その③

               ◇ ◇ ◇


 わたくしの父、コルネリオ・フロシュ・レーヴェンは公爵にして宰相。サミル陛下の側近中の側近。故にわたくしもサミル様とお会いする機会は比較的多いのですが、護衛騎士としてアリス様に仕えるようになってから週に一度は登城するようになりました。

 サミル様とお会いするのは決まって陛下の執務室。堅苦しい謁見という形ではなく、あくまでアリス様の近況を報告するもので父上も同席されます。

「――以上が最近のアリスリーリア様の御近況になります」

「分かった」

「あの、サミル様――」

「下がって良いぞ」

 書類から目を上げずに執務机で淡々と執務を続けるサミル様は冷たく「用が済んだのなら下がれ」と言われ、その言葉に従うしかないわたくしは深々と一礼をして部屋を後にします。即位されて四年。わたくしと同い年で世にいう幼馴染の関係にあるサミル様は変わられました。

「即位される前はお優しかったのに、どうして……」

 廊下を一人歩くわたくしは王城で陛下にお会いするたびに感じてしまう寂しさに胸を締め付けられます。アリス様の近況を常に報告しろと命じられたのは陛下御自身なのになぜ耳を傾けてくれないのですか。

「――陛下にとって、わたくしはなんなのでしょうね」

 つい口にしてしまう言葉に涙がこぼれそうになります。アリス様の境遇と重ねるのは間違っていると分かっていても、陛下とお会いするたびに国を追われ異国に地で過ごすアリス様は頼もしい方なのだと実感してしまいます。


 ――エーリカ


「……今日はまだでしたね」

 背後からするわたくしを呼び止める声に身体が強張ります。声の主はレーヴェン公爵。わたくしの実の父親であり、陛下の右腕として宰相の地位にある貴族です。

「エーリカ」

「……はい」

「私の娘でありながらまた失態とは」

「申し訳ありません。父上」

「部屋まで来るんだ。話はそれからだ」

 ああ。今日もまた増えるんだ。さすがにアリス様も気付かれてしまうのでは。そんな不安に怯えながら父上の後を付いて行くわたくしに逃げると言う選択肢はありませんでした。

「エーリカ」

「……いま参ります」

 アリス様。わたくしはあなたが羨ましいです。いつか、あなたのように自由になりたいです。

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