聖剣極道 ~転生した極道、聖剣拾って成り上がる~
弦龍劉弦(旧:幻龍総月)
第1話 極道、異世界へ征く
銃声が響く。
3発連続で放たれた弾丸は、目の前にいる怨敵の胸を貫通し、大量の出血を起こさせる。
「ゲホ!!?」
撃たれた男は後方に吹き飛び、赤い絨毯が敷かれた床に転がった。
銃を撃ったのは着物を着た男。
長めの黒髪、鋭い眼、スマートな顔つきをしており、その服装は深緑と青の着物、金の龍の絵が入った羽織、草履、下には防弾チョッキ、手甲等の防具を着込んでいる。腰には刀を吊っていた。
全身は血にまみれ、所々銃で撃たれた傷もある。そこから出血しているが、無視している。
手に持っている拳銃は、50口径もある回転式拳銃、俗に言うリボルバー。名は『S&W M500』。
着物の男は、撃った男を見下ろし、今度は額に狙いを定める。
撃たれた男は、着ている白いスーツが血でにじんでいるのを、顔を上げて見た。
「ま、さか、日本の、マフィアが、ここまで、強い、とは……」
口から血を吐き出しながら、着物の男を見上げる。その表情は、どこか笑っていた。
「舐めていた、よ。君の、底力を……」
着物の男は引き金に指をかける。
「俺のじゃない、俺達のだ」
表情を変えず、残りの弾丸を目の前にいる男の額に撃ち込んだ。
◆◆◆
着物の男は、趣味の悪い豪華な部屋を後にする。
残されたのは、怨敵だった男の死体だけだった。
この部屋に辿り着くまでの道のりには、多くの死体が倒れている。死体を踏まない様、避けながら歩き、出口を目指す。
銃で撃ちぬいた者、刀で斬り捨てた者、無理矢理首をへし折った者。死体の種類はいくつにも分かれ、地獄の様な光景が続く。
何十、何百もの死体を乗り越え、着物の男は、激戦が始まった場所、ビルのエントランスホールまで戻って来た。
「…………これから、どうするかな……」
理由も無くこんな事をした訳では無い。言うなれば敵討ちに来たのだ。
このビルに陣取っていたマフィアに、家族を、仲間を殺された。自分以外の全員が殺された。その仇を取る為に、単身で乗り込んだ。
結果として壊滅させることに成功したが、これからの事は何も考えていない。否、考える余裕すら無かった。
全ての怨敵を地獄に送る。ただそれだけが身体を動かしていた。
その原動力が無くなった今、どうすべきなのか、分からなくなっていた。
「………………とりあえず、ここから、出るか」
抜け殻の様に歩き始め、夜で暗くなった出口から出ようとした時だった。
出口の向こうから、眩しいほどのライトが飛び込んでくる。
思わず目を細めてしまったが、その正体に気付いた時には、すぐに懐に入れている銃に手をかけていた。
「まだイカれた奴が残ってたか……!!」
ライトの正体、それは大型トラックである。
大型トラックは着物の男を目掛けて、出入り口であるガラスの自動ドアをぶち破ってきた。クラクションを鳴らし、全速力で走って来る。
「死ねやこのサムライもどき!!!!!」
叫びながら突っ込んでくるトラックに、着物の男は銃を構える。
残り1発の弾丸を、迷いなく運転手に発砲した。乾いた破裂音が鳴り響き、銃弾は真っ直ぐ運転手を捉える。ガラスを破り、その顔面に銃弾が直撃した。直撃と同時に血と肉と骨が爆裂し、運転席の中で飛び散る。
1発で仕留めたが、問題は残る。全速力で突っ込んでくるトラックだ。
こればかりは止める術がない。躱す余力は、とうの前に使い果たしている。
「…………ここまでか」
着物の男は、銃を力無く降ろし、トラックに正面から激突された。
こうして、男の命は尽きたのだった。
◆◆◆
男は不思議な感覚に覆われていた。
水の底へ沈んでいる様な感覚なのに、とても気分が落ち着いている。むしろ気持ちが良いくらいだ。温かな空気に包まれながら、意識がゆっくりと落ちていく。
(……ああ、これが死ぬということか)
そう思った瞬間、男の意識は急激に浮上する。まるで無理矢理たたき起こされるかのように身体全体が持ち上げられ、ジェットコースターで急上昇するかのような速度で飛ばされる。
突然の感覚の変化に、思わず目を見開いた。
「ッ!!! ハッ!!?」
心臓が高鳴り、呼吸が速くなる。目の前には見たことの無い天井が見える。石で作られた、なんとも古めかしい天井だ。
