配達途中で野糞

逢坂 純(おうさかあつし)

配達途中で野糞

黒歴史を話すのは、痛みを伴うことだと思っています。そして黒歴史を話すのは、周りにとても迷惑を掛けるものだとも思います。その線引きは難しいです。まあ、僕が経験している黒歴史など、今回のカクヨムさんの「黒歴史放出祭」に出しても他者の黒歴史に埋もれて、その黒歴史が価値のあるものになることがあるとは思っていませんが。しかし、僕は今回のこの機会を頂けたことで、謝罪の意味を込めてこの話をしたいと思います。今からする僕の黒歴史の話は、僕にとっての黒歴史ですが、迷惑を掛けた知り合いにとっての黒歴史でもあるからです。もしあの時、あの場で素直に謝れていたなら、どんなに今頃、心穏やかに毎日を過ごせていただろうかと思うくらいです。

前置きが長くなってしまいました。では、僕の学生時代の黒歴史を話したいと思います。

あれは、僕が深夜営業の飲食店でアルバイトをしていた時のことです。

その飲食店では、深夜の出前もやっており、アルバイトの僕は厨房も接客も調理も配達も店長と二人でやっていました。賄いを出してくれる優しい店長さんで、ご飯とお味噌汁とあと一品店長さんの手作りで食べさせてもらっていました。店長の賄いは大変美味しくて、その日もお代わりをして腹いっぱいご飯を食べさせてもらいました。その時、注文の電話が入りました。

僕は注文を受けて、料理を店長と一緒に作り、近所のスナックに食べ物をデリバリーしに行きました。

配達途中、急に僕は腹が痛くなりました。我慢できない程の腹の痛さに耐えきれず、僕は近くの塀に囲まれた駐車場で、地面のアスファルトに配達する商品を置き、しゃがみ込んで、用を足しました。所謂(いわゆる)「野糞」です。その時は視界を壁に囲まれていて、それも暗闇の中という安心感と、漏らすのだけは避けたいという焦燥感で一杯で、すぐさまパンツを脱ぎました。

そして用を足した後、何食わぬ顔でズボンを上げ、デリバリー先に商品を届けて、店に戻りました。

店には、いつもは顔を出さないオーナーが来店していました。オーナーは店長と何か口論しているようでした。

オーナーは声を荒げて、店長に言っていました。

「どうして俺が猫のふんを始末しなけりゃいけないんだ!」と。

もしかして、僕が駐車場で野糞したことがバレているんじゃないかと、心は不安だらけでした。そうしてオーナーは店を出て行きました。いつもは優しい店長の顔も、少し厳しく見えました。

あんなこと、するんじゃなかった!そう思いながら、次の朝、バイト終わりにこっそり自分の用を足した現場へ行ってみると、野糞は塀で囲まれたアスファルトは明け方の明かりで地面の上に細長い茶色のバナナのように情けなく垂れていました。

僕はそれをビニール袋に入れて、掃除しました。もうこんなに不安と罪悪感に駆られるのなら、こんなことはもうまっぴらだと思い、そして誰にもこのことが知られていなかったという安心感に泣きました。

だから、オーナー、店長、配達先のスナックのママとお客さん、それから駐車場のオーナーさん、ごめんなさい。そして罪深いこんな僕を許してください。もうしません。

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配達途中で野糞 逢坂 純(おうさかあつし) @ousaka0808

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