12th YEAR BIRTHDAY LIVEと次の夢
@antedeluvian
12th YEAR BIRTHDAY LIVEと次の夢
2024年3月7日からの4日間にわたり開催された乃木坂46、12回目のバースデーを祝うライブ「12th YEAR BIRTHDAY LIVE」が幕を閉じた。
7年振りのさいたまスーパーアリーナ、年代別セットリストによる構成、そして、初めての3~5期生のみの参加するバースデーライブとなった。
今回のバースデーライブはこれまでにない特徴があり、それが現在の乃木坂46の新しい夢の輪郭を描き出しているようであった。
ここではめくるめく4日間を振り返りながら、その夢を追いかけてみようと思う。
***
●DAY1(2011~2014)
この日に披露された楽曲は、現在グループに所属するメンバーの加入前のものだ。
デビュー曲「ぐるぐるカーテン」から歴代の表題曲へ。
ユニット曲では、11th YEAR BIRTHDAY LIVEでも披露された井上和さんと菅原咲月さんによる「孤独兄弟」が、やはり新しい時代の象徴として輝いていただろう。
アンダー楽曲は、全メンバー混成によるパフォーマンス。
乃木坂46のライブにおいては、各楽曲のパフォーマンスメンバーはオリジナルメンバーが優先され、空白となったポジションなどに各メンバーが割り当てられていく。
今回のバースデーライブでの特殊性は、アンダー楽曲へのパフォーマンスメンバーの割り当てが全メンバーから行われていることだ。
近年のオリジナルメンバーがほとんど揃っている楽曲は別として、アンダー楽曲の全メンバー混成パフォーマンスはバースデーライブではほとんど初めてのことだ。
しかもそれが全日程で一貫している。
ここに今の乃木坂46の未来が垣間見える。
本編ラストは「乃木坂の詩」。
観客と共に歌う演出はここではカットされているが、それは最終日をラストとするための布石のようであった。
ちなみに、「乃木坂の詩」の後半部分で観客が歌うという演出は、バースデーライブにおいては、3rd YEAR BIRTHDAY LIVE、11th YEAR BIRTHDAY LIVE、そして今回の12th YEAR BIRTHDAY LIVEにしかない。
他のバースデーライブでは、暗転した際に通常通り歌い、明転後にセンターポジションのメンバーが「一緒に歌いましょう」と言って曲のラスサビに移行する。
ツアーなどでこの演出を行うことが多かったため、この事実には個人的に少し意外な感じがした。
ある者にとっては直接知ることがなかった、
ある者にとっては遠くから憧れていた、
そんな乃木坂46の歴史の礎となる時代。
どのメンバーも、あの頃のエッセンスを当時の振り動画から見出し、己の身体で表現するために腐心していた。
誰にとっても自分の曲ではない。
いわば借り物のような楽曲たち。
ともすれば、だたの真似事・カラオケになってしまうかもしれない。
それをいかに自分たちのものにできるか……、
それが彼女たちを終わらない研鑽の日々に向き合わせる。
ただ曲を聴き、楽しんでいただけでは分からない、己の身体を使ってパフォーマンスすることの重大さを彼女たちは身に沁みて感じている。
弱い心が最も避けるのは、自分自身と向き合うことだ。
彼女たちは「借り物の楽曲」を前に、強くあろうとする。
その姿が彼女たちを乃木坂46にする。
だからこそ、彼女たちは口々に言うのだ、「強くなりたい」と。
その過程を形容するならば、まさに彼女たちが言う「試練」であると言えるだろう。
●DAY2(2015~2017)
2016年に加入した3期生がメインとなる2日目。
なんと言っても彼女たちが初めて大きなステージを踏んだのと同じ場所で同じ曲を披露するというリフレインが深い感情を呼び起こしてくれる、今回のバースデーライブの白眉と言ってもいいだろう。
彼女たちの歩みを見てきたからこそ、7年越しにハルジオンの花が咲く光景、そしてその中心で美しく、たくましく、しなやかに、堂々とパフォーマンスをする彼女たちの姿に感じ入ってしまった。
そして、「三番目の風」、「僕の衝動」から「設定温度」へ。
かつて1期生が担っていたパートには3期生が、そして、4期生、5期生が加わっていく。時の移ろいを感じさせた。
この歴史の積み重ねが今の乃木坂46を作ってきた。
それはこれからも変わらないであろう。
そのことを信じさせてくれるような場面の数々だった。
4期生もまた7th YEAR BIRTHDAY LIVEで披露した「傾斜する」を当時と同じようにパフォーマンスをした。
過去と現在の繋がりが、この日はことさらに強調されていた。それは、まさに今のグループがこの2015年~2017年を境にして存在していることを示している。
2015年からの3年間は乃木坂46を飛躍的に進化させた時期だっただろう。
その結実が「インフルエンサー」となって人々の前に現れたのだ。
3期生としては、その栄光の場に導いてくれた先輩たちの背中を感じると共に、後輩たちに同じ思いを味わってほしいと思い続けている。
そして、そこまでの域に達していないのではないかと自問自答を繰り返してきた。
この日、久保史緒里さんは「夢」の話をした。
乃木坂46は夢を更新し続けてきた、と。
自身もノートに夢を綴り、叶えてきたからこその言葉だっただろう。
では、今の乃木坂46の夢とは何だろう?
