ワナビの住処は罠だらけ

トダカ

前置き

 私は今は引退した状態にあるが、元はプロのライターだった。

 文章力は平凡だったものの、企画力はあったので、90年代後半から00年代前半にかけて、大勢の漫画家、小説家、映画監督などにネタの提供をし、あるいはデビューを手伝ってきた。


 ここで記すのは、そうした成功者たちの物語――ではない。

 光あれば影がある。成功者の陰には失敗者もいる。賢者の陰には愚者もいる。善人が日々努力する一方で、人を食い物にする悪人もいる。

 ここで話したいのは、かつて私が遭遇した、ワナビ、つまり小説家や漫画家の志望者をめぐる、暗闇の物語だ。


 小説家や漫画家を目指す人は多いけれど、その実態について勘違いしている人は驚くほど多い。

 こう言ってる私だって、本職の小説家や漫画家、映画監督「そのもの」として働いた経験はないので、もちろん限定された範疇の話である。


 しかし、今これを読む君。君が今、年齢がいくつなのかは知らないが、もしも、プロの小説家、漫画家、その他のクリエイターを目指すのであれば、この話は読む価値がある。

 ただし読んだ後で、毒にあたってしまうかもしれない。事実、以前に同じ話を人に聞かせたことがあるんだが「こんな話、聞かなきゃよかった」という感想が返ってきたものだ。

 まぁ、つまり、かなり不愉快な話が含まれる。


 一般に思われている以上に、この業界は闇が多い。

 ほんのちょっとの知識がなかったがために、ほんのわずかな不注意のために、あるいは、愚かさのゆえに、闇に仕込まれた罠に引っかかって人生を棒に振る人は後を絶たない。

 だが逆に言えば、知ってさえいれば、そして注意を払えば、回避する方法は存在するのである。


 だから私の話を聞いていけ。


 これは例えていうなら、冒険家が旅立つ前に、現地の地理や動植物を勉強しておくようなものだ。毒蛇が潜む沼地に、半ズボンにサンダルで分け入るような、そんな愚行はしたくないだろう?

 きっと、役に立つはずだから。

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