背中には冷たい床の感触がある。自分が床で寝ていたというのだけは理解した。
視線だけ動かすと、周囲には長いローブを着た人物達が、男を取り囲んでいる。しかし、一人だけ顔を出している女性がいた。その女性はどこか嬉しそうな表情で汗を流している。
「や、やりました……!! 成功です!!」
「よくやった『チェイル』。転生の儀は成し遂げられたようじゃな」
チェイルと呼ばれた女性はとても嬉しそうに喜び、その傍らには老婆らしき人物が立っている。
何が起こっているのか分からないまま、男は上体を起こす。
男が起きたのに気付いたローブの人物たちは、男に近付く。
「目覚められたか、自身の名前は分かるか?」
男はまだぼんやりしている頭を無理矢理たたき起こし、質問に答える。
「
尊はしっかりと答え、ゆっくりと立ち上がった。
「ここはどこだ? 一体何が起きている?」
尊の言葉を無視して、ローブの人達は何か話し合っている。
その隙に、周囲にバレない様慎重に身の回りの物を確認する。ボロボロになっていた着物は元に戻り、傷も癒えていた。腰に吊っている刀は、先程の乗り込みで折れたはずなのに、元に戻っている。拳銃は懐に入っており、弾もある。さっきまでの戦いが無かったかのような状態だった。
(これは夢か……? しかし、夢にしてもリアル過ぎる……)
脳の処理が追い付かない内に、
「何だこれは?!!」
ローブの人物の一人が大声を上げた。
「どうした?」
「この男、スキルが無い!!」
その発言に、周囲がざわつきだす。チェイルと呼ばれた女性は、みるみるうちに顔が青くなる。
傍にいた老婆は、尊に手をかざす。少ししてから、顔を真っ赤にした。
「これだけの労力をかけて呼び寄せたのが『無能』とは、心底呆れさせてくれるなチェイル……」
「ま、待ってください!? もう一度よく調べれば……!!」
老婆はチェイルを睨みつけ、
「もういい!! 貴様は追放じゃ!! この男と共に国から出ていけ!!!」
老婆は激高し、チェイルと尊を追い出すよう命令する。
何がどうなっているのか分からないまま、尊は『無能』と『追放者』という烙印を押されるのだった。
(一体、何が起きているんだ……?)
◆◆◆
訳も分からず追放された尊
チェイルという女性と共に投げ出されたのは、人里離れた山の中だった。
力づくで馬車に乗せられ、そのまま山の中に放り出されたのだ。馬車は2人を降ろした後、早々に来た道を戻って行ってしまった。
呆然と立ち尽くす2人の間には、気まずい空気が流れる。
「……………………」
馬車の中でも喋らないチェイルに、尊は少し溜息をつく。
「……これからどうするんだ?」
「え?」
尊がそう聞くと、チェイルは顔を上げる。
「いつまでもこんな所にいるわけにもいかないだろ。何か宛ては無いのか?」
問いかける尊に、チェイルは慌てて背筋を伸ばす。
「あ、あります! ここから北西に向かえば、隣国『フエキ大国』に入れます。そこまで行けばどうにかなるかと……」
語尾は小さくなったが、その情報を頼る他ない。
「分かった。行こう」
尊は一言言って、北西に向かって歩き出そうとする。
「ま、待ってください!!」
「何だ?」
足を止める尊に、チェイルは申し訳なさそうな顔になった。
「その……、怒ってないんですか? いきなりこんなことになって……?」
恐る恐る話すチェイルに、尊は表情を変えずに答える。
「急な変化には驚いてはいるが、怒る理由にはならん。気にするな」
そう言って、チェイルに手を伸ばす。
「自己紹介がまだだったな。俺は
チェイルはゆっくりと手を伸ばし、尊の手を掴む。
「チェイルと、申します」
「よろしくな、チェイル」
尊は微笑んで、チェイルを優しく引っ張る。
「は、はい!! タケルさん!」
チェイルはそれに応えるように、明るく返事をした。
◆◆◆
2人はしばらく山の中を歩き、隣国を目指す。
幸いにも、山道が作られており、歩くには苦労しない。
その間に、尊はチェイルから色々な事を聞く。
「つまりここは俺がいた世界とは全く別の世界ということか?」
「はい。私がいた『ヴァルガ王国』は、異世界から強者を呼び寄せる『転生の儀』を使って軍事力を増強してきました。儀には国民から集めた100年分の魔力を使用するので、安易にはできないのが難点なのですが……」
