鏡の向こうの君と
おこめ
第1話 2000年後の鏡の向こうは
――あの日、君は夢を見ていた。それはまるでおとぎ話のようで、叶うはずのない切ない恋の物語であった。
彼の名は坂本真聖。東京都在住。両親が公務員の裕福な家庭で育ったが、多忙のため家ではいつも一人虚しくテコンドーをしていた。今日も彼は筋トレに励む。
「..8...99....100。 いやあ、やっぱ筋トレは気持ちがいいね」
そう言いながら真聖はプロテインをかじる。
毎日200回の懸垂と500回の腕立てで完成した究極の腕は、巷では「little Kato arm」と呼ばれているらしい。7年前、元日本一の男と闘ったときに繰り出した必殺技から付けられたという。あの時に負った背中の傷が今でも痛む。
そんなことを考えていると、携帯にメールが届いた。相手は「稲田安慈」となっている。その瞬間、脳に電撃が走った。メールを開いてさらに驚いた。
「久しぶりだな。急なんだけど、今日時間あるか?」
稲田安慈との出会いは8年前に遡る。当時中1だった真聖は、もちろん勉強をろくにせず、毎日を筋トレと当時はまっていたラーメン屋巡りに費やしていた。週1の生物部で秋藤や田口と話すことはあるが、大して面白くないのでいつも適当に会話していた。
ある日、担任の森先生が「二人三脚をするので2人でペアを作ってください」と試練を与えてきた。
秋藤と田口ももう組んでしまっている。
「そんなんきいてねえよ‥」と、真聖はどうすることもできず、諦めて保健室に行こうかと思ったその時、突然背後から声を掛けられた。
「君、よかったら僕と組まない?」
「いや、もう決まってるから」
「絶対うそでしょ。はい、決定!」
強制的にペアになった真聖と安慈は、初対面で一緒に走ることになり、なぜか優勝してしまった。それ以来、安慈は真聖と親しくなり、真聖も少しずつ心の氷が溶けていった。一緒に映画を観たり、恋の相談に乗ってもらったり(当時安慈は結構モテていた)、中3になるまでは真聖の一番の友人だった。
駅前のロータリーには、大手ハンバーガーチェーン店と小さい喫茶店ぐらいしかなかったが、仕方なく喫茶店を選んだ。中に入って店内を見回す。
「まだいないか‥」
窓側の席を選び、腰掛けるとウェイターがやってきた。カフェオレを注文し、安慈が来るのを待った。学生時代を思い返す。あれからもう6年か。
安慈と会う上で、絶対にこの話は欠かせない。忘れもしない、中3の記憶――
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