その④

「国へ戻るって決めたの自分なんだから、後悔なんて出来ないよ」

「はい。ワタシも同じです。アリス様にお仕えすると決めたのですから最後までご一緒致します」

「もう。それ何回目? さすがに聞き飽きたよ」

真面目過ぎとつまらなそうにわたくしを見るアリス様は聞き飽きたと言いつつ、真剣な顔つきでわたくしを見つめ「信じてるよ」と念を押されます。

離宮を離れる際は薄暗かった空もいまではすっかり日が昇り、雨模様は変わりませんが馬車の窓から見える景色は一面の草原。遠くに城壁が見えるということはすでに王の直轄領を離れたことを意味します。

フェリルゼトーヌとの国境までの道のりはまだ長く、どんなに急いでもあと半月は掛かります。そんな距離をアリス様はあの日、たったお一人で来られたのですよね。聞いた話では国境からほど近い村で保護され、連絡を受けたクーゼウィン兵の警護の下で王都まで来られたそうです。

「アリス様、一つ聞いても宜しいですか」

「なに?」

「フェリルゼトーヌからこちらへ来る時、どうして警護をお付けにならなかったのですか」

「他国の兵が勝手に入って来たら迷惑でしょ。だから国境を超える少し前で一人になったの」

「怖くはなかったのですか」

「怖かったよ。でもそれ以上にクーゼウィンの人たちに余計な不安を持ってほしくなかったから。それに――」

「なんですか?」

「家族を奪われる以上に怖いものなんてないよ」

すごく重みのある言葉でした。わたくしも家族を失いました。ですがアリス様と理由が違い過ぎます。比べようがありません。

馬車の中に重苦しい空気が漂いますが無理にこの空気を掻き消すような真似はしません。

この先、アリス様が思い描く未来が待っているとも限らない中、きっとこのようなことは数多く起こるでしょう。ならばアリス様が進む道が真っすぐ続くことを祈り、いまはただ、馬車に揺られることにしましょう。

(――晴れてきましたね)

ふと窓の外を見ると昨夜から降り続いていた雨は止み、雲の隙間から日差しが差し込んでいました。西の空は既に雲が取れて虹が掛かり、それはまるで天がアリス様の味方をされているようでした。

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