うちの義妹は何を考えているか分からないけれど、可愛いという事だけは分かる ~気を使う必要が無いし相性も良い、もしかして、最高の関係なんじゃないか?~

尾津嘉寿夫 ーおづかずおー

義妹がどうして俺の秘密を知っているんだ!?

 宿題と予習復習を終えて伸びをする。


 今は高校1年の3月――4月からは高校2年生になり、少しずつ大学受験を意識した勉強が始まり、来年の今頃は本格的な受験勉強を行っているだろう。つまり高校生活の中で、今の時期が気兼ねなくのんびり出来る最後の期間なのだ。


 ライバル達と差をつけるチャンス……しかし、いかなる戦士でも休息は必要だ。


 目線を斜め下に移すと、義妹が俺の部屋にある机とベッドの間の隙間にピッタリと挟まり体育座りの体制でスマホゲームをしている。


 椅子を引き、背を反らして義妹を見る。


「疑問なんだけどさ、何でここにいるの? ここ、俺の部屋なんだけど。」


 義妹はスマホを見たまま応える。

 

「この隙間が落ち着くから。」


 まあ義妹がいても、何か害があるわけでは無いので、通常であれば問題は無いが、一仕事を終えた思春期の男子には1人になりたい時があるのだ。


「もうそろそろ出て言ってくれない? 俺、1人になりたいんだけど。」


「『奇跡の"I"capおっぱいでいっぱい愛してあげる』」


「……!」


 突然、義妹の口から発せられた言葉に動揺をする。それはまるで、警察に尋問をされた犯人のようだっただろう……。


 なんせそれは、俺が大人の動画サイトで最近ダウンロードした動画のタイトルなのだから。


 義妹は床の上にスマホを置き、代わりに、床に置いてある紙パックのジュースを取り、ストローで吸いながら淡々と話す。

 

「あの動画の女優、可愛いよね。おにぃ、ああいう子が好きなんだ。でも、パスワードを自分の誕生日にするのはどうかと思うよ。」


 まさか家族の中に、大人の動画サイトのパスワード突破を試みる奴がいるなんて思いもよらなかった。あまりも適当なパスワードをつけたことが、仇になってしまったか……。

 

「あ、あれは友達が可愛いって言うから……。それで、たまたまサイトを開いたら、何か安売りしていたので、試しにダウンロードしただけだし……。」


「そう。じゃあ、パパとママにも、おにぃの見ているサイトのパスワードを教えてあげようかな……。」


 このときばかりは義妹の機嫌を取るしか無い……畜生。


「何か食べたいものはある? 何でも奢ってやるよ。」


「寿司」


 俺達の両親は、今日から結婚一周年旅行に出かけているのだ。そのため、2人共それぞれ1日2000円の食事代を貰っている。


 しかし、寿司なんかを奢ったら、それだけで、両親から受け取った食費が、一食で無くなってしまう。それどころか、大学の入学費として貯めている俺のバイト代に手を付けなければならないだろう。

 

「高すぎて無理。牛丼かハンバーガーかファミレスならどれが良い?」


「おにぃの尊厳は寿司よりも安いのか……。それに、おにぃの”何でも”は3通りしか無いの? まあ、その中ならファミレスで良いや。」


「その代わり、父さんと母さんには……。」


「パスワード変えないでね。そうしたら、黙っといてあげる。」


「お前も見るの?」


「うん。勉強のため。それと、あの子の新作が出たら買っておいてね。」


「なんの勉強だよ。」

 

 そんな話をしながら、薄いコートを羽織り財布を持つ。義妹も自分の部屋に戻り外出する準備を始めた。


◆◆◆◆


 1年前の今日、俺に義妹が出来た。両親が再婚したのだ。


 どうやら、両親は前から付き合っていたらしいのだが、俺達の高校受験が落ち着くまで結婚を待っていたとのことだ。


 まあ、義妹と言っても俺の方が2ヶ月、誕生日が早いだけで学年は一緒なのだが……。

 

 俺は、俺が生まれてすぐに父が亡くなり、母と2人で暮らしてきた。


 母は忙しく働いており、寂しいと感じた時もあったが、それなりに幸せな生活を送って来たと思う。それに、懸命に働く母に楽させたいと思い、俺も頑張って勉強をして県一番の進学校に入学することが出来た。


 そんな矢先、突然、優しいくて新しい父と義妹が出来た。初めて義妹を見た印象は”氷のような人”だった。


 長い髪の毛の隙間から覗く、この世の全てを呪うような鋭い眼差しは、逸話や怪談の中で語られる雪女のようだと感じた。


 義妹の生みの母は非常に厳しかったらしく、時には義妹に対し暴力を振るったとのことだ。


 次第に義妹は心を閉ざすようになり、勉強は出来るのだが友達は1人もいなかったらしい。


 出会って間もない頃は、俺が話しかけても無視をするか、事務的なことしか返してこなかった。


 俺は、何を考えているのか分からない……化け物のような彼女と一緒に過ごすことが苦痛だった。


 ある日、彼女が俺の部屋で漫画を読んでいた。彼女はそれまで、マンガもゲームも禁止されていたらしい。彼女が俺の漫画を読む姿を見て”自分を表に出すのが苦手なだけの普通の女の子”であることに気がついた。


