給であり、福祉国家で助かったと思った。


 20歳になると、魔法学校で学んでいた少年少女は皆散り散りに働き始めた。魔法使いとして優秀な人材は、軍隊の中でエリートとしての道を歩んでいった。


 その中には、若くして殉職していった者もたくさんいた。自分はプロトタイプの魔法具を作る工場で延々と働き続けていた。


──25歳。


 障害年金が貯まっていき、父母に仕送りを送ってみた。まさか仕送りが来るとは思ってもみなかったのか、父母がわざわざ僕の家まで来てくれた。本だらけで驚いていた。なぜ魔法障害なのに本をたくさん読んでいるのか理解ができないらしかった。「ただの暇つぶしだよ」と言いながら、少しずつ、魔法以外でもこの世界の仕組みを知ることが出来るようになっていった。


 普通に魔法学校に行った中でも、エリートと呼ばれる者たちの中で、若き英雄と呼ばれる人材が出てきた。若き英雄が出てくるたびに、殉職する魔法使いも増えてきたし、エリートの中でも殉職する者が出てきた。エリートが殉職すると新聞の片隅の殉職欄に小さく名前だけが載るようになっていた。


──30歳。


 同級生だった若き英雄が訪ねてきた。「よう魔法障害。同じ毎日を繰り返していて楽しいかい」馬鹿にしに来たのかなと思った。


 馬鹿にしに来るほどの人物でもないことくらい分かっていた。自分は魔法障害者だ。


 「金を貸せ」そう若き英雄は言葉を放った。


 「銀行に行きな」そう返した。


 「おめえ。分かってるのか? 俺の称号は騎士だぞ? 斬り捨て御免が通用する位にいるんだぞ。俺の要求が呑めなかったら、お前、死ぬんだぞ。分かってる? この状況」


 「読書したいので帰ってもらえませんか」


 若き英雄は、剣を振り下ろした。


 僕は、オート魔法で剣を弾いた。


 「は? お前魔法障害だろ? 何魔法使ってるの」


 「人間としての文化的で最低限の生活の保障があるから、役場からガード専門の魔法具が配られている。魔法障害だから。もしも魔法使いにでも攻撃されたら簡単に死んでしまうからね」


 「そっか。でも殺しちゃうよ。その程度の魔法具ぐらい貫通できるけどなあ」


 「騎士が魔法障害者を殺したら、どうなると思う? 騎士が斬り捨て御免が許される場合って、騎士のプライドが傷つけられた時などに限定されているんだよ。『金が無いから魔法障害者を殺した』って証言が出たら騎士はクビどころか、犯罪者の仲間入りだよ」


 「俺は悪人だから怖くはねえな」


 「全部今、スマホで配信しているから、もう証言はかき消せないようになっている」


 「は? 何でスマホなんて持ってるんだ? お前そんなに金あんの」


 「知ってたから襲いに来たんじゃないの。言うほどお金は無いけれど」


 「配信されているのか。どうやって金を稼いだんだ」


 「障害年金を元本とした軍への国債」


 「お前。犠牲が出るたびに人を雇う必要性が出てくるから、金が必要になって……。それを繰り返していくうちに国債がどんどん膨れ上がっていくことを知っての行為か」


 「君たちが徴兵されている間、部屋でゆっくり稼ぎ方を考えた」


 「お前何。お前何。徴兵ってなんて言い方をするんだ。まるで嫌々ながら戦地へ赴いたかのようなその言い方」


 「事実でしょ」


 「お前は免除か。障害者だからか。障害年金ってなんだ? 年金てことは勝手にお金を振り込まれているのか? 俺らは戦地で死ぬ思いをして、お前は何を」


 「ただ働いて、読書してこの世の仕組みを勉強していただけ」


 「俺の仲間の死が。お前の金に変わっていったのか。お前何だ。何で非道なことができる? 罪悪感の欠片もないのか。お前は悪人なのか」震えながら若き英雄は答えた。


 もう30歳で若くはないが。


 「僕は能力が欠如しているとして、散々な人生を歩んできた。栄光などどこにもなかった。だから、何でも出来るようなメンタルを手に入れた。軍の国債で儲けようと、そこにたくさんの同僚の死が存在していようと、自分とは何も関係がないと考えるようになった。自分を見棄てた人間が死んだところで、僕にとっては何の感情も浮かばなかった。ただ銀行の預金が増えていった。ただそれだけだ」


 魔法障害者はこう付け加えた。


 「栄光なる若き英雄よ。君に貸す金は一円もない。帰ってください。僕は貴方を助けません」


☆☆☆  

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