光る指先
DRy0
第1話
キッチンに立ってご当主様のために朝食をつくる。
いつもと同じ時間に、いつもと同じ服装で、
そう。いつもと同じルーチンだ。
今日の献立は、ご飯、味噌汁、卵焼き、そして、アジの味醂干し。
冷蔵庫から食材を取り出して料理をつくりはじめる。
お出汁をとって、味噌汁と卵焼きにそれぞれに使う。
効率化した手順で、それぞれの料理をつくる。
~~~♪
今日の天気は快晴。
冬場だから、気温はマイナス3℃と冷え込んではいるが、空気は澄んでいる。
気分もよくなってきたので、鼻歌交じりで各工程を行う。
たとえ鼻歌であったとしても、音程は外さない。
いつもと同じ朝、いつもと同じキッチン。
それでも、同じ日は来ないのだから、少しでも楽しく過ごしたい。
私の心はいつだってそう思っている。
料理は完成し、盛り付けを行う。
ご飯と、お味噌汁のお豆腐の白、
卵焼きの黄色、
焼いたアジは、きれいな光沢を放っている。
緑系の色味が欲しく、おひたしをつくろうかと思ったが、
今日の朝食の予定には含まれていないため、このままお出しをしようと思う。
調理が終われば、調理に使った道具を洗う必要がある。
こんな冬場に、洗い物を行えば、どうしてもささくれができてしまったりする。
昔はハンドクリームで保湿をしたり、予防してきたが、今はもういらない。
なぜならば、私の指にはもう皮膚はないからだ。
爪もなく、のっぺりとし、金属光沢を帯びた指先。指紋があった部分には摩擦を増やすためのショットブラスト加工。関節を曲げれば微小ではあるがサーボモータの駆動音がする。指先から手のひら、手のひらから手首、肘、二の腕、肩、もっと言えば、この体全身が機械である。
事故でお仕えすることができなくなった私に、ご当主様は機械化を勧めてくれた。
いや、機械に精神を焼き付けているため、
私が機械になったのではなく、機械が私になったのだろう。
それでもこの心は、プログラムではなく、焼き付いた元の私の心だと信じている。
光る指先 DRy0 @Qwsend
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