第54話:双子の絆★

 俺は、もしもイオが来てくれなかったとしても、フラムに蘇生してもらいながら爆裂魔法を使えば、なんとかなるだろうと思っていた。

 生命力が尽きるまで爆裂魔法を使った後、フラムの力で蘇生した俺は、2度目を放つことはできなかった。


 衝撃と共に、背中から胸まで貫いたのは1本の剣。

 瞬時に背後に移動してきた1人の魔族は、俺を蹴り倒して剣を引き抜いた。

 俺の背中と胸から大量の鮮血が噴き出して、地面を覆う。

 出血と共に生命力が急激に下がり、俺は爆裂魔法を撃つどころか倒れたまま動くこともできない。


『エカ!』

「不死鳥を攻撃しろ! 力を使わせるな!」


 フラムの念話と、魔族と思われる男の声がする。

 仲間の魔法に巻き込まれないように上空へ飛び去る男を、俺は朦朧としながら眺めていた。


 魔法攻撃を受けても、フラムにとっては大したダメージにならない。

 しかし魔族たちの狙いはフラムを倒すことではなく、蘇生の力を使う余裕を無くすことだった。

 俺を蘇生できなくなる時間まで妨害し続ける気か?

 この世界では、不死鳥の力でも蘇生薬でも、生き返せるのは24時間以内だ。


 このまま心臓が止まって24時間過ぎてしまったら、俺の命は終わる。

 せっかく転生して、現世モチが身体を譲ってくれたのに。

 ソナとリヤンをまた悲しませてしまうじゃないか。

 まだ、終わりたくない。


 アズがいてくれたら……。


 前世では、俺が単独で魔族の群れを相手に立ち回ることは無かった。

 いつもアズがいて、護ってくれていた。

 でも今、アズはこの世にいない。


 イオは、嫌いな相手を助けに来てくれるだろうか?


 現世モチの記憶は、イオなら必ず助けにくると云う。

 でも、親友の身体を乗っ取った俺なんか、助けに来ないんじゃないか?

 会話も拒むほど嫌われているのに。


 辛うじて保っていた意識は、寂しさと悲しさに埋もれるように暗いところへ落ちていった。



   ◇◆◇◆◇



『やっぱり、本質は同じだね』


 意識の浮上と共に、フラムが誰かと話す【声】がする。

 硬い地面に横たわっていた筈の俺は、誰かの腕に抱かれていた。


 このぬくもりを、俺は知っている。

 前世で俺を護ってくれていた者と同じ温かさを感じた。


 意識が鮮明になると同時に、見えたのは青い髪の少年。

 懐かしさが込み上げる。

 来てくれたんだ、という嬉しさで心が満たされる。

 俺と目が合ってホッとしたような表情を浮かべる相手に、普段の突き放すような冷たさは感じられない。


 俺は安心すると同時に、ふと気付いた。

 穏やかな眼差しで俺を見つめる少年の、口元に血が付いている。

 前世でも同じことがあったぞ。

 完全回避をもつ彼が、怪我をする筈がない。

 俺を抱き起こしたくらいでは、あんなところに血は付かないだろう。


 口の中に、血の味と共に残るこの甘苦い味は……?

 まだ意識が朦朧としていた時、温かくて柔らかいものが口を塞いでいたような?


「……まさか……飲ませた……?」


 身体を起こして問いかけてみると、相手はキョトンとしている。

 俺は彼の口元に付いた血を指先で拭って見せた。

 青い髪の少年は、それを見て俺の問いかけが何のことか理解したようだ。


「致命傷だったから」


 しれっと答える奴。

 前世と同じじゃないか。

 その平然とした様子も、あの時と同じだ。


 前世で俺は一度だけ致命傷を負ったことがある。

 その時、双子の弟は迷わず俺に完全回復薬エリクサーを飲ませた。

 俺は気を失っていたから、口移しで。

 吐血した後だったせいで、俺の血が互いの口元に付いていたのを覚えている。


 まさかまた同じ状況になろうとは。

 そういえばこいつ以前「相手がモチならできるよ」とか言ってたな。

 モチを助ける予定で買った完全回復薬エリクサーを俺に飲ませたのか?

 この身体を乗っ取った俺を恨んでるんじゃなかったのか?


 感情が昂ぶり、涙となって溢れ出た。


「うわぁぁぁん! アズの馬鹿野郎!」

「ちょ! 俺はアズじゃない!」

「おんなじだぁ! うわぁぁぁん!」


 号泣しながら抱きつく俺を、彼は拒まなかった。

 赤ん坊でもあやすみたいに、抱き締めて背中を撫でている。

 その優しさと温かさが嬉しくて、しばらく涙が止まらなかった。



※イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075132559507

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