第53話:魔族出現★

 見習いパーティの引率最終日。


「エカさん、御指導ありがとうございました!」

「見習い講習お疲れさん。みんなの活躍を楽しみにしてるからな」


 パーティリーダーの半長毛茶トラ・シンバが元気な声で言い、一同がペコリとお辞儀する。

 新人パーティのデビュー祝いに、俺はエアの店で買った自動回復チョコをプレゼントした。


 弓使いが狩りに使った矢を拾い集めて帰ろうとした時、パーティメンバーのシッポが一斉にブワッと膨らむ。

 それは、今の平和な時代には馴染みのない邪悪な者の気配。

 見上げた空に、魔族が次々に転移してくるのが見えた。


「うそ! なんで?!」

「ま……魔族?!」


 動揺する若い猫人たちは、実物を見るのは初めてだろう。

 しかし本能的に危険なものと認識したようだ。

 魔王はいないのに、魔族たちは何をしに来たのか?

 目的は不明だが、猫人を見れば殺そうとするだろう。


「お前たちを転移させるから、イオに報せてもらえるか?」

「エカさんは?!」

「あれを片付ける」


 新人冒険者が魔族にトラウマを植え付けられる前に、俺は転移魔法で彼らをギルドハウスに飛ばした。

 ギルドハウスにイオが来る時間帯だけど、報せを受けて来てくれるだろうか?

 俺は異空間倉庫から相互転移の腕輪を取り出して、自分の腕に装着した。

 前世で、アズとの連携に使っていた魔道具。

 この腕輪を着けていれば、互いのいる場所へ瞬時に移動できる。

 アズなら必ず来てくれるけど、イオは……どうだろう?


 昨日の塩対応っぷりから、来てくれないかもと思ったりする。

 でも、現世モチの記憶は、彼なら必ず来ると確信しているようだった。



  ◇◆◇◆◇



 古の大戦で汚染された大地の毒と古代人の霊は、世界樹に吸い取られて黒い果実となった。

 その黒い果実から生まれたのが魔王で、魔王が生み出したのが魔族。

 彼らは魂を持ち、転生しながら猫人たちの文明を滅ぼそうとする。


 前世で倒した魔族たちが一斉に転生してきたのか?

 まるで魔王が復活したかのような数だけど、ルルはアズと共にアサギリ島から動いていない筈。

 ルルの子は20年前と雰囲気が随分変わったけど、アサケ学園で猫人たちと共存している。

 上空にいる連中はトゥッティと同じく魔王から離反した者たちかもしれない。


『フラム、出てこい』

『エカ、あれを使うの?』

『ああ。蘇生よろしくな』

『うん』


 俺の念話に応じて、不死鳥フラムが右手から出て実体化する。

 フラムがいる限り、俺は殺されても復活できる。

 上空を覆うように群がる魔族が仕掛ける前に、俺は先制攻撃に出た。


爆破消滅エクスプロジオン!」


 魔族の群れに両手を向けて、起動するのは爆裂魔法。

 現世モチが似たような名前をつけた魔法を使っていたけれど、あれとは別物だ。

 起動言語と共に魔族へ向けた両手の周囲に透明な泡が渦巻き、フッと消えると同時に魔族が一斉に爆散した。


 威力は現世モチが使っていた魔法よりも桁違いに高い。

 但し、この魔法は魔力ではなく生命力消費なので、使い過ぎれば術者は死亡する。

 そこで、蘇生の力をもつ不死鳥フラムの出番だ。


 魔族の数が多過ぎるから、俺は全生命力を使い切った。

 あとはフラムに蘇生してもらって、2回目の爆破消滅エクスプロジオンを撃とう。

 変身を維持していた魔力が途切れ、子供の姿に戻りながら俺の意識は落ちていった。



※イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075552705397

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