第25話:学園長と国王

 翌朝、チッチ、イオ、俺の3人は、学園長の呼び出しを受けた。

 呼ばれた理由は予想している。

 夏夜の夢ダンジョンで、今まで誰も捕獲できなかった夢幻種を、複数保護したメンバーだからだろう。

 ユニコーンとウサギーずを飼育棟へ連れて行ったら、ロッサ先生が「王様が褒美をくれるかも」とか言ってたし。

 攻略の言い出しっぺリーダーはチッチ、作戦の要はイオ、俺はただの付き添いだけどな。


「チッチ、王様に会う事になったのかな?」

「このメンバーで呼ばれるって、それだよね?」

「国王陛下、初めてお会いするけど、どんな方なんだろう?」


 そんな事を話しながら、学園長室へ続く廊下を歩く。

 ユニコーンは2頭に増えた。

 仔馬を連れ帰った夜、懐かれて部屋に連れ帰ったチッチのもとに母馬が現れて、仔馬から話を聞いて自分も一緒に飼えみたいなことを言ったとか。

 そんなユニコーン母子は、チッチから離れようとしないので、普段から捕獲玉に入れて連れ歩いている。

 捕獲玉は飼育ケージ代わりにもなるらしい。


「あれ?」

「え? そっちも呼び出し?」


 学園長室へ来てみたら、何故か江原、カジュちゃん、妹ちゃん、山根さんまでも、呼び出されてる。


「山根さん、しばらく会わないうちに変わったね」

「あんた達もね」

「氷属性風味になったね」

「あんた達をまとめて凍らせるくらいは、出来るわよ」


 異世界こっちに来てるのは聞いてたけど、会うのは転移後初めての山根さん。

 彼女は銀髪にアイスブルーの瞳の美少女に変わっている。

 俺は、前世の夢に出てきた銀髪美女が山根さんだなと察した。


 でも、彼女の名前は明らかに日本人のものだ。

 転生者はみんな日本名を失うのかと思ってたよ。


「朝っぱらから呼び出してすまないニャ、パパが君たちと話したい事があるそうだから、ちょっと行ってきてほしいのニャン」

「あたし忙しいんだけど。つまんない話だったらグーで殴るわよ」


 三毛猫学園長は、ズボンのボタンが心配な腹を揺らしながら、学園長室の奥の扉へと一同を案内する。

 茶道部の茶会準備中に呼び出された山根さんは、白い布地に銀色と水色の糸で刺繍された振り袖を着ていた。

 不機嫌そうな顔や銀髪のせいか、雪女みたいなオーラが出ている。


「な、殴るのは勘弁してほしいニャ」


 いつも悠々としてる学園長さえも、ビビるオーラだ。

 三毛猫学園長、シッポがブワッと膨らんでるぞ。

 山根さんの圧に負け気味の学園長が扉を開けると、そこは床に魔法陣が描かれた小部屋がある。


「この魔法陣の上に乗れば、パパのところへ転送されるニャン」


 学園長が説明してる最中に、急ぎたい山根さんがスタスタ歩いて魔法陣の上に立つ。

 続いて残りのメンバーが、ゾロゾロと魔法陣に乗った。

 学園長のお父さんって何者? 話したい事って何だろう?


 そんなことを思いつつ、転送された先はどう見ても個人のお宅ではない。


「学園長は確か、パパが話したい事があるって、言ったよね?」

「うん、言った」

「パパのところへ転送されるって、言ったよね?」

「うん、言った」


 半目になるイオ。

 カジュちゃん、妹ちゃん、江原は目をまん丸にしている。

 山根さんは不機嫌気味だが驚いたり困惑したりはしていない。

 この国に生まれ育ったチッチは知っていたんだろう、全く驚いてはいなかった。


「ここ、王宮に見えるんだけど、気のせい?」

「気のせいじゃなくて、ここは王宮の謁見の間よ」


 イオが困惑気味に言うと、山根さんが冷静に返してきた。

 俺たち7人は、学園長室の転送陣からこの国の王宮へ転送された。


「よく来たニャ」


 玉座に座る猫人は、学園長そっくりのでっぷり太った三毛猫。

 説明されなくても、親子だと思うレベルに瓜二つ。

 むしろ双子って言ってもいい。


「くだらない話だったらグーで殴るって、アンタの息子に言っといたから」

「ぐ、グーで殴るのは勘弁してほしいニャ」


 山根さん最強か。

 王様までシッポ膨らませてビビッてるぞ?


「山根は隣の会議室で説明を受けたらすぐ帰っていいニャン」

「じゃあ、そっちへ行くから。困惑してる子たちに、ちゃんと説明してあげなさいよ」

「わ、分ったニャ」


 どっちが上の立場か分からん会話だ。

 山根さんは謁見の間を出て、会議室へ行ってしまった。

 ホッとした様子の王様は、気を取り直すように咳払いして、今回の呼び出し内容を話し始める。


「まずはチッチ・ラズリ。歴史上初の夢幻種の捕獲、更にはそれを従えるという偉業を讃え、研究支援として金貨500枚を授けるニャ」

「ありがとうございます!」


 報奨金を与えると告げられたチッチが、深々と頭を下げた。

 王様は続いて俺とイオに視線を向けた。


「そして、勇者セレスト兄弟とその仲間たち。其方等に国家任務を任せたいが、引き受けてくれるかニャ?」


 その言葉に俺とイオは互いに指差し合い、自分たちの事だと認識する。

 ジャミさんの言葉やイオが借りてきた禁書の内容から、俺たちの前世がセレスト兄弟と呼ばれる勇者コンビだということは分かっていた。


「どんな国家任務か聞いてもいいですか?」


 俺はとりあえず任務内容を聞いてみた。

 勇者の仕事といったら魔王討伐か?


「其方等が前世で倒した魔王の部下を、見つけ出して捕獲してほしいのニャ」

「討伐ではなく、捕獲するだけですか?」


 任務内容を聞いて、今度はイオが質問した。

 魔王の部下を生け捕りって、倒すよりも難易度高い気がする。


「その部下は不死ゆえに、捕獲するだけでいいニャ」

「どの地域にいるかは、分かりますか?」

「ジャミの占いによれば、アサケ学園の中に潜んでるらしいニャ」

「「マジっすか?!」」


 思わず俺とイオはハモってしまった。

 他のメンツはビックリして声も出なかった。

 学園内潜伏とか。

 近過ぎて逆に見つけにくいかも?

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