魔族に優しいギャル ~聖女として異世界召喚された白ギャルJK、ちょっと魔王である俺にも優しすぎると思うんです~

佐々木鏡石@角川スニーカー文庫より発売中

第1話獄上の出会い

「伝令! 伝令! 宮殿の正面玄関が魔族によって突破された模様!」


「くそっ、ここを守るのは王都の精兵たちだぞ! 何故こうも簡単に突破されるのだ!?」


「襲撃してきてるはいつもの魔族の下っ端どもじゃない! なにか途轍もないやつが――グアアアアアッ!!」


「こ、こいつ、普通の魔族じゃねぇぞ! それどころか、この二本角は――!?」





 聖暦1224年7の月、人間族の本拠地にして、人間世界の中心地である聖都・サンカレドリアを、一人の魔族が襲撃した。


 並み居る精兵たちを指先ひとつで退け、引き裂き、血の海に変えながら。


 その圧倒的な存在は襲い来る人間どもを斬り伏せ、消し飛ばし、王都の奥――王の御座所ござしょである宮殿の内部に降り立った。




「ふん、矮小わいしょうな人間どもめ。聖女とやらの召喚に成功したと聞いて、少しは骨のあるやつを揃えていると思ったが――」



 

 低く、冷たく、一切の温かみを持たぬ声が、崩れかけた宮殿の大広間に響き渡る。


 彼の襲撃を生き残った兵士たちはもはや完全に戦意を喪失しており、彼の姿を見るなり真っ青に青褪め、我先にと逃げ出す有様。


 この先にある奥の院――サンカレドリアの大聖堂に閉じ籠もっているのだろう、ある人物を捨てて、己の命を優先した。


 人類にとってその人物の存在を失うことは、緩やかな自分の破滅と同義であるというのに、である。


 愚かなものだ、と唾棄すべき気分を感じながら、彼はゆっくりと、大広間を横切る一歩を踏み出した。




獄上ごくじょうだ。聖女とやら――もうすぐこの我が貴様の面を拝んでやろう。そしてその美しいツラが苦痛と絶望に歪む様をも、な」




 ククク、と、彼は低く嗤い声を漏らした。




 そう、聖女。


 遠い異世界から召喚されるという、類まれなる霊力を秘めた存在。


 有史以来、魔族と地上の支配種の座を争い続けてきた人類に取って、まさに戦争の切り札となる存在。


 その圧倒的な霊力もさることながら、その慈愛に満ち満ちる精神、慈悲深き心で、人間どもを癒やし、励まし、救済するという女。


 この戦争において、聖女の存在はまさに『王将キング』――人間と魔族、どちらが聖女の身柄を押さえるか、どちらに聖女を味方させるかで、この戦争の勝敗は確定するのだ。




 一週間前、数百年ぶりに人類側がその「聖女」の召喚に成功し、今はサンカレドリアの大聖堂内にその存在を秘匿されている、という情報が魔族側の間者によって複数報告されていた。


 異世界から召喚されて間もないゆえ、彼女は今はまだ聖女としての力に目覚めてはいないが、一度彼女が聖女の力に目覚めれば、この戦争における魔族の敗北は必至だった。




 だから今、この俺が手ずから会いに来た。


 この俺――【焦熱の魔王】ベルフェゴール・リンドヴルムが、必ずや貴様を魔道に堕としてくれよう。


 人類はさぞ落胆することだろう、あの聖女が、この魔王によって心を蝕まれ、堕とされ、人類側の敵となれば――精神的にも人類は敗北する。


 その想像にたまらないほどの愉悦ゆえつを覚えながら、ベルフェゴールはゆっくりと、大聖堂のドアの前に立った。




 もはや警備の兵は一人もおらず、普段は奥の院でふんぞり返っている僧たちの姿すらない。


 愚かな――聖女を捨てて逃げ出すとは。これでは俺に聖女を奪ってくれと言っているようなもの。


 やはり人間は愚かで、どうしようもないエゴイストどもだ。


 その事実に顔を歪めながら、ベルフェゴールは魔力を手のひらに込め、大聖堂を包む結界ごと、ドアをぶち破った。




 瞬間、大聖堂の中で一人、椅子に座っていた小柄が――ビクッ、と震えたのがわかった。




「え――!? だ、誰――!?」

「はじめまして、だな、異世界の聖女とやら。突然だが貴様のお祈りはここまでだ。俺とともに来てもらうぞ。これより先は地獄の一丁目――獄上の、な」




 ツカツカと聖堂内に足を踏み入れ、その小柄に歩み寄ったベルフェゴールは――。


 一瞬、心からの驚きで、はっ? と浅く息を漏らした。




「えっ、マジで何? 何が起こってるん? やっぱこれドッキリだったの? 勝手に部外者入ってくんのNGなんですけど――!」




 これは――なんというか、想像していたのと違う。


 思わず、ベルフェゴールはその聖女の顔、佇まいをしげしげと眺めてしまった。




 まず目に入ったのは、頭頂部の生え際が黒、そこから先は痛々しく感じるほどに脱色された、安い金色である。


 これは――元は黒い髪を金色に染めた結果であろうか。なんでそんな意味不明なことをしているのだろう、この女は?




 いや、おかしいのはそれだけではない。この女、なんとなくではあるが、風体的には聖女どころか、淫魔サキュバスに近いのではないか。




 この物凄く長くて黒い睫毛。


 バッチリと隙のない、娼婦の如き化粧の派手さ。


 芸術的に編み込まれた髪。


 白いシャツをかなり斬新に着崩し、チェック模様のスカートを限界まで短くした結果、色々と露出が多くなった格好。


 指先を彩るのは魔族のそれにも匹敵する長さの色とりどりの爪で、これも明らかに天然のものではなく、人工の爪だと思われた。




 だがその一方で、顔立ちそのものはすっきりと整っており、何らかの愛嬌と、そしてある種の淫猥いんわいさをも醸し出す――魔王ベルフェゴールが今まで一度も感じたことがないオーラを発する女。




 そう、その日、決して出会ってはならぬ二人が出会ってしまった。


 聖女と魔王――相反する白と黒とが、混沌の坩堝るつぼの中で、まるで宇宙誕生のその瞬間のように邂逅を果たし――ここに新たな伝説が始まった。




 そう、ベルフェゴールは知らない。


 一週間前、異世界から召喚された聖女と呼ばれる存在が――日本という国に多数生息する、いわゆる白ギャルであった事実を。




◆◆◆




ここまでお読みいただきありがとうございます。

続きは本日夕方に投稿予定です。


これは以前、短編として投稿した作品ですが、

某出版社の編集者様から「これはいい、面白い」と褒められ、

某ラブコメ作家様からも「クソッやられた」と褒められたので、

多分大丈夫なネタだと思います。


何卒下の★を入れまくって応援してください。

それでなんとか書籍化出来るよう応援お願いいたします。

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