第46話:閉ざされた心

 ついさっきまで寄り添っていた者が消えた。

 転移魔法なら一緒に飛ばされるけど、彼は加速魔法を使い、俺が気付けない速度で腕の中から抜け出していなくなった。


「イオ?! どこ行った?!」


 腕の中が空っぽになった途端、俺は飛び起きて部屋の中を見回した。

 忽然と姿を消したイオは、一体どこへ行ったのか?


「エカ? どうした?」

「何か怖い夢でも見たの?」


 俺が大声を出したから、父さんと母さんがスッ飛んで来た。

 何事かと心配して部屋に駆け込んで、俺しかいないことに気付くと、2人も慌て始める。

 3人がかりで家の中も庭も探したけれど、イオはどこにもいなかった。


「これは? 手紙を書こうとしていたのか?」

「イオの字だ。……まさか、家出した?!」


 やがて父さんが、机に置かれた紙に気付いた。

 メッセージなんて何も無い、「セレスト家の皆様へ」って書いてあるだけ。

 その筆跡がイオのものであることは、現世モチの記憶ですぐ分った。


「ベノワが随分遠いところにいるわ」


 母さんが召喚獣の絆を使って居場所を調べてくれた。

 イオの召喚獣ベノワは、母さんが福音鳥ハピネスの里から貰ってきたヒナだ。

 だから母さんとは絆があり、居場所が分かる。


『イオは、アズとルルが暮らした家に住むそうです』


 しばらくして、ベノワは母さんにそう告げた。

 アズとその妻のルルが暮らした家といえば、アサギリ島か。

 一面の花畑の中に、1本の木と1軒の小さな家がある場所だ。


「アサギリ島じゃ、迎えに行けないわね」

「イオが許可しなければ、誰も島に入れないな」


 アサギリ島は、元は魔王城があった場所。

 勇者として活躍したアズが、魔王討伐の恩寵として所有者になった土地だ。

 実際はアズは魔王を殺したわけじゃなく、妻にしたんだけどな。

 妻になったルルは短命で亡くなり、今はアサギリ島の1本の木に、その記憶と心を宿している。

 アズは日本に転生する際に、ルルのためにアサギリ島に記憶と心を残した。

 アズはルルが宿る木をを護るため、強力な霊力で島を封鎖している。

 今そこへ入れるのは、アズと同一の魂をもつ者、アズとルルの子、アズよりも霊位の高い神々くらいだろう。


『イオ、帰ってこないか? 無人島に独りは寂しいだろ?』


 俺は【念話】でイオに話しかけてみたけど、返事は無かった。

 彼は心を閉ざしてしまった。

 普通の子供なら家出しても自活できなくて誰かを頼るだろう。

 けれど、イオは見た目は6歳でも中身は20歳で、冒険者になれるくらいの技量はある。

 ほっといたら二度と帰ってこないと思う。


「私たちがアズを求め過ぎたせいね」

「どうしたら許してもらえるかな」


 この時から父さん母さんは、イオと家族になるにはどうすればいいか考え始める。

 俺もイオの閉ざされた心を開くにはどうすればいいか、考えるようになった。

 アズが復活しないのは悲しい。

 でも、アズの転生者と出会えたのに、疎遠になるのはもっと悲しいよ。

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