私はそう考えていた。
ちなみに、この日の「Threefold choice」で、私は見事にやられてしまった。
このパフォーマンスの人選をした人間は悪魔なのではないかと思う。
●DAY3(2018~2020)
2018年に加入した4期生がメインとなる3日目。
2020年には、最後の全曲披露となった8th YEAR BIRTHDAY LVEがあり、そこで当時は新4期生と呼ばれた5人も乃木坂46の歴史に加わることになった。
1期生を基準に考えると、間隔をあまり開けずに加入した2期生は1.5期生のようなイメージだ。3期生が初めて後輩として現れた印象があり、4期生は孫のような存在に感じる。
同じようなことを最近のメンバーのインタビューで読んで気がしたが何だったか思い出せない。
とにかく、そのような孫みたいな子たちが立派に、大きく、力強く、頼りがいのある姿で会場を沸かせているのを見て、乃木坂46を牽引していることを改めて実感させてくれた。
その際たる楽曲が「I see...」だろう。
乃木坂屈指のライブ映えする楽曲だ。ライブに来ることが楽しみになる楽曲があることはグループの強みである。
また、この日は乃木坂の象徴ともいえる1期生のメンバーをオリジナルに据える楽曲に未来を託すメンバーたちが立つという場面も印象的であった。
「心のモノローグ」は遠藤さくらさんと賀喜遥香さん、
「ファンタスティック3色パン」のセンターには小川彩さん、
「SIng Out!」には井上和さん。
大切なバトンを受け継ぎ、乃木坂の歴史に組み込まれること。
それは文字にすれば簡単な一行にすぎない。
その「簡単な一行」のために、彼女たちは膨大な時間をかけ、悩み、苦しみ、試行錯誤し、人生の時間の一部を削り、それぞれの楽曲に向き合う。
言葉ではなく、自らが積み上げてきたものでそれを表現することを彼女たちは求められている。
その重圧に耐える彼女たちのそばで味方でいることを幸せに思うべきなのだろうと、私は思う。
この日、井上和さんは「先輩の衣装を着ることの喜び」を語っていた。
歴史を物語る場所や物。
それらは、二つの時空を結びつける作用がある。過去と現在である。
乃木坂46にとって大きな出来事のあった場所、さいたまスーパーアリーナ。
その会場に足を踏み入れ、温度や匂い、音の反響や会場の距離感を目の当たりにして、初めて過去の歴史が具体的な形を持って彼女たちに接してくる。
先輩たちがステージ上で纏っていた衣装もまた、現在と過去を繋げるツールだ。
大きな歴史の流れの中に自分が接続されることで、彼女たちは真の意味で当事者となる。
そういう意味で、バースデーライブというのはイニシエーションのようなものなのかもしれない。
●DAY4(2021~)
2022年に加入した5期生、そして、今の乃木坂が現在形を見せる最終日。
「おひとりさま天国」から昨年リリースの楽曲を皮切りにスタート。
各期の楽曲で色の違いを見せつつ、「Actually...」のピークまで駆け上がる。
「Actually...」はたったひとつのポイントにライブ全体の比重がかかっているのではないかと思えるほど、ピークがはっきりとしている。
そのポイントが中西アルノさんの雄叫びだ。
この楽曲の辿ってきた歴史を見れば、彼女の魅力の伝播と比例しているように感じられる。
乃木坂のライブでは、観客が自分でペンライトの色を変える。
それは意思表示のようなものだ。
曲によってペンライトの色が変わる時、そこには二つのうちのいずれかの意味がある。
ひとつは、楽曲の色。
もう一つは、その楽曲のセンターに立った人のペンライトカラー。
例えば、「ハルジオンが咲く頃」は、アリーナが黄色、スタンドが白に、
「サヨナラの意味」では、全体が緑色に。
「ハルジオンが咲く頃」は、楽曲の色を、
「サヨナラの意味」は橋本奈々未さんの色をそれぞれ表している。
この日に披露された曲でいえば、「最後のTight Hug」での黄色いペンライトは生田絵梨花さんを意味している。
楽曲のセンターに立った人のペンライトカラーを掲げるというのは、それだけその楽曲のセンターに立つ人の存在感、魅力が突き抜けているということである。
