第6話 鏡の向こうに

洗面所に入る。4畳ほどの空間では大きな三面鏡が部屋の隅々まで写している。鏡の正面に立つと、自分の引きつった顔を見つめた。


「なんていうか、すごい複雑な気持ちだな..」

鏡に話しているのを他の人が見たらどう思うだろうか。だが、そんなことはどうでもよかった。


「あの日、俺は◯◯駅でずっと待ってた。ずっとずっと待ってた。茉莉を必死に探したなぁ。」

言葉を慎重に選ぶ。あれ、なんで泣いてるんだろう。

「あれからすげえ大変だったんだぜ。学校でほぼ学年全員が泣いて、授業どころじゃなかったんだ。森先生も号泣してたなあ。あと元日本一の人も。」

思い出話をしに来たわけじゃないことは分かっている。でも、頭が上手く回らない。


「俺は、お前に伝えようと思ってた。後出しじゃんけんみたいになっちゃったけどな。」


『好きだ』


返事はもちろんこない。今更言っても遅いか。


「最後に、今までありがとう。ほぼ安慈のおかげなんだけどね。俺の筋肉でこれからも世界を平和にするからな💪」


そう言って、鏡の自分に笑って見せた。

暖かい夜風が洗面所を吹き抜けていった。



真聖と安慈はお礼を言って家を後にした。

その帰り道、バスの中で2人は話した。

「安慈、これからどうするの?」

「どーしよー。仕事でも探そうかな」

「仕事してないんかい」

「真聖はどうするの?」

「俺は大学に行きながら筋トレを続けるよ。約束したからな💪」

安慈がふっ、と笑うと、真聖もそれにつられて笑顔になった。


ふと窓の外を見ると、満月が静かな街を照らしていた。






ちなみに、田口は警察に出頭、死刑になりました。

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