【推理士・明石正孝シリーズ第8.5弾?】明石、推理を語る
@windrain
前編
ミステリー研究会の活動場所で、今日も明石は中学生の佐山
この大学のすぐ近くにある高校に入学するためだけに、彼女は受験勉強に励んでいた。進学後も引き続きここへ ――― というよりも明石のところへ入り浸るためだけに。
ちょっと前までは受験の「受」の字も感じさせなかったというのに、恋心というのはこれほどまでに人を変えるものなのか。
明石は彼女の意図がわかっているはずなのに、それでも協力しているということは、彼女の思いを受け止める気があるということなのだろうか?
別に二人がイチャイチャしているわけでもないのだが(初期の頃は、佐山美久が一方的にイチャイチャしていたが)、他のサークルメンバーにとってはたまったものではない。
ろくな調査依頼が来ないので、明石はちょっと前に「推理士・明石正孝 学内事務所」のポスターを掲示板から剥がしていたから、ミステリー研究会は仕事がなくて暇になっていたのだ。
それで元どおり読書やDVD観賞を行うサークルに戻っていたのだが、正直なところメンバーは、明石が県警捜査一課の田中管理官から事件への協力を依頼されるか、勝手に事件に首を突っ込むのを期待しているのだ。
それなのに、明石はこのところ佐山美久への家庭教師的な役割しか果たしておらず、しかもそれが思いのほか熱心に見えるので、どうしても心配になってしまうようだ。
それはあれだ、家庭教師と生徒がドラマでよく陥る禁断の愛ってやつだ。もしも明石がここ以外で、例えばカラオケルームとかでも勉強を教えてようものなら、そういうことにもなりかねない。
そのとき、例によって会議室に田中管理官が入ってきた。彼は事件の被害者になって頭部に怪我をし、まだ入院していると思っていたのだが。
「田中管理官、退院していたのですか?」
僕が問うと、
「さっき退院したばかりだ。まだしばらく自宅療養が必要だがな。今日は差し入れを持ってきたよ」
「ありがとうございます」
僕は彼から菓子箱を受け取った。開けてみると、人数分以上のワッフルが入っていた。
「退院祝いっていうのは、退院した人が受け取るものでしょう」明石が憎まれ口を叩く。「退院した人が菓子を配るのは、おかしいですよ」
「いやまあ、これはこの間のお礼だ」
「この前の事件に関わったのは、僕と三上だけですよ」明石が二の矢を継ぐ。「ほかのサークルメンバーは関わっていない。まさかこれが事件解決のお礼だというんじゃないでしょうね?」
「いや、ちゃんとお礼はするさ。なんならフルコースのディナーでも」
「公務員がそんなに高給取りじゃないのはわかってますよ。ラーメンと餃子で手を打ちましょう」
「そんなもんでいいのか? それは助かる」
それから田中管理官は僕に耳打ちして、
「明石君は大丈夫なのか? 前より親密になっているようだが・・・くれぐれも青少年健全育成条例に抵触するようなことは、慎んでもらわないと」
「大丈夫だと思いますけど、一応僕からも言っておきます」
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