第6話

「ごめんなさい、実はもう私、記憶戻ってるの」



サリアの口から、その言葉を聞きルークはあんぐりと口を開けた。

言葉は聞いても、その意味を理解出来ていないようだ。



ただ口を開け、こちらを見つめていた。



ルークは動揺していた。

事実か、ウソか。



わざと記憶が戻っているとウソを付いて自分から情報を引き出そうとしているのか、それとも本当に記憶が戻ってきているのか。



「ははははは!面白い冗談だね?」



ルークは頭を振り、なんとか現実に意識を戻し、震える声で言った。

サリアはそんなルークを冷たい目線で見つめる。



「ウソじゃないわ。浮気の事も、あなたに引き倒されて記憶喪失になぅたことも、全部思い出しているもの」



サリアの言葉を聞き、ルークの心臓が跳ねる。

浮気、引き倒す。



記憶が戻っていなければ出てこないはずの単語。



「そうか!もどったんだねサリア!うれしいよ!」



ルークは半ばやけになって、笑みを浮かべながらサリアに近づき手を取った。



もうこれ以上の言い訳は無意味だと、さすがに悟った。

ならやるべき事は感情に訴えること。



そうして少しでも彼女の良心につけ込む。



サリアは優しい奴だ。

だから必死に心配している人間を一方的に攻撃出来ないはずだ。

その善意を利用させてもらおう。



「やめてもらえる?あなたのそういう所は大嫌いなの」



しかし今日のサリアには無意味だった。

雑に手をあしらわれ、一方的に突き放されてしまう。



「どうせ、やさしくすれば責められないとでも思っているんでしょ?残念だけど、私はそんなに甘くないわ」



手をあしらわれ再び動きをとめてしまったルークに、サリアは告げた。



「もう、お終い。あなたは私にウソをついた。チャンスは与えたわよ?隠し事はしているか?と。」



ルークは顔を歪め始める。

しきりに聞いてきていた言葉。

あれは試されていたのだと気づいた。



ルークがどのように答えるのかを見て、その後の対応を決めるために。

俺がこんな馬鹿の手のひらの上で踊らされていたのか。



ルークにはその事実が受け入れられなかった。



「は!お終い?じゃあやってみろよ!サリア!」



ルークは本性を現し、ルークの首を掴んだ。

まだだ、まだ負けたわけではないのだ。



浮気の証拠はすべて処分してある。

周りの人間と交流し評判も持っているのだ。



証拠も無く、少し前まで記憶喪失だった女の言葉にどれだけ耳を傾ける女がいる?

サリアの頭がおかしくなったとでも言いふらし、情報戦で勝てばいい。

まだ、負けてなどはいない。



「・・・・・・」



サリアはルークの言葉には何も返さずに、懐から幾つかの紙をだしてきた。

そしてルークに見ろと指示をしてくる。



ルークは紙をサリアからひったくり、見つめた。

そこに会ったのは、元浮気相手の女からの数々の告白だった。



自身とルークが浮気したこと。

ルークが妻の腕を強引に引き、そのせいで妻は頭を床に強く打ち付けていたこと。



その証拠となる証言だった。


読んでいくたびにルークの腕が震えていくのがわかった。



「もう別の所にも隠してあるわ。それはあなたにあげる」



「・・・・・・」



ルークは必死に思考を回す。

なにか手はないか、手は、と。



情報がだめなら、物理か?

幸いこの家にはルークとサリアのみ。

相手はか弱い女だ。



力ずくで監禁でもすれば・・・。



「無駄よ?私からしばらく連絡がなければ、同じ書類がいろいろな所に出回るわ。それを見てた人は、きっとあなたと私の失踪を結びつけてくれるから」



サリアはルークの思考を読んでいるかのように話す。

ルークは彼女の言葉を聞き、力なくその場に崩れていった。


「ウソだ。ウソだウソだうそだ」


ルークは壊れたように、同じ言葉を何度もつぶやき続けている。

そんな彼に、サリアは自身の分は記入をすませた離婚状を渡す。



「これはあなたが選択した事よ?せいぜい噛みしめて」



最後に元旦那に告げて、席を立ち、荷物を持って家を出た。



後悔などなかった。



この結果は彼の選択した結果なのだから。



春が訪れたオルデの町にはたくさんのお花が咲き始めていた。

それはまるで新たなサリアの旅立ちを祝福しているようであった。



その後のサリアは記憶が戻った事を皆に伝え、多くの優しき友達と共に幸せに暮らしたそうだ。

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【完結】ごめんなさい実はもう私、記憶戻ってるの 不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ) @tadanoniwatori

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