 それからは、なるべく”普通の女友達”のように接していたのだが……いつの間にか、小生意気で小憎たらしい義妹が出来上がってしまったのだ。


◆◆◆◆


 家から徒歩15分くらいの所にあるファミレスへと入り、店員さんに声をかける。


 今は19:00過ぎ――夕飯時で、普通であれば賑わっているはずの店内は、家族連れの客が数組座っているが空席が目立つ。今日が特別というわけではなく、この店はいつもこんな感じなのだ。店員さんもやる気がなく、気怠げにテーブルへと案内された。


 本当に、このお店は良く潰れないものだ。


 義妹にメニューを差し出すと、手のひらでそれを拒否する。


「私、値段の高いメニュー上から3つ。」


「それだと、ステーキを3枚食べることになるぞ。」


 そう話すと、義妹は渋々メニューを読み始めた。


◆◆◆◆


 注文を終えて改めて義妹を見る。


 ダボダボの白Tの上に学校指定のカーデガンをはおり、長く伸びたボサボサの髪を乱雑にゴムで止め、メイクも本当に最低限――明らかに陰キャの”それ”だが、それでも可愛いと感じてしまう独特な雰囲気を纏っている。


「何か私の顔についてる?」


「いや、彼氏作らないのかな? って思って。」


「この前告白された。」


「マジ! 誰に?」


「嘘だよ。」


 コイツはいつも、無表情のまま飄々と、嘘か本当か分からないことを言ってくる。


 俺と義妹は高校でも同じクラスなので、どうしても義妹のことが目に着くのだが、義妹はクラスの中ではかなり特殊な存在だ。


 陽キャグループとも陰キャグループともいじめられっ子とも普通に喋る。男子からもそこそこモテる。だからといって女子で義妹のことを悪く言う人間もいない。何というか、体育の授業で2人組を作るときに絶対に余ることは無く、いつも違う人に声をかけられるタイプだ。

 

 そして、義妹に告白をして玉砕した男子を最低2人は知っている。コイツの言葉は本当に嘘か本当か分からない。


「おにぃこそ彼女……。」


 コイツ、彼女を作らないのか聞こうとしてやめやがった。まあ、俺はガリ勉の陰キャポジで、男子とは気兼ねなく話せるが、女子からの受けは良くない……。まあ悪くもない……ハズだが……。


「うるせえ。俺は良い大学に入ってから、可愛い彼女を作るんだよ。」


「おにぃの趣味は、可愛くて巨乳だもんね。ハードル高いと思うけどな。」


「俺は、顔やスタイルよりも中身を重視するタイプだから。」


 義妹は無表情のまま、自分の胸を下からすくうように持ち上げる。

 

「これ、お願いすれば揉ませてあげようと思ったけど、中身が重要なら興味ないよね。」


 義妹の発育は他の女子に比べて良い方だろう。


 流石に俺の見ていた大人の動画の女性と比べればまだまだだが、今、両手ですくい上げている両胸も、手のひらから零れそうになっている。この先も成長するとしたら、恐らく中々の凶器になるはずだ。


「よろしくお願いします。」


「1もみ1万ね。」


 そんな話をしていると、注文した料理が届いた。


◆◆◆◆


 義妹は料理をメチャメチャ綺麗に食べる。箸の握り方、茶碗の持ち方。どれもマナーの先生のようだ――これらの所作は、彼女の前の母親から厳しく叩き込まれたらしい。


 一方で、俺の食べ方はいたって普通――というか、義妹の食事の食べ方を見るまで食事マナーなんて考えたことは無かった。食事なんてただの栄養摂取であり、早く済ませて勉強に戻りたいとすら思っていた時期もある。


 俺の方が早く食べ終わりドリンクバーのお代わりを取りに行くと、兄妹で仲良さそうに食事をしている家族連れが目に入った。


 席へと戻り義妹に質問をする。


「俺達って、周りから見てどう見えてるんだろうね。」


「さあ? 兄妹か、恋人か、友達じゃない?」


 コイツ、思いつく選択肢を全部言いやがった。


「じゃあ、お前から見て俺はどう見える?」


 義妹は食べていた料理を端に寄せて、持ってきたポーチからハンドクリームを取り出し俺の前に差し出した。


「これ」


「ハンドクリーム、いなくても死にはしないけど、あったら便利ってとこ?」


「いや、私、手が荒れやすくて、すぐにささくれが出来ちゃうの。つまり、いないと、そこそこ困るってこと。」


 話しながらハンドクリームを手のひらに出す。すると、残りが少なかった為か、下品な破裂音を上げながら、義妹の手のひらに大量のクリームが飛び出した。


 義妹はそれを自分の手のひらで軽く伸ばし、俺の手を握る。


「たくさん出たからあげる。」


 そう言うと、義妹の手が俺の手に絡みつき、ハンドクリームを刷り込んでいく。彼女のカサカサな手のひらが少しずつスベスベになるのを感じながら……。

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うちの義妹は何を考えているか分からないけれど、可愛いという事だけは分かる ~気を使う必要が無いし相性も良い、もしかして、最高の関係なんじゃないか?~ 尾津嘉寿夫 ーおづかずおー @Oz_Kazuo

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