「それで『無能』である俺を呼んだから激怒した、と」
「はい……」
それだけの労力を使ってハズレを引いたのなら、あそこまで怒るのも分からないでもない。
それと同時に、尊は驚いてもいた。この世界では【魔法】【魔術】と言ったファンタジー世界の様な世界観がある。前の世界では創作の中でしか聞いたことがなかったが、まさか自分がそんな世界にやってくるとは夢にも思っていなかった。
心の中でそんな事を考えながら、別の質問が浮かんで来る。
「じゃあ、『スキル』っていうのは何なんだ? 【魔法】とかとは違うらしいが」
「『スキル』はですね、かなり専門的な内容になってしまうのですが、ざっくり言うと特殊能力になります」
「特殊能力……」
「はい。【魔法】や【魔術】とは全く別の方法で技を再現したり、能力を使用したりするのが『スキル』になります。例えばこんな風に」
チェイルが手をかざすと、掌ほどの小さな空間の歪みが発生する。そこに手を入れ、引っ張り出すと、ランタンが出て来た。
「これが私の持つスキルの一つ『収納』になります。便利なんですよこれ」
「そうか」
目の前で起こった事に少々困惑しながら、何とか飲み込む尊。
(……夢では、ないのだな)
自分の手をつねり、痛みを感じながら、目の前の事に実感する。
チェイルはランタンに火を点け、周囲を明るくした。
「そろそろ夕暮れですから、明かりを付けましょう。夜行性の『魔獣』も動く頃ですし」
「『魔獣』、とは?」
「……そちらの世界では魔獣はいなかったんですか?」
きょとんとした顔で尊を見る。尊は小さく首を横に振った。
「それは、羨ましい世界ですね」
チェイルの表情が、少しだけ暗くなる。
「……それは、どういう」
尊が詳細を聞こうとした時だった。
『…………か、…………だ…………』
微かに声が聞こえた。
遠くから、今にも事切れそうな小さな声だ。
尊は声のした方を向く。山の森は暗くなり、遠くまで見えない。
「? タケルさん?」
「……声が聞こえる」
気が付いた時には、尊は走り出していた。暗闇の中、森の奥へと突き進む。
「タケルさん!? 危ないですよ!!」
「遭難者だったら一大事だ!! 助けに行く!!」
チェイルの警告を無視し、尊は走る。声だけを頼りに、奥へ奥へ走り続けた。
息を切らしながら、道なき道を進み続けると、開けた場所に出る。まるでここだけ木を間引きしたかのような、そんな場所だ。
「確か、この辺りで……」
尊は声が聞こえた場所へ足を進める。
そして、声の主へと辿り着いた。
そこにあったのは、錆びだらけになった一本の両刃剣。剣身どころか、柄すらも錆びで覆われている。
尊は剣の傍まで近寄り、その手で剣を拾う。
「……お前が俺を呼んだのか……?」
ありえない話だが、声はここから聞こえた。確信に近い感覚が、尊にそう訴えかける。
まじまじと剣を眺めていると、後からチェイルが追い付いて来た。
「はあ、はあ……。お、置いてかないで下さい……」
息を切らしながら追いかけてきたチェイルはランタンを上に上げる。
それと同時に、ヒュッ、と、喉から変な声を出した。
「どうしたチェイル?」
「あ、あ、あ」
チェイルの視線は上を向いたまま固まっている。尊はチェイルが見ている方向へ視線を向けた。
そこにいたのは、あまりにも禍々しい怪物だった。
木よりも長い猿のような四肢を持ち、四肢に付いている本体は無数の目と口を無理矢理付けた肉塊である。
口からカタカタと歯を大きく鳴らし、2人を見下ろす。
「何だ、コイツは……!?」
「ま、魔獣、『四肢蜘蛛』……!!」
チェイルは完全に恐怖で震え上がり、顔は青ざめ、その場から動けずにいた。
「これが魔獣? 日本妖怪でもこんなグロいのいなかったぞ!!」
尊は拾った剣を左手に持ち替え、右手で懐に入れていたリボルバーを取り出す。
ロックを外すと同時に一瞬で狙いを定め、片手でリボルバーを撃つ。鍛え抜かれた腕で反動に負けることは無く、狙い通りに銃弾を撃ちだした。
本体と思われる肉塊に直撃した銃弾は、金属同士がぶつかり合う甲高い音を立てながら赤い火花を散らす。
(直撃したが、効いてない!? どんな体してやがる?!)
