第12話:スライムの冷菓★

 ダンジョンから帰ると、松本先生は俺とイオに言った。


「料理学部からかき氷機を借りて来てくれ」


 運搬手伝いを引き受けてくれた数人を連れて、俺とイオは調理実習室へ向かった。

 調理実習室には、アルバイト講師をしている妹ちゃんがいる。


「リユ~、かき氷機貸して」

「はぁい」

「あと、これはリユたちの分だよ」

「ありがとう~」


 イオが調理室のガラス窓を開けて声をかけると、妹ちゃんはすぐ気付いてくれた。

 道具を貸してもらうお礼に、イオが冷凍スライムを渡している。


「はいコレ。文化祭で使う業務用の大きいのもあるけど、運ぶのが大変だから家庭用を何台か使う方がいいよ」


 妹ちゃんが差し出したのは、日本の家電屋でよく見かける家庭用かき氷機だ。

 日本にあるのは電気で動くけど、このかき氷機には電源コードが無い。


「これ、電池式?」

「ううん、魔石式」


 イオの問いに、妹ちゃんから返ってきた答えは予想通り。

 プルミエタウンで魔道具は多少見てるから、魔石が動力と聞いても驚かない。

 異世界の家電は、電気じゃなくて魔力で動く。

 その魔力を供給するのが、魔石だ。

 魔石は電池やバッテリーみたいに使われる。


 受け取ったかき氷機を1人1台ずつ抱えて、俺たちは教室へ戻った。

 教室に着いて、かき氷機を長机の上に置く時に、製造元プレートを見たら、知ってる名前が記載されている。


「あ、これ作ったの詩川さんなのか」

「呼んだぁ?」


 思わず呟いたら、本人が来たよ。

 後ろにメンテスタッフ改め魔工学部の生徒たちがいる。


「お、来たか」

「かき氷ごちそうするって聞いたから、うちの子たち連れて来たわよ」


 かき氷パーティに呼んだのは松本先生らしい。

 魔工学部も来たところで、かき氷パーティが始まった。



「ほほぅ、冷凍スライムか。良い凍結具合だニャン」

「かき氷にシャーベット、ごちそうさま」


 ナジャ学園長や占い師ジャミもやって来た。

 魔法学部の教室は、イベント会場みたいに賑わっている。

 時間帯を決めて、他の学部の人たちも呼んだ。

 松本先生とクラス生徒たちが、来た人を誘導して並ばせた。


 みんなに配るのは、かき氷機で作るかき氷に、スライムシャーベットをトッピングした物。

 詩川先生が作った魔道具は、大気中の水分を氷結・加工して雪のように白くてフワフワしたかき氷が作れる。

 日本のかき氷機みたいに氷の塊をセットする必要はなかった。


 凍ったスライムは、魔道具で好みの味に変えて、いき氷に乗せる。

 スライムは、シロップみたいに甘かった。

 それを様々な味に変える魔道具も、詩川さん作だ。


「これを貸すから、お前たちも手伝え」


 松本先生に呼ばれて手に持たされたのは、アイスクリーム屋さんでよく見る、アイスクリームを丸める道具。

 先生はそれで冷凍スライムを掬い取って、かき氷にトッピングしている。


「これで取り分けて、柄のところに付いてるボタンをお客さんに押してもらえば、その人が求める味になる」


 使い方を説明しながら、先生が実演してくれた。

 スライムは凍ってもそんなに硬くはならないらしく、ジェラートみたいにすくって取り分けられる。

 先生は片手に持った魔道具で、凍ったスライムの一部を掬い取った。


「リクエストどうぞ」


 って言いながら、柄の先をお客さんに向ける。

 並んでいるお客さんはカジュちゃんだった。


「ミルク味くださーい」


 って言いながら、柄の先に付いてるボタンを押すカジュちゃん。

 スライムシャーベットが、透明からミルク色に変わった。


「かき氷はイチゴ味で」


 言いながら、隣に置いてあるかき氷機のボタンを押す。

 真っ白だったかき氷に、鮮やかな赤色のシロップがかけられた。

 白いかき氷にイチゴ味のシロップ、トッピングはミルク味のシャーベット。

 間違いなく美味しい組み合わせだな。

 嬉しそうにニコニコしているカジュちゃんに、完成した氷菓子が手渡された。


「カジュ、食ったらお前も手伝えよ」

「はぁい」


 隣のクラスだけど、カジュちゃんに手伝いを求める松本先生。

 美味しい氷菓子にゴキゲンなカジュちゃんが快諾した。


「使い方は分ったな? お前らは隣の列を頼む」

「「はい」」


 松本先生の指示に、俺とイオがハモった。


 冷凍スライムは、イオが異空間倉庫ストレージで保管している。

 異空間倉庫ストレージ内は時間の経過が無いので、凍ったものが溶けたりしなかった。

 シャーベットの一番人気はミルク味、かき氷のシロップはイチゴが人気でメロンがその次くらいだ。


「お疲れさん。お前らも休憩して食べとけ」

「「いただきまーす」」


 遂に待ちかねた俺たちの番がきた。

 何にするかはもう決めてある。


「シャーベットはこしあんに!」

「シロップは抹茶!」


 俺たちの好みは、白玉が欲しい、純和風の氷菓子だ。

 魔道具が優秀過ぎて、シャーベットが本物のこしあんみたいだ。


「…お前ら、意外と渋いな」


 先生に笑われつつ、俺たちは小豆と抹茶の味がリアルな氷菓子を美味しく頂いた。



※キャラ紹介画像・イオ&リユ

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075477849240

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