そういう意味では、「Actually...」も彼女のカラーである「水色×ターコイズ」に会場が染まるに値するだろう。
もしかすると、池田瑛紗さんもそれに憧れて会場を緑と白に染め上げたのかもしれない。
この日、遠藤さくらさんは「ライブが好き」だと何度も口にした。
彼女はいつもライブ終わりには「もっとできたのではないか」という思いを抱いていた。
いつも控えめだった彼女もいつの間にか彼女なりの意思表示の仕方を覚えて、涙を堪えて立っていたステージの上で、今では唯一無二の存在感を放っている。
今回のバースデーライブは、彼女たちの成長、すなわち現在の姿を余すことなく発揮する機会でもあった。
アンダーライブのように、それぞれにスポットライトが当たるライブデザインが徹底されていたからだ。
彼女たちが纏う衣装に、もともと誰が着ていたものを割り当てているのか、
どの空白ポジションに誰が入るのか、
誰がダンスパートを務めるのか、
誰が歌パートを務めるのか、
誰が喋りを担当するのか、
そのすべてがデザインされている。
誰もが魅力を持ち、会場をその人の色に染められる。
それを乃木坂46というグループは身をもって示したかったのだろうと思う。
だから、新しい曲のタイトルは「チャンスは平等」なのではないだろうか。
これは乃木坂46というグループ自体に投げかけられた希望なのだ。
自分に何があるか分からなかったとしても、それを見つけてくれる人は必ずいる。
この曲は彼女たちを見る人たちにも投げかける。
決めつけではなく、数字ではなく、目の前にいるメンバーのそのままを見逃すことなく目に焼きつけよ、という。
そこに命を持って、命を張って、人としてアイドルとして生きているその人をちゃんと見てあげてほしい、という。
その曲のセンターに立つ山下美月さんは、乃木坂を去る自分を思って涙を流していた。
彼女にとって、乃木坂46は自分という存在をすくい上げてくれた場所であり、彼女の中に秘められていた魅力を見出してくれた場所だ。
その様は「チャンスは平等」で語られる出来事そのものだ。
誰にも平等にチャンスが与えられているのならば、選ばれるのは自分ではなかったかもしれない。
気まぐれな神様の指先が彼女に触れただけなのかもしれない。
何がきっかけであろうが、起こった事実を受け入れ、彼女はここまで走り抜いてきた。
その万感の思いが彼女に涙を流させたのだろう。
そんな山下美月さんが次の時代の乃木坂46の礎となるのだ。
次の乃木坂46の象徴と言ってもいい。
***
今の乃木坂46の夢、それは「アンダーライブを東京ドームで」なのだと思う。
その意志表示が12th YEAR BIRTHDAY LIVEだったのだ。
29枚目のアンダーライブのステージ上で和田まあやさんが口にしたその夢は、ただあの場のノリだけではなかった。
あの時のそれは冗談のようにも聞こえ、メンバーからも驚きの声が上がっていた。
しかし、今やそうではないと言えるだろう。
彼女の想いを引き継いで、それが乃木坂46の夢になった。
そして、それを実現させるためにメンバーそれぞれの魅力を発信する場を武器として、それぞれにスポットライトが当たるデザインをグループ全体で作り上げていく。
グループ全体の地力を上げ、アンダーという場所を吹き溜まりのようにしない。
風通しを良くし、一部にはネガティブに映っているアンダーというイメージを刷新する。
そのためには、メンバーの流動性を高めていく必要もあるだろう。
そして、それを35枚目のシングルで体現しているのだと感じる。
ここからまた新しく始まるのだと。
その先に乃木坂46の新しい夢が待っている。
それを実現すれば、またその先には新しく、大きな夢が遠くにそびえているのが見えるのだろう。
この4日間はその未来図を見せてくれたように思う。
その輝かしい夢の実現を私は心待ちにしている。
乃木坂46が好きでよかったと改めて思う。
未来を見せてくれてありがとう。
written by antedeluvian
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