露出

@ku-ro-usagi

短編

仕事からの帰り道

露出狂に遭遇した

まだ深夜とかじゃなくて

20時くらい

古典的な

目深に被った帽子にコートの中は全裸の男の人

寒くないの?

もう11月も終わるんだけど

まっすぐ向かう道の向こう側から歩いてきてさ

お互いの性別なら分かるなってくらいの距離になった辺りで

こっちが女って認識できたんだろうね

コートの前をバッと開かれてさ

「うわっ!?」

ってびっくりして

私はすぐ横の脇道に逸れたんだよ

足早に小走りでさ

その先に公園があって

公園の脇を歩くようにしてたら

また現れたんだよ

「ひぇっ!?」

って公園の中を横切って

すごい遠回りだけど一度大通りまで出て別ルートで部屋まで帰ろうとしたら

まさかの大通りの手前の小道に現れて

もうバッてされる前に

「わー!もうやだっ!」

って私は露出狂から背中向けて逃げた

さっき降りたばかりの駅の近くの交番目指して走ったんだよ

そしたら

パトカーがサイレン鳴らしながら私が来た道を走って行くんだ

(私以外の人が通報したのかな)

(仕事早いな)

(露出狂にサイレン鳴らしたらその音で逃げないのかな)

なんて思いつつ

交番にお巡りさん残ってるかなって息切らして行ったら

朝にいつも挨拶するお巡りさんがいてくれた

何かあったのか聞いてみたら

「今さっき飛び降りがあったみたいで、○○マンションなんだけど住んでないですよね?」

って聞かれて

私は

「住んでるのすぐその先です」

と答えた

○○マンション

私の住む部屋より駅に1分位近い大きいマンション

さっき私が歩いていて

もうすぐその○○マンションの前って時に

あの露出狂が現れたんだ

道を変えてまたあのマンションへの前の道に出ようとしたら

また出現

私の住む所

変に入り組んでて

結局大通りから入ってもあのマンションの前を通ることになる

でも

(んん?)

それだと

なんかまるで

あの露出狂が私を飛び降りに遭遇しないようにし

もしくは巻き添えにならないようにしていたみたいではないか

いや絶対違うけど

でも時間的にあのまま歩けばぴったりだった

目の前に落ちてくるか

下手すれば真上に落ちてきて巻き添え食らうレベル

あのマンション道のギリギリまで使って建ててるからさ

余裕であり得るんだよ

お巡りさんには露出狂のことを話して

結局タクシーに乗ってあのマンションを避けてもらって帰ったけど

マンションの前辺りはまだざわざわしているのが見えた


数日後

友人にその話をしたら

「守護霊がほんの一時近くにいる者に憑依して助けてくれる場合もあるってよ」

とさらりと言われた

「え、嘘……?」

じゃああの時は

私の守護霊の誰かか何かしらが

近くにいた露出狂に憑依して

私をあのマンションから遠ざけたと

「多分」

「えええー……?」

信じたくないし何か凄く嫌

「飛び降りより露出狂のがマシでしょうが」

スズメバチよりゴキブリの方がマシ的な発想

そりゃそうだけどさ

人によっては同じくらい嫌だよね

「ねぇ、私の守護霊ってどんな人だったり動物だったりするの?」

「知らないよ、視える人に視てもらえば?」

「う……」

もしお祖父ちゃんとかだったら目も当てられないからやめとく

友人はそうだねとおかしそうに笑う

「それでその露出魔は見つかったの?」

「全然」

そもそも

帽子にコートは身に付けていた

でも体型体格背丈何も覚えていないのだ

そもそも全裸だったのかもすでに曖昧で

「その変態そのものが守護霊だったりして?」

「……」

「冗談、冗談だよっ!」

椅子ごと飛び退くなら初めから言うな


そんなことがあってから1ヶ月後

冬休みに入ってから実家へ帰ったんだ

実家のある出身地の県は

「名前は知ってる知ってる、でもどこの辺にあるんだっけ?」

と首を傾げられる位に存在感がなく

都道府県の名を上げていく中で

最後の2つとかにやっと出てくるか

思い出せなくて検索するレベルの知名度の低さ

その更に端の限界集落とか言ったら怒られる小さな集落

そんな場所

車で帰るんだけどさ

家までもうすぐって狭い道に小さな小さなお地蔵さんがいるんだ

お地蔵さんには我が家が一番近い

そのお地蔵さん

珍しい全裸地蔵なんだよ

レア地蔵さん

レアだけど別に全裸ってだけでその歴史的な価値とかはゼロ

大昔のここら辺に住んでた誰かが全裸彫ったとか聞いたけど

どんな趣味だよ

あれ?

全裸?

いやまさかね

露出狂なんかと結び付けたらバチ当たるわ

両親は元気そうで兄も珍しく帰ってきていた

夜になって

この間ちょっとした騒ぎがあったと聞いた

それが

「全裸地蔵消失事件」

ふっとなくなっちゃったんだって

大人の男ならまぁ何とか持ち上げられるかな

ってくらいの大きさなんだけど

結構な確率で腰をいわせると思うんだよね

「おや、ないぞ?」

って気付いたのが父親が仕事から帰ってきた夜

近所の人に聞いたけど

なくなってから初めに気付いたのは父親

本当にただの石で何の価値もないんだよ

悪戯にしても誰が

田舎だから珍しい人や車があればすぐに気付くし

今日は、いや今日もそんな人間は見なかった

しかしなくなったものはしょうがない

警察は明日にして一晩は様子を見ようってなって

朝になったら普通にお地蔵さん鎮座していたって

「お地蔵さんもたまには散歩くらいしたいんだろう」

って結論になった

それが

私が露出狂&飛び降り遭遇未遂の日

うん

父親も兄も弱いくせに飲むからあっという間に潰れて

母親とチビチビ飲んでたら

「あのお地蔵さん、稀にいなくなるのよ」

母親から意外な真実を語られた

「え?」

「お母さん、フラダンスの習い事してるでしょ

そのたまの飲み会で

まぁ車だから食べるだけだけど

帰りが遅い時

ごくたまーに居なかったのよ

でも朝にはいるから全然気にしてなかったんだけどね」

そうなんだ

でも今回は父親がそれを初めて目撃して騒いだと

まぁちょっとびっくりはするよね


翌日

私は午前中に母親からフラダンスを習い

午後は同じく実家へ帰ってきていて更に子供の数が増えている幼馴染みに驚き

別れてからは街まで出てちょっと買い物して戻ってきた

田舎だと足は両足でなく車のことだと嫌でも思わされる

私は家の手前で車から降りて

お地蔵さんの前に紙パックのお酒を置いて手を合わせた

「飛び降りの巻き添えから守ってくれてありがとうございます」

私は多分

一度や二度でなくこの全裸地蔵さんに守られているらしい

今回は緊急のイレギュラーだったんだろうね

全裸だから露出狂に憑依しやすいのか

心臓に悪いので次はもう少しお手柔らかにと色々お願いもする

酒だから多分動物に漁られたりはしないだけろうけど

翌日に回収しに来たら

封は空いてないのに

持ったら軽くて中身が半分位に減ってた不思議

お酒好きなのか

次はもう少しいいお酒を用意しよう

うん


何だかいいお正月が迎えられそうな

夕暮れが綺麗な今日は大晦日


皆様よいお年を






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