銃が効かない事に焦りを感じ、すぐにチェイルの下に走り出す。
「逃げろチェイル!!!」
尊が大声を出してチェイルに叫ぶ。しかしチェイルは恐怖で動けずにいた。
四肢蜘蛛はチェイルに全ての目を向け、気色悪い笑みを浮かべる。次の瞬間、長すぎる四肢の一つを、チェイルに向かって突き出した。その速さは目にも止まらず、高速で襲い掛かる。
チェイルが気付いた時には、すでに躱せない位置まで接近していた。もう駄目だと思い、目を瞑る。
だが、その一撃がチェイルに当たる事は無かった。
何故なら、飛び込んできた尊に突き飛ばされ、代わりに尊がその一撃を喰らったからだ。
「がは!!?」
尊はその衝撃で口から大量の空気を無理矢理出され、地面を転がされる。何とか受け身を取って二次被害を抑えるが、ダメージは重い。
(なんて威力だ……! バイクで引かれた時より痛かったぞ……!! 肋骨3本折れたか……!?)
すぐに呼吸を正常に戻し、四肢蜘蛛に視線を戻す。四肢蜘蛛は尊に狙いを定め、もう一撃入れようと四肢を整えている。
「タケルさん!!」
チェイルが叫ぶ。その眼には涙がこぼれそうになっている。
(……泣くな、チェイル。アンタは何も悪くない)
尊は立ち上がり、四肢蜘蛛と対峙する。
勝ち目が無い以上、自分が囮になり、チェイルから距離を離すしかない。今できる最善の策は、これしかない。
(元々死ぬはずだった身だ。それが人助けに使えるのなら、悔いはない)
せめて一矢報いようと、再びリボルバーを四肢蜘蛛に向ける。
(コイツだけでも、道連れにできれば……!!)
そう決意した時だった。
『そはまろがこうず。いづれ、力を貸さむ』
剣から声が聞こえた。今度はハッキリと、確かに聞こえた。
「な、に?」
声が聞こえたのはいいが、なんと言ったのか理解できない。
尊が理解する暇も無く、全身に何かが流れ込んでくる。まるで穴という穴から水が入り込んでくるかのような、不思議な感覚だった。しかし、気持ち悪さは無く、むしろ力が湧いて来る、漲る感覚が全身を駆け巡る。
(言っている事は分からなかったが、この感覚なら理解できる!!)
錆びた剣を掴む力を一層強め、両手で握る。剣を大きく振り上げ、四肢蜘蛛に狙いを定めた。
振り上げたのと同時に、錆びだらけの剣にヒビが入る。ヒビは一気に剣全体に広がり、割れていく。そして、中から出て来たのは、光り輝く青銅の
「喰らい、やがれえええええええええええ!!!!!」
尊は剣を一気に振り下ろし、四肢蜘蛛目掛けて一閃する。
剣から不可思議な力の塊が伸び、斬撃は四肢蜘蛛を両断した。銃弾をも弾くその肉体をいとも簡単に切断し、綺麗な断面を作って真っ二つにしてみせる。
四肢蜘蛛は断末魔の叫びを微かに上げながら、地面へ落ちていく。
尊は完全に倒したのをその眼で見届け、大きく息を吐いた。
「なんとか、なったな……」
『そのようかな』
剣からまた声が聞こえる。今度は何を言っているのかなんとなく分かった。
「……アンタ、一体何なんだ?」
『そはまろの事を言へりや?』
「いう、何て?」
また何を言っているのか分からず困惑する尊。剣はそれを見越してか、自ら喋り出す。
『よいよい。まろのあてなる言の葉に戸惑ふらむ。ならばまろより名乗りてみせむ』
意気揚々と、剣はその名を言う。
『まろの名は『
尊は、山の中で聖剣を拾たのだった。
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