その⑤
◇ ◇ ◇
「――アリス殿下。突然の謁見は困りますと何度申し上げれば良いのですか」
謁見の間に現れたサミル様は玉座に座ると同時にアリス様に苦言を呈されました。
アリス様に全てをお話した翌日。事前連絡なしに登城したわたくしたちを衛兵たちは謁見の間へ通そうとはしませんでした。しかしアリス様がフェリルゼトーヌの王女と言う身分を振りかざし、半ば強引にサミル様との面会を実現させました。玉座に座るサミル様の左後方には父上がわたくしたちを見守っていますが、その表情はとても険しくアリス様に敵意を向けているようにも見えました。
「王女殿下ですからこのように時間を作っていますが、私も公務があります。もう少し御配慮頂けませんか」
「その点については深くお詫び申し上げます。ですが急を要する事態でしたので無理を承知で謁見を願い出た次第です」
「急を要する、とな?」
首を傾げるサミル様は父上の方を見て心当たりがあるかと尋ねます。しかし父上は当然のように首を横に振り、その反応を見て陛下はアリス様に詳しく話すように求められました。
「アリス殿下。事前の調整もなく押し掛けてきたということはそれ相応の事情があるとお見受けします。お話し頂けますか」
「単刀直入に申します――私の命を狙っている者がこの中におります」
「――――なっ⁉」
あまりにも率直過ぎるアリス様の言葉に絶句する陛下は玉座から立ち上がると犯人を捜すようにあたりを見渡し、心当たりがあるのかとアリス様に半ば問い詰めるように尋ねられました。アリス様は殺されるような覚えはないと明言される一方で犯人はすぐそこにいるとわたくしの名を挙げられました。
「私はここにいるレーヴェン公爵の御令嬢、エーリカ嬢に幾度となく命を狙われました」
冷静に考えればおかしな光景です。自分を殺そうとした人間が至近距離にいる中での告白なのです。陛下は初めて聞くであろう話に絶句し、周囲にいた衛兵たちも動揺を隠せない様子でした。ただ一人、わたくしだけは動揺することなく、普段通りアリス様の後方に控え、ただ静かに成り行きを見守りました。アリス様――信じてますよ。
「時には短剣を使い、またある時は自らの手で首を絞めようと、二人になる時を狙ってエーリカ嬢は私の命を狙いました」
「……エーリカ。殿下の話は本当か」
「…………」
「答えろ!」
「……本当でございます。陛下」
「――――っ⁉」
「わたくしはアリス殿下をお守りする騎士でありながら、その御命を頂戴しようと企てました」
取り乱すことなく、淡々と罪を自白するわたくしに陛下をはじめその場にいた多くの者が酷く動揺していました。父上も驚きの表情を隠さずにわたくしを見つめていますが他の者とは明らかに動揺の仕方が違いました。
(……アリス様の予想通りですね。まさか本当に上手くいくとは)
おそらく父上はなにかの陰謀だとわたくしが取り乱すことを期待していたのでしょう。わたくしが罪を認めなければアリス様の妄想で済ませることが出来ます。そうなれば父上が日頃から口にしている「アリス様がこの国の脅威」と言う言葉に少なからず信ぴょう性が付き、アリス様をクーゼウィンから追い出す口実にもなりえます。やはり父上はなにか良からぬことを考えているのでしょうか。もしそうならば娘として父上を止めなければ。
「――エーリカ」
「はい。陛下」
「申し開くことはあるか」
「いえ。全てはわたくし一人で行ったこと。なに一つ釈明することはございません」
「そうか……衛兵! レーヴェン公爵令嬢、エーリカ・ヒルデガルド・レーヴェンを捕らえよ!」
陛下の号令の元、控えていた衛兵たちがわたくしに駆け寄ります。アリス様、このままでは